第18話 血を吸って回復

「あああああああああ!」


「龍虎!」


 ドリルのように尻尾から地面へと向かって突き進んだウンゲテューム。

 私は盾を使ってそれを止めようとしたが全て貫かれた。

 危険だと判断した龍虎はその身を呈して防いでくれているが、どれほど持つか。


「うぅ」


 目眩がする。

 まだ十分も戦闘しなないってのに⋯⋯私はそこまで弱くなったのか?

 意識を切らす訳にはいかない。


「結衣、撃て!」


『⋯⋯撃ちます!』


 蒼い閃光が回転しているウンゲテュームに衝突する。

 激しい光を放ちながら大量の火花を散らす。

 たが、その体は貫けずに弾丸は留まっている。

 その光景に息を短く悲しげに吐く音がインカム越しに聞こえて来た。


「魂武装」


 私は対物ライフルを顕現させた。

 懐かしい機械的な狙撃銃を見ながらエネルギーを銃口に溜める。

 紅色の光が銃口の周りに散らばり、弾丸を形成して行く。

 狙いを定めて引き金を引いて放つ。


 紅き弾丸が蒼き弾丸と共に回転するウンゲテュームに衝突する。

 ジリジリと言う音と火花を出しながら回転力を抑えて行く。


「うっりゃああああああ!」


 衰えた回転力を感じた龍虎は力を込めてウンゲテュームを押し上げた。

 空中に再び停止したウンゲテュームはエネルギーを口に溜めて放出の準備をする。

 流石に防ぐ程の力は私達には既にない。


「龍虎動けるか」


 ガントレットが焦げて焼けるような臭いと音を出していた。

 ついでにもくもくと湯気も出ている。

 龍虎は口から軽く血を出していたが、私が見えないように角度を調節して拭っていた。

 痩せ我慢だと分かっているが、龍虎の思いを汲んで無事である風に見ておく。


「余裕だ」


「あの巨大を弾き返したのは良くやったよ。タイミングを見て避けるぞ」


「勿論だ!」


 弱い部類だと言えど相手は大型だ。

 本当に弾き返し事は凄い事である。

 ウンゲテュームから光の柱が伸びる。

 そのエネルギーの柱は地面にクレーターを作り、そのまま広がって周囲の瓦礫なども消滅させた。


 私達は互いに反対の方向へと逃げてなんとかその柱を避ける事に成功した。

 次なる攻撃は再びウンゲテュームから光の雨が降り注ぐ。


 再び屈折してくるのは確定だろう。

 既に体力も限界に近づいて来ている。避けるのは簡単じゃない。

 かと言って防ぐのも無理だ。


「ほんと、辛いよな」


 泣き言言っても何も変わらないのでさっさと行動する事にする。

 地面に掌を向けて空先輩の魂武装を顕現させれば逃げられる。


「ごふ」


 しかし、それを私の体が許さなかった。

 口から血が大量に出て来る。


「なんで、動かないんだよ」


 膝から崩れ落ちて体が痙攣する。

 指一本も動かない。

 武装の反動でもなんでもない。私の限界が来たのだ。

 このままだと死んでしまう。まだ戦えるだろうに。

 ⋯⋯やばいけど、本気出すか?

