第17話 龍虎の憂鬱

 アタシの判断は正しかったのだろうか。

 目の前の空飛ぶ化け物と対峙しながらそんな事を考える。

 アタシの攻撃はすぐに再生されて、敵には相手にされてない。

 どれだけエネルギーを練った攻撃を放っても意味が無い。


 戦闘機を捕食された時にこいつは進化した。

 その情報が他のウンゲテュームに流れるのはおよそ三十分。

 空を飛ぶ相手にアタシはとても不利だった。

 打撃系の攻撃は軽減される。


 圧倒的にアタシは不利。

 だからこそ戦いながら考えてしまう。

 あの時に奏音に命じて戦闘機を粉砕して貰えば良かったのではないかと。

 回収などと言う甘い考えではなく、非道で合理的な判断をした方が良かったのではないかと。


 だが、それを行った場合奏音は人殺しと言う事になってしまう。

 アタシは奏音の態度などは好きじゃない。だけど嫌いでもない。

 それだけの力は示されたし、周りが証明していた。

 だけど、そんな強い奏音の前に今はアタシの仲間なんだ。


 アタシは優秀だったから部隊長に選ばれる絶対的な自信はあった。

 そして仲間は大切にすると心に決めていた。

 確かに最初は最弱兵器がアタシの仲間と言う事実にいらだちを覚えた。

 アタシは優秀なんだから優秀な仲間が必要だと。


 結衣はダチだから同じ仲間で嬉しかったけど、内心では背中を任せるには不安だった。

 だけど、その考えも全てアタシがバカだったから思った事。

 アタシの事を心の底から信用して戦ってくれる仲間程、強いモノはない。

 今更ながらそれに気づいた。


「はぁ!」


 地面からエネルギーの塊を放つ。

 気功砲である。

 しかし、それも相手の柔らかい体にはダメージを与えるには至らない。

 全ての攻撃や衝撃は軽減され消滅してしまう。

 だからこそ斬撃攻撃で戦っているのだが、慣れない攻撃故に大したダメージにはならない。

 そしてすぐに再生される。


「ちっ!」


 もしもあの時に選択肢を変えていたらどうなったんだろうか。

 きっと奏音は人を殺した事に後悔する事になるだろう。

 アタシは仲間にその選択をさせてしまった事に自問自答を繰り返すかもしれない。

 奏音は周りから怪訝に扱われるかもしれない。


 今後の人生に大きく関わる事だろう。

 本当ならもっと冷静にきちんと考えるべきだったのかもしれない。

 そんなは時間はなかった。


「はぁはぁ」


 無駄な思考がずっと回り続けてしまう。

 今は戦いに集中しないといけないのに。


「龍虎!」


「ッ!」


 そんな油断が生み出したのか、背後から迫って来た小型のウンゲテュームに気づかなかった。

 ワニのようなウンゲテュームは鋼を簡単に砕くだろう顎を開いた。


「ちくしょう」


 回避は間に合わない。

 口を開いた時点で既に射程圏内。

 こんな状態で回避行動をとっても手遅れだ。

 こんな、こんなところでアタシは⋯⋯。


「さっさと避けろバカっ!」


「ふげっ!」


 しかし、奏音にドロップキックされて牙から逃れる事ができた。

 すぐに振り返ると、赤い鮮血が空中に舞っていた。

 アタシに痛みはない。奏音の血だとすぐに分かる。


「グタグタ変な事考えるな。ここは敵の領地だぞ。過去を悔やむなとは言わない。でも、今はその時じゃない! 敵は目の前だ! 過去にも未来にも存在しない、今戦うべき敵は目の前なんだ! 過去も未来も今は考えるな。考えるのは、敵の事だけだ!」


