第16話 結衣の独白
井野川結衣、私は全てに置いて鈍いと言う自覚がある。
人よりも勉強はできないし運動もできない。
だから毎日のように見下されてバカにされて来た。
でも、それが役目だと私は思っていた。
誰よりも努力して勉強しても、それでようやく人並みになる。
兵器は人間と比べて全ての面に置いて高水準だ。
記憶力や運動力も全てだ。
なのに、私は兵器と比べて人間に近いステータスなのだ。
私は誰かの下にいる事で上になる人達が優越感に浸れる。
それでその人達のモチベが上がるのならそれでも良かった。
だけど、そうやって思っていたある日に龍虎ちゃんと出会った。
彼女は私にとっては光そのものだった。
私の生き方が間違っていると、バカげていると真正面から言ってくれたのだ。
そんな事ないって言う考えを持ちながらも、心の奥底ではその言葉が嬉しかった。
彼女は私の憧れであり目標でもある。
ドン臭くて無能な私を友だと言ってくれた最初で最後の友達。
でもそれも違った。
軍人として正式に兵器の力を振るう時になった今、私の事を友達のように扱ってくれる人が一人増えたのだ。
それだけじゃない。
その人は少し歳上なのだ。
しかも、救世世代と呼ばられた兵器の中でも高品質が多い世代の人達と肩を並べる程に優秀。
そんな人が私の力を信じてくれると言ってくれたんだ。
とても嬉しくて暖かい言葉。
龍虎ちゃん以外がくれた私と言う存在を自覚して認めてくれた人。
私は龍虎ちゃんの腰巾着だ。
常に後ろに付きまとって、一人に成らないようにしていた。
それを龍虎ちゃんは認めてくれていた。
「ふぅ」
私は龍虎ちゃんが大好きだ。
人の下でバカにされる事で存在を保っいた私を普通の人として扱ってくれた龍虎ちゃんが。
恩返しがしたい。ずっと思って来た。
そして今がその時だ。
対象は大型のデスワーム型のウンゲテューム。
地中に潜って戦う厄介なタイプだが、今は事情が違い空に居る。
皮膚が柔らかく簡単に貫く事は可能。
しかし、体の大きさからコアの位置が分からず機動力も高いので私の攻撃を認識されると躱される。
それが分かっている龍虎ちゃんと奏音さんは私の弾丸を信用して当てやすい位置に固定しようとしている。
狙いは相手の体を一直線に貫くようにする事。
つまり、こっちに口を向けた時に放つのだ。
弱点の位置が分からない場合は幅広く相手に攻撃を与える。
学校でも習う常識的な知識。
しかし、それを実際に行うのはとても難しい。
狙いが大きくても僅かなズレで外れる。
「頑張って」
集中して膨大のエネルギーを弾丸形成に使う。
純粋なエネルギーの塊は火力と速度を上げてくれる。
ウンゲテュームの攻撃方法は尻尾、口からのエネルギー咆、体から光のレーザーを放射。
主にそれらだ。
後は大きな図体を利用した体当たり。
それが飛行能力と相まって強力である。
体が柔らかいので打撃の攻撃は衝撃がいなされて意味がない。
だから龍虎ちゃんは苦手な手刀で攻撃している。
しかし、龍虎ちゃん達の与えるダメージと相手の再生能力だと、後者が上である。
一気に大ダメージを与えないと戦況は変わらない。
私にできる事は龍虎ちゃん達を信じてエネルギーを弾丸に込める事。
「速い⋯⋯」
徐々に戦闘が加速する。
速すぎると私の胴体視力では追えなくなる。
私は鈍い。自慢は狙撃と視力の良さたけだ。
そんな狙撃技術も最新では自信がない。
最初の訓練の時に龍虎ちゃんは独断行動をした。私は他部隊と混ざって実戦訓練を行っていた。
その時に何回も外したのだ。
動く的に当てるのは苦手だ。見えなくなると焦り、余計に当たらない。
一瞬止まっても、そのタイミングで撃てるか分からない。
