第14話 ありえてはダメな事例

「それじゃ」


「うん。バイバイ」


 完全に別れを告げて、空先輩の魂武装に乗って帰る。

 高速道路を駆けて一時間、結衣がゆっくりと指を空に向けた。

 鳥かと思い私も空を見上げる。


「⋯⋯は?」


「奏音さん?」


「嘘、でしょ」


 私が見た物、それは飛行機雲を一直線に作る戦闘機だった。

 歴史の資料でしか見た事のない人間を殺すための兵器。

 人が操り、そして国を奪う為に作られた道具。

 本来、日本には無い存在。化学の結晶。


「なんで、どうして!」


 日本ではまず作れない。作れたとしても動かせない。

 なのに、そんな物が日本の上空を飛んでいる。

 外国からこの場所まで飛んで来た?

 そんな事がありえるのか?

 ありえるのなら、海のウンゲテュームはどうした?

 どうやって倒した?


「⋯⋯希望か絶望か」


 もしもウンゲテュームを倒す⋯⋯しかも海の奴らを。

 そんな兵器を開発していたのなら、日本の奪還は夢じゃない。


 反対に、ただ海を偶然にも渡れたのなら最悪だ。

 もしもアレをウンゲテュームに捕食されたら、奴らが飛行可能になる。

 空を飛んで戦える奴らは少ない。空を奪われたら、もう私達は死ぬしかない。


「空先輩。空に戦闘機が飛んでます」


「⋯⋯ッ! 結構大きい音だと思ったけど、そうなんだね。報告する為に本気出す。奏音は?」


「私は操縦者に接触します」


「うん」


「おい待て! 福田、お前の隊長はこのアタシだ! だからアタシも行く」


「あぁ。その方が良いかもしれない。結衣、君はどうする? 無理強いはしない。私達が行くから行くと言う考えは捨てろ。自分の意思で決めろ」


「⋯⋯わ、私は行きます! 私も兵器ですっ!」


「うしっ! すみません。アタシ達は行きます」


「うん。奏音は頼んだ」


 あれぇ? なんで私がお世話される感じになってるのぉ?


 と、今は考えている暇はない。

 空先輩の本気の速度を出した場合、龍虎と結衣は耐えられない。

 そのくらいに速いのだ。


「さっさと降りて上行くぞ。魂武装!」


「「ッ!」」


 龍虎と結衣が驚愕する。

 息を詰まらせたので驚きようが分かる。

 私が出したのは空先輩の魂武装と全く同じ。

 性能は劣るが効果は殆ど同じである。空先輩は私の力を知っているので驚かない。


「驚いている暇はないよ。そろそろ全速力が出るから、速く乗って」


 龍虎はジャンプで跳び移ったが、結衣はしどろもどろする。

 姫様抱っこで担ぎあげ、そのまま私も飛び乗る。

 エネルギー操作の特訓も必要だが、素の運動能力訓練も必要だな。


「ち、違うんです。ただ速い物から速い物へと跳ぶのが怖いだけで、運動神経が悪いとか、そんなんじゃないです」


「可愛い言い訳だね。兵器として産まれたらある程度の身体能力は持ってるよ。人には向き不向きがある。飛ぶよ! 空先輩もよろしくです」


「うん。⋯⋯次元加速」


 刹那、青い光を残して空先輩は消えた。

 私は魂武装を操作して戦闘機へと近づく。

 かなりの速度だが、私達のような兵器少女が出せる速度と比べたら遅い。

 直ぐに並ぶ事は出来た。


「聞こえるか! 今すぐ下がれ! もうすぐ怪物域に入るんだぞ!」


 ⋯⋯ダメだ聞こえてない。

 そりゃそうか。日本語が外国人に伝わる訳が無い。

 二人が乗っており、後部座席に座っている人が私達を見ている。


「他国語なんてやった事が無いっ!」


 ちっくしょうどうすりゃ良いんだよ!


『お前達はどこから来た?』


「龍虎?」


「龍虎ちゃん、技名考える時に色んな世界の言葉を覚えたんですよ。まさか役に立つとは思っていませんでした⋯⋯」


「はは。ありがたい」


 そして操縦者と龍虎の会話が続く。

 何語は分からんが、通じているようだ。

 進んでいると、段々と龍虎が苛立ち初めて、相手方は中指を立て始めた。


「⋯⋯なぁにが起こってんのよ」


 そのまま戦闘機は加速した。

 私達の一存では墜落させる事も許されない。

 ⋯⋯あの好奇心のような目。良くないケースだよなぁ。


「龍虎なんだって?」


「この島を沈めて我らアメリカの領地とする、らしいぞ」


「沈める⋯⋯か」


 離れていく戦闘機を見ながら私は一つの決断に辿り着く。

 どうやって海を渡って来たか知らんが、男な時点で兵器じゃない。

 戦闘機にもウンゲテュームの気配は感じない。

 つまり、ウンゲテュームに打点が無いくせにこの日本に来ている。


「今の日本は昔程甘くない」


「福田⋯⋯」


「どうする隊長さん。落とすか?」


「いや。ダメだろ。具体的な目標が明らかにはなってない。⋯⋯捕まえる事は出来るか? 戦闘機の回収もした方が良いだろ」


「無傷でアレを完全回収って難しなぁ。でも、やるしかないな。⋯⋯隊長命令って事で良い?」


「ああ」


 力強く頷く龍虎。


「龍虎、結衣をしっかり捕まえてろよ!」


 私はエネルギーを武装へと流し込んで加速した。

 戦闘機に向かって。

 目標はあのまま回収する。戦闘機の解剖と分析が出来る状態で。

 中の人達には尋問を行う。本当の目的を聞き出す。

 どんな覚悟で日本に入ったのか聞いてやらないとな。


「ん? 少し前方に何か動きましたよ」


「え? どこ?」


「ほら、地面の⋯⋯」


「地面?」


 龍虎が地面を覗き込む。


「ッ!」


 私は少しだが、近くにドローン型のウンゲテュームを発見した。

 あれは小型だけしかなく、他の奴らに飛行能力を与えれる程の性能は無い。

 あるのは情報伝達。

 そんな奴がこの場所に居た。


「まずい。もっと加速するっ!」


「ダメだ、間に合わない」


 龍虎の呟いた言葉と共に、地面から巨大のミミズのようなウンゲテュームが伸びて来た。

 デスワームと言う奴だろう。

 それが戦闘機の目の前に伸びた。


「奴ら、アレを狙ってやがる!」


 ダメだ。撃ち落とすしかもう選択肢はないだろ。

 また、歴史書に載っている空飛ぶウンゲテュームを生み出す訳のはいかない。

 やるしか、ない。


 それで中の人間が死のうとも、仕方ない事だ。

 勝手に日本に入って来て、怪物域に入ったのはあいつらだ。

 人殺しは経験ないけど、この二人にやされる訳にはいかない。

 殺る! 殺るしかないんだ!


「ダメだ!」


「ッ!」


 龍虎に腕を掴まれた。

 そして、目の前では戦闘機から大量の弾丸がウンゲテュームに放たれた。

 あんなの、なんの意味もないのに。


 私が出せる最高速度では間に合わない。

 攻撃も許されない。人殺しはダメだと、私に目で訴えて来る龍虎が居る。

 だけど、⋯⋯クソっ!

 優柔不断な自分が嫌になる。弱い、弱くなった自分が嫌になる。


 だからこそ、目の前で起こっている惨劇に近づきながら見る事しか出来ない。

 弾丸を弾き返して、戦闘機を丸呑みにするウンゲテューム。

 最後に、操縦者の二人の目が、こちらに向いて来ていた。


 助けてくれと、必死の形相で訴えているその目を。

 その目は、私達の心に深く深く、深淵に痛みを刻んだ。

 兵器以外の人が死んで行く光景は、私も初めてだ。


「ごめん」


 そして、私達三人は、目の前で二人の男が食わて行く光景に目を背けた。

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