 そうすれば少しだけは動けるはずだ。


 動けない私に手加減なしで迫ってくる光の雨。

 とても眩しく視界を真っ白に染め上げて来る。

 私はまだこんなところで終わってはダメだ。

 だから、一瞬だけ本気を出す。


「奏音!」


「⋯⋯」


「てめぇどうしたんだ!」


 自分もきついだろうに、私を担ぎ上げて光の雨から脱出させてくれる。

 瓦礫などは消滅して壁となる物がない。

 だから私をどこかに置くこともできずに背負って走り続けている。

 少し休まり、私は声が出せるようになった。


「面目ない」


「武装出す度に体力消耗すんだろ? 結衣への攻撃を防いだりあんなに盾出したり⋯⋯お前に手を貸した時に感じたよ。あの武装全部の維持は相当辛いってな。だから謝るな」


「気づていたかぁ。結衣のところまで私を投げてくれ」


「そんなことしたら⋯⋯」


「そうじゃなきゃダメなんだよ。それにお前も限界近いだろ」


 私を背負っている力が段々と弱くなっているのを感じる。

 光の攻撃すら簡単には躱せずにギリギリだ。

 あのウンゲテュームが戦いに慣れ始めたら躱せなくなる。

 だからこそ、さっさと私を結衣の元に連れて行く必要がある。

 エネルギーが必要だ。


「わかった。吹き飛ばすから、受け身取れよ!」


「ああ」


 無理かもしれないけど。

 やらないと死ぬので善処する。


 龍虎は全身にエネルギーを流して回転し、強化した身体能力で私を結衣の元へも投げ飛ばした。

 浮遊感に包み込まれて空を舞う。


「結衣、龍虎を援護してくれ。ウンゲテュームを撃て!」


『はい!』


 徐々に浮遊感は終わり重力を感じるようになる。

 するとそのまま自由落下を始める。

 衝撃が来る部分にエネルギーを集中させ、衝突と同時に放出して落下ダメージを軽減する。

 落ちて来た事に結衣が一瞬驚いたが、インカムで話を聞いていたので落ち着いてはいる。


「結衣、エネルギーちょうだい」


「わ、私人にエネルギーをあげるとか、そんなのできません!」


「まじかよ」


「ど、どうすればいいですか?」


「⋯⋯怒らない?」


「勿論です!」


 私はインカム越しの龍虎に声を掛ける。


「少し時間頼んだ」


『急げよ! こっちはもう避ける事しかできねぇ!』


 それはやばいね。

 攻撃が最大の防御って言うし、本当にまずい。

 手段は選んでいられないけど、結衣に嫌われるやり方なんだよな。

 でも、背に腹はかえられぬとも言う。


「ちとこっち来て」


「はい」


 ああ、純粋な子だなぁ。


 言葉に従って倒れたままの私に寄ってきた。

 ほふく前進でなんとか進み、結衣の足に手を置く。

 そのまま力を込めて握る。柔らかい。

 そこまでの力は出せないので、結衣が痛がる素振りはなかった。


「本当にごめんね」


「ん? ひゃっ!」


 そのままズボンを下ろした。

 結衣が顔を真っ赤にしてスボンを上げそうになるが、なんとか耐えてくれている。

 下着には目を向けず、スベスベで柔らかく美味しそうな太ももに目を向ける。

 若い故の綺麗な肌に私は歯を立てた。


「え」


「カプ」


 そのまま被り着いて血を吸っていく。

 兵器のエネルギーは血に濃く染み込んでいる。

 つまり、兵器の血を飲めばエネルギー回復は可能になる。

 しかし、デメリットとして吸いすぎると相手が貧血になったり、下手をしたら死に至らしめる。


「う、うぅ」


 結衣は照れくさそうにしている。

 血が無理矢理太ももへと流れて私に吸われている感覚は気味が悪い事この上ないだろう。

 次第に、痛みに悶え初めて顔は赤から青に変わっていく。

 血とエネルギーが同時に他人に奪われるのは本当に気持ちが悪い。


 武装の特性で私も血を吸われる役目をした事があるのだが、本当に辛い。

 その時は肩だったけど、今回は太ももだ。

 単純に私が立てないってのが理由だけど。


 それに血の味がしっかりと感じる。

 生々しい血の味は正直吐きたくなる程に不味い。

 しかし、それで吐き出したら結衣の思いすら無駄にする。

 嫌々でも耐えてくれている結衣の為にも、私は血を吸っていく。

 離すと歯型が太ももにしっかりと痕を作っていた。


「ありがとう」


「ひゃ、ひゃい」


 それでもまだ動けるだろう結衣のエネルギーに感謝する。

 ズボンを上げて再び狙撃銃を構え出す。

 私は後ろから結衣を抱き締めるように同じ狙撃銃の引き金に指を置く。


「奏音さん?」


「このまま援護する。結衣のエネルギー一気に引き出すぞ」


「は、はい!」


「ウンゲテュームと龍虎の動き良く見てろよ」


「はい!」


 そして、銃口に蒼と紅のエネルギーが混じった弾丸が形成されていく。

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