今のウンゲテュームに明確なダメージを与えられるのは私だと言う事は理解している。
奏音さんの浅い剣と銃の攻撃、龍虎ちゃんの浅い手刀の攻撃。
光と光が交差させながら戦っているスコープ越しの戦闘。
風が私の黒髪を揺らす。短いから目には入らない。
引き金に置いている指が震えて来る。
冷や汗が額から流れて来る。
時間が経てば経つほどに焦りが大きくなっていく。
もう撃ちたい。撃って楽になりたい。
そう考えてしまう。
でも、それじゃダメだ。
第一、この状態では二人のどちらかに当たる可能性もある。
「でもっ」
しかしながら、そろそろ弾丸に込めれるエネルギーが限界に来た。
これ以上込めると爆発してしまう。そう思うほどには込めた。
後は撃つタイミングだ。
⋯⋯そんなの未熟な私が分かる訳では無い。
私は弱いから龍虎ちゃんが必要だった。
龍虎ちゃんの存在が私をここまで来させた。
だけど、結局は一人じゃ何もできない無能なんだ。
誰かの引き立て役が私にふさわしい。
なのに、今のメイン火力はこの私である。⋯⋯引き立て役ではない。
「弱気になっちゃダメだ! 結衣、頑張れっ! 京都奪還の為に頑張れっ! 祖先の故郷を奪還するのが私の夢だろっ!」
龍虎ちゃんが言っていた。
困った時はとにかく気合いだと!
踏ん張れ! 頑張れ! 良く見て、良く考えろ!
私は無能だが無力じゃない。
私は兵器だ。私は自分のやるべき事を行う。
他の事は考えなくて良い。
ただ、目の前の気持ち悪いデスワームのウンゲテュームに重たい一撃を与えれば良いのだ。
「⋯⋯ッ!」
一瞬、こちらにウンゲテュームの口が開いた状態で向いた。
そして龍虎ちゃんと奏音さんの攻撃で動きが止まる。
放つタイミングはここだ。
「いっけええええええ!」
私は出せる力を全て込めて気迫と共に放った。
蒼き閃光を太陽が照らすこの場を蒼く色付ながら一直線に進む。
その速度は音速へと到達している。
優秀な兵器でも簡単には避けれない速度だ。
「嘘、でしょ」
しかし、ウンゲテュームが怯んだ瞬間に撃つのでは遅かった。
すぐに動けるようになり、回避された。
弾丸は宇宙へと向かって行き、雲にクレーターを作って消えて行った。
『ちくしょう!』
『もっと強く攻撃するべきだった!』
龍虎ちゃんと奏音さんの声がインカム越しから聞こえて来る。
奏音さんは優しい。
敢えて自分に非があるように言っている。
しかし全然違う。
遠くから客観的に見ていた私だから分かる。
同時攻撃だから龍虎ちゃんの力に合わせて手加減していた。
そして、外れたのは私の実力不足なだけだ。
止まった瞬間ではなく、止まる瞬間を予測して撃つべきだったんだ。
認識してから撃っては遅すぎた。
私には無理だったんだ。
やっぱり、私は龍虎ちゃんの後ろに引っ付く腰巾着がちょうど良かったんだ。
誰かの下にいて自尊心を向上させる道具でちょうど良かったんだ。
「ごめんなさい」
ただ、それしか言えなかった。
『まだエネルギーは残ってるだろ! 次に備えろ!』
奏音さんの怒声が聞こえて来る。
「でも、私にはできません」
『諦めるな! 一つ二つのミスなんて誰にでもある! だから諦めるな! 下を見るな! 相手は常に上に居る! ⋯⋯覚えておけ、私も、龍虎も結衣を信じている! 君を信じている、信頼している私達を信じろ! そして撃てっ!』
「⋯⋯」
『自分の腕が信用できないなら、自分の腕を信用してくれる人を信用しろ! 失敗は成長の種だ! だから、だから諦めるな!』
「⋯⋯はい! 龍虎ちゃん、奏音さん、私にもう一度チャンスをください!」
『『行くぞっ!』』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます