第3話 自称天才は最弱怪物に敗北する

 左腕は動かない。そんな中、ウンゲテュームはアクロバッティクな動きで攻めて来る。

 特攻に合わせて振るう拳は虚しく空を切り、背後を攻撃される。

 しなる鞭のような尻尾は自由自在に動き、上手く動きが見えない。


「らああああああ!」


 大きな瓦礫を登り、それを蹴って落下突進して来るウンゲテュームに合わせて拳を強く固め、突き出す。

 アタシは強い。その思いを拳に乗せる。

 小型程度に遅れを取っていたら、上には上がれない。

 だから、こんなところでへばってらんないんだ。


「なっ」


 タイミングは完璧、きちんと速度もある。

 学校では誰も躱せない。教育者にも躱せない。そんなアタシの拳を、空中に居ながら意図も簡単に避けられた。

 軽やかにスライドステップしながら着地し、肉薄して来る。


「くっ!」


 その速度は瞬き一回分。気づいたら目の前に居る。

 攻撃が来る、そう確信し右腕で重要な部分は守る。


「がっ」


 突進、そう来ると思った。

 だが、奴は冷静だった。最悪と言って良い程に冷静だった。

 油断したつもりは無い。相手が予想外過ぎる動きを連発するのだ。

 鋭い牙で腕が挟まれる。肉に食い込む歯は穴を空け、そこから血を流す。

 新鮮な血は脇へと垂れて行く。


「痛てぇなぁ!」


『ガル』


 右足の蹴り上げを躱され、流れる様に攻撃する踵落としは完全に読まれ、躱された。

 一撃も与えられず、ボコボコと殴られる。


「今度こそっ!」


 背後に周り迫って来る一瞬のタイミング。攻撃を受け続けて掴んだ反撃のチャンス。

 今までの痛みも全てこれで帳消しにする為に突き出す渾身の一撃。

 そのカウンター。

 相手は少しだけ地面から足が浮いている。噛み付いて来る。

 だが、それよりも速く、アタシの拳が奴を、捉えた!


「は?」


 だが、相手は尻尾を地面に叩き付けて高く跳躍した。

 渾身の一撃は空振りに終わり、体重を乗せるために前傾姿勢だった事も相まって、アタシは前から倒れた。

 左肩の血が地面に付着する。

 もしも、もしも左手が使えたら、もっと良い立ち回りが出来たのに。


『ガルっ!』


 尻尾を使ってグルリと向きを変え、空を蹴って迫って来る。

 右手に力を込める。内部のエネルギーを集中させる。


「気功砲!」


 エネルギーの塊を落下して来るウンゲテュームに向かって放った。

 アタシの拳よりも速い気功砲。それは銃弾のスピードと同等だ。


 だが、ウンゲテュームはそれを尻尾で切った。

 切ったのだ。

 兵器としての力、そのエネルギーの塊を高速で放った物を、意図も簡単に。

 それはもう、豆腐を切るよりも簡単に。あっさりと。

 気功砲には自信があった。学校でも、アタシよりもエネルギー操作に長けた人物は居なかった。

 編み出したアタシなりの中距離攻撃。

 なのに、なのにそれが、こんな簡単に終わるのか。


「まだだあぁぁぁぁ!」


 アタシはまだ戦える。諦める訳にはいかない。

 アタシと言う兵器がこんなすぐに諦めたら、ただの人間達は絶望し、死を待つだけに成ってしまう。

 そんなのは嫌だ。絶対に!


 エネルギーをガントレットに集中させ、地面を殴り相手から来るであろう攻撃を避ける。

 左側がガクン、と下がる。しかし、それを気にしている余裕は当然ない。

 だいたい相手の攻撃方法は分かった。だからもう問題ない筈だ。


「はぁああ。行くぞ」


 右手を地面に付けて、加速する体勢を取る。本来なら、両手を地面に付けて、四足歩行の形にするのだが。

 アタシは天才だ。一回見たモノは大抵覚える。

 そう、それが例え、相手の動きだったとしてもだ。

 それがアタシの特異体質。兵器としてのスキル。

 アタシの目は通常よりも発達しており、視力は二桁ある。それだけじゃない。動体視力も並外れているのだ。

 頭脳も高い事から、すぐに相手の動き等を真似出来る。

 ま、これは学校側でも測れなかった、アタシだけが理解出来る力だ。


「試走加速」


 全身に力を溜め、それを一気に解放する。

 それが推進力を生み出し、アタシを加速させる。

 スピードが高まれば、当然拳の威力も上がる。

 ガントレットが青く輝き、オーラが漏れ出る。


「くらえ、これがアタシの魂武装コンソウルだ」


 先程よりも二倍のスピードで肉薄する。お陰様で体全身が軋む様に痛い。

 だが、それだけの力は存在する筈だ。


「はあああああああああ!」


 お前は強い。だから、アタシは負けない。

 強く突き出す拳。空気を振動させ、大地を抉り道を作る。

 土煙が収まり、周囲を見渡せば誰も居ない。


「はぁはぁ。か、勝ったぞ!」


 疲れと痛みが同時に襲って来て、アタシは前のめりで倒れる。

 自分の頭をフル活用した。そうでないと相手の動きの模倣と応用は出来ない。

 兵器としてのエネルギーも半分は使った。回復に丸一日は掛かるだろう。

 小型程度を一体、それで命令違反。


「はは。アタシはバカだなぁ」


 だが、今回は運が悪かった。良いとも言える。

 小型の中では強い相手と戦えたのだ。それは良い経験だ。


 当分体も動きそうにないので、助けを待つ事になる。

 目的地はここなので、当然来るだろう。

 敵は居ないし、作戦はこれで終わりだ。いや、近くの小型を他の部隊は探すか。


『ガル』


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯へ?」


 理解出来なかった。理解したくなかった。

 目の前に、倒せたと思われたウンゲテュームが五体満足で立っている。

 アタシの処理能力は高く、理解したくなくても理解出来てしまう。

 確かに、全てのエネルギーを使った攻撃では無い。

 だが、今のアタシが出せる最高火力なのは間違いない。

 それを⋯⋯耐えた?


 ありえない。

 殴った感覚は実際無かった。エネルギーの集中に寄って神経麻痺が起きて感覚が分からないだけかと思った。

 でも、違ったんだ。現実は残酷だ。

 あの攻撃を、避けられたんだ。


「嘘、だろ」


 コイツ、本当に小型なのか? ウンゲテューム最弱の小型なのか?

 それなのに、アタシを圧倒したと言うのか? ありえない。ありえて良い筈が無い。

 アタシは日本人の希望の兵器だ。化け物共を駆逐し日本を取り戻すのが使命だ。

 戦え! アタシ、戦えよ!


 体が動かない。完全に動かない。

 笑っている。ウンゲテュームが感情を示す様に笑っている。

 それは嘲笑。アタシに向けられる事のなかった、弱者を見下す顔。

 その顔はアタシの恐怖心を呼び起こすには十分すぎた。


『ガル!』


「止めっ」


 アタシの気功砲に似た感じのエネルギー集中を口に溜める。

 ゆっくりと、じっくりと。

 その度に死と言う確実の恐怖がアタシの心臓を潰して行く。

 潰さらても尚、抗う心臓の鼓動はとても速い。


「や⋯⋯」


 そして、エネルギーは一気に放たれた。視界を覆い尽くす緑色のエネルギー光。

 これが、アタシの最後だと、分からせるには十分過ぎる程に、明るかった。

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