 右手を切断されても尚、泣き叫ぶ事はしないでワニ型のウンゲテュームを踵落としで粉砕した。


「み、右手」


 アタシのミスで奏音は右腕を失った。

 アタシは、なにをしているのだろうか。

 アタシは一番隊の隊長だと言うのに仲間に助けられるなんて、情けない。


「目を背けるな。結衣は前を向いているぞ。お前が向かずにどうする? 敵は上だぞ!」


「でも、右腕が⋯⋯」


「こんなんすぐ治る!」


「なっ!」


 奏音は自分の右腕を手に持って切断面にくっ付けた。

 するとすぐに傷口が塞がって骨なども繋がったらしい。

 右手を動かして無事をしらしてくれる。

 こいつの力が具体的に分からないから聞き出したい気持ちはある。

 でも、こいつの言う通り今は敵に集中するべきだ。


「龍虎、あいつは一度結衣の弾丸を見た。そして警戒している。さっきの位置で怯ませるのは容易な事じゃないぞ」


「ああ。分かった」


 斬撃での攻撃は通用するが大したダメージは与えられない。

 打撃の攻撃は柔らかい体で軽減されてダメージを与えられない。

 ならばどうするか?

 衝撃が分散されずに一点に集中された、貫くような打撃を与えれば良い。

 体を貫くような鋭利な攻撃ならダメージを与えられる事は銃弾で証明済みだ。


「次の攻撃くるぞ」


「奏音、行くぞ」


 相手は太陽へと回転しながら飛び立ち、口からレーザーの雨を降らす。

 奏音が盾を形成したが、それを解除するように促す。


「躱す!」


「了解」


 奏音は空を飛んで光の柱を避けて行く。

 その熱は簡単に地面を焼き貫く程だ。生身で受けたら火傷じゃ済まない。

 アタシは前方に駆けて跳躍する。

 そのまま空気を蹴って高速で空を駆け回って避けて行く。


 太陽の光がある朝のこの場所で光の攻撃は簡単に見えない。

 だから第六感、勘で避ける。

 アタシがどう動いたら相手はどのように攻撃してくるかを『予測』する。


 相手は賢い化け物だが、別に戦い慣れている訳では無い。

 相手の動きを先回りして攻撃すると言う事はあまりしない。

 決まった攻撃パターンで行動するだけだ。

 だからこそ、それを予測して躱す事は可能だ。


「シィ!」


 光を避け回り、ウンゲテュームに向かってどんどん高度を上げていく。

 体のエネルギーを右の拳に固めて、ガントレットが蒼く輝きを放つ。

 一撃を重く、そして速く。

 衝撃が体全体に回らないように、一点に集中する。


 それがアタシが一番出せる高火力の攻撃な筈だ。


 ガントレットから青い炎が燃え上がる。

 回転を止めて光のレーザーを止めたウンゲテュームはアタシに向き直る。

 そのまま体全体を発光して突撃して来る。


「援護するよ!」


 長い杭がウンゲテュームの体を貫いたりして行動をキャンセルさせる。

 そのままアタシは相手の上空を取った。

 空気を蹴り飛ばして加速落下する。

 体重などを乗せた最大の力。


 ぶっつけ本番の衝撃集中の打撃攻撃。

 成功するかは不明だが、不安は無い。

 それだけの自信がアタシにはある。


「パイルバンカー!」


 ようやく、大きなダメージを与えたと言う自覚が持てる攻撃を与えた気がした。

 鈍い衝撃音が響き、相手の体が背中からくの字で曲がった。

 しかし、すぐに立て直してアタシの上に飛んだ。

 そのまま尻尾を地面に向けて高速で回転しだす。


「まさか!」


 奏音が盾を全力で生成して地面とウンゲテュームの間に持って行く。

 そして、きっとそれは正しくてウンゲテュームはドリルのように地面に向かって推進した。

 盾に衝突して大量の火花を生み出した。

 だが、一枚一枚貫かれて行く。


「ちっきしょう!」


 奏音の方を見ると盾を維持するので精一杯の様子だった。

 アタシは他の事は考えずに盾の下に行き、全てを砕いたウンゲテュームと対峙する。

 両手を広げて、回転するウンゲテュームを受け止めた。

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