第15話 下級一番隊

 どんな選択肢が正しいかなんてのは無い。

 ただ未熟な龍虎は最善の選択肢ができなかった。

 違うかもしれない。まだ、私の力が信用されてないからかもしれない。

 人殺しが外道行為なのは十分分かっている事だ。


 だが、それでもウンゲテュームに食われるよりかは破壊して吹き飛ばす方が良かった。

 私ならそれができた。

 しかし、龍虎の若い心がそれを否定して私を止めた。

 その結果今の状態が起こっている。


 未来なんて誰にも分からない。

 だけど、予測はできる。

 翼を広げて空へと飛び立つデスワームを見ながら、考える。

 この飛行形態の情報が他のウンゲテュームに伝染したら、日本は終わる。


 だがらそれを止める。

 それがこの下級一番隊の役目だ。

 私の責務だ。


「制限時間は三十分だ。それまでに倒せなければ私達の負け。倒したら勝ちだ」


「分かった。結衣、あそこの高台でサポートを頼む。インカムは常時接続状態で」


「うん」


 空飛ぶこの場所から落下した。

 地面にクレーターを作りながら着地して高台まで走った。


「福⋯⋯奏音」


「お? 何かな?」


「アタシは弱い。だから、サポート頼む」


「素直だねぇ。私は諸事情により本気は出せない。二十分もしたら増援が確実に来る。だから、それまで相手に地面を潜らせない事だ」


「分かった!」


 相手は元々地中を移動する。

 私達はそれができないので、入られたら確実に負けだ。

 相手は飛んだ。だからそのままをキープする。


 私は空飛ぶ剣を三十本顕現させて放った。

 この場所を足場に高く跳ぶ龍虎はさらに剣を足場に加速してワームへと接近する。


「魂武装、水拳!」


 エネルギーで水を形成して殴る。

 相手に波紋状の衝撃を与え、水圧でさらにダメージを加速させた。

 しかし、そんなのはなんの意味も成さない。

 龍虎は尻尾で軽々しく弾かれた。


「ちぃ!」


 地面に回転しながら着地して周囲の地形を破壊する。

 大した攻撃力は無いようだけど、図体がでかい。

 しかも体が柔らかいせいで衝撃がいなされていた。


「行け」


 私は閃光のような剣を高速で放った。

 しかし、その全てを回転だけで弾かれた。

 そのまま口にエネルギーを集中させる。


「ブレイクナックル!」


 地面を抉る力で跳躍してウンゲテュームの顎を殴った。

 しかし、柔らかい肌に沈むだけで相手にダメージが与えられない。


「ッ!」


 脂肪が厚いようだ。

 エネルギーを溜めている時は動けないようで、龍虎はその間に相手の体に登った。

 そのまま上で連撃を繰り出すが、一切ダメージが無いようだった。

 私も剣を放っているが、ダメージが与えられない。


『行きます!』


 インカムから結衣の声が掛かる。

 それが合図となり、鋭い炎の弾丸がウンゲテュームの柔らかい皮膚を貫いて攻撃を中断させた。

 そして龍虎は手刀を作り出す。


「ふぅ。チャクラソード!」


 エネルギーの塊で剣のように伸ばして浅く皮膚を切り裂いた。

 しかし、結衣の攻撃も龍虎の攻撃もすぐに再生して終わる。

 グルンと高速で回転して龍虎が私目掛けて吹き飛ばされた。


「と」


「助かった」


 それをキャッチした。


「ッ!」


 体が軋む。

 簡単にキャッチできたが、かなりの力があった。

 それだけの速度で吹き飛ばしたようだ。


「だいぶ分析できたな。龍虎は炎の拳作れるか?」


「行けるぞ!」


「なら行け!」


 私は龍虎を二本の剣を使って突き飛ばした。

 相手よりも上空を奪い取り、体の向きを調節して空気を蹴った。

 加速してその勢いを攻撃に乗せる。


「火拳の手刀!」


 火の剣をエネルギーで作り出して、それを相手の体に突き刺した。

 相手の肉体に手が埋まってエネルギーが分散する。

 しかも、あれは脂肪ではなく筋肉のようで、龍虎が脱出できないでいた。


「龍虎!」


『打ちます!』


 炎の弾丸が放たれるが、ウンゲテュームはそれを察知して体を動かし躱す。

 私は剣を固めて相手の体を切り裂いて行く。

 浅い攻撃しか与えられてないが、龍虎の脱出はできた。


「なんだよ。強すぎる」


「まだ相手は本気を出てない」


 良かった。

 相手は大型の中でも弱い部類だ。普通なら今の私の力では何もしなくても攻撃が弾かれる。

 再生能力は普通。

 図体がでかくて柔らかい。

 それ以外には特に特徴はないように思える。


『ウィリリリリリ!』


 ウンゲテュームが咆哮して、体から光のエネルギーを放った。

 それは噴水のように放出されたにも関わらず、屈折してこちらに向かって来た。


「解除」


 剣を消して盾を顕現させた。

 それを曲がって迫って来る光との間に運んで防いだ。


「うぐっ」


 重たい衝撃が体全身に掛かる。

 龍虎が慌てて支えてくれるが、重みが和らがない。


 かなりの攻撃だ。

 昔の私なら、このくらいの攻撃なんともないのに。

 いや、本気を出せばこんな奴私一人でも勝てる。


 そうだよ。なんで周りに気を使ってこんな痛みを感じないといけない。

 さっさと全力を出せば勝てるんだ。

 それだけじゃない。あの人間二人を犠牲にすればこんなに悩む必要はなかった。


『絶対に戦わないで』


 レイっちの言葉が頭に過ぎる。


 そうだよな。

 一人の力じゃ結局意味が無い。

 仲間との協力が必要不可欠なんだ。だから、私も先輩ズラはやめよう。

 龍虎がこの時だけは私を頼ったんだ。だから、私も全力でそれに答える。


「龍虎、エネルギーを貸してくれ」


「え? そんな必要は⋯⋯」


「そのまま操作を手伝え! 私一人じゃ、耐えられない」


 全方位に盾を顕現して防いでいるが、そろそろやばい。

 龍虎が手を貸してくれたらなんとかなる。


「分かった!」


 龍虎が私の背中に手を押し当てる。

 そのままエネルギーを流し込んで来る。

 暖かいエネルギーが背中から体全体に広がる。

 そして、攻撃に震えていた盾が安定する。


「聞こえるか結衣」


『はい』


「集中するんだ。わざわざ属性攻撃にする必要は無い。私が保証する。救世兵器の殆どから信頼を寄せられている私が保証するっ! お前の強みはエネルギー量だ! それを自覚して集中するんだ! 炎の弾丸にこだわる必要は無い。ただ純粋なエネルギーの塊の弾丸で良い。そして、鋭く速く撃て! 相手が認識できない程の!」


『分かりました! ふぅ。弾丸形成』


 光の雨が収まるのと同時に盾を解除。

 そのまま複数の銃口を出現する。


「撃てっ!」


 そしてエネルギーの弾丸を高速で生成して放つ。

 それは相手の体を軽々貫く。

 龍虎の手助けありきの力だ。しかし、穴が空いてもすぐに再生する。


「コアどこだよ!」


「動く系かもね。龍虎、弾丸を止めたら動け。結衣が撃ちやすい位置に固定する」


「ああ! 奏音は相手が下がったら上げろよ!」


「もちろん」

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