第20話 結局重傷者って私だけ

 菊の服装はまさに狩人。

 武器は大きな銀色の弓である。


「⋯⋯」


 矢を形成して強く引っ張る。

 先端には魂すら凍らせる冷気が籠ったエネルギーが集中し始める。


「紗奈、摩耶、広範囲破壊術式構築準備。目標はコアの完全破壊だ。沙也加、あの下級の子を回収するのと全線維持、桜は沙也加の援護」


 五人のチーム。

 紗奈と摩耶と呼ばれた二人は大きな杖の武器である。

 沙也加は高速で龍虎の元へと向かって行き、桜はウンゲテュームへと向かって行く。


「上級七番隊もウンゲテュームと前線で戦って欲しい」


「了解しました! 行くぞお前ら!」


 そして高速で移動をして行く。

 私は黒髪などに戻っており、武器は全て消失していた。

 既に満身創痍である。


「結衣。援護は大丈夫だ。もう私達の勝ちだ」


「はい」


 結衣に支えられながら菊の方を見ている。

 冷たく凍てつくような銀色の瞳は鋭くウンゲテュームを捉えていた。

 限界まで矢にエネルギーを込める。


「一撃で決めるようだな」


 全てのエネルギーを込めた矢は周囲の気温を急速に下げて地面などを凍らせて来る。

 今の私にはとても辛い。

 寒くて周囲の空気も凍って行き、空気の流れが作らず息が吸いにくい。

 結衣が慌ててエネルギーで周囲の空気を温め始める。


世界氷塊の鳥フリーズ・バード


 菊がそう呟くと同時に矢を放った。

 矢が通った場所が氷に変わりながらウンゲテュームに向かっていた。

 その矢は綺麗な鳥への姿形を変えて行く。

 氷の閃光は太く、目を細めなくても簡単に目視可能だ。

 世界の気温が逆転したかと錯覚する程の冷気。


 気がついたウンゲテュームと戦って相手をボロボロにしていた皆はこちらに向かって来る。

 再生すら間に合わず、回避も間に合わない。

 そんな矢がウンゲテュームの体に深い風穴を開ける。

 さらに、そこを中心に氷の柱が完成する。


「⋯⋯凄い」


 大型を、体力を削っていたとは言え、一撃で完全に行動不能にさせた。

 まぁ、その代わり菊はエネルギーを使い切ってその場に倒れるのだが。

 結衣が支えていた。


「助かるよ。紗奈、摩耶、行けるな?」


「「勿論です」」


 大きな杖にはエネルギーが集中していた。

 それを一気に解放して、ウンゲテュームの上へと集まる。


「「砕け散れ、世界崩壊の爆裂エクスプロージョン!」」


 集まったエネルギーが爆裂の柱が地面に向かって下がる。

 ウンゲテュームを呑み込んで完全な塵へと変えて行く。

 それだけでは留まらず、軽々周囲も塵へとして行く。


「相変わず過剰火力だな。地形がボロボロだ」


「奪還した後の整地が大変だね」


 爆裂が収まるとそこには何もなかった。

 範囲内の物は全て灰と化して風に乗って消え去った。

 地面の方は大きなクレーターとなって真っ黒だ。


「帰る」


「空先輩⋯⋯ちょっと、今回は疲れました」


 私がそう言うと、空先輩も軽く微笑んでくれる。

 だが、徐々に青ざめた顔へと変わって行く。

 視界が真っ赤に変わって行く。


「あ、やべ」


 その後は目や耳、そして口から血が大量に出て来る。

 それは滝のように流れて来る。

 そのまま意識が途切れた。

 無理、し過ぎたようだ。


『昔の日本は平和で、車や電気が町中を巡っていたのよ』


『それだけじゃなくて、飛行機や大きなビルが沢山あったんだ!』


 意識が覚醒した時、私は病室のベットの上で目覚めた。

 珍しく母親と父親の夢を見てしまった。

 戦死した母親とその現実が受け入れられず自ら命を断った父親。

 私達姉妹をこの世に置いてあの世に行った二人。


 恨んでは無い。むしろ感謝している。

 母親は私の憧れだ。

 その命が枯れるまで日本奪還の為に戦い続けたのだから。

 父親との思い出も少ないが、それでも十分な愛情は貰ったつもりだ。


「姉さん!」


「奏美、おはよう」


「姉さん!」


 泣きながら奏美が抱き着いて来る。

 それを受け止めて腕を背後に回して、同じように抱き寄せる。

 奏美の温かさをこの身で感じながら、体に流れるエネルギーを確認する。


「奏美のエネルギーか?」


「はい。血の繋がった双子ですからね。同じ性質のエネルギーだから回復が速いみたいですからね」


「そっか。⋯⋯他の皆は?」


「皆無事ですよ。そもそも攻撃を強く受けた人は誰もいませんよ⋯⋯姉さんが力を使って死にかけた以外は」


「お、怒ってますか?」


「怒ってないと思いますか?」


 笑顔の奏美は可愛くもとても怖いよ。


 まだ少しだけ下半身が動かない。

 麻痺したように動かせないのだ。無理矢理動かそうとすると痛みを感じる。

 心臓などは機械が無理矢理動かしているようだ。

 奏美のお陰かな?


「エネルギーが全回するまではそれを着けてくださいね」


「エネルギーの最大量、また減ったかな?」


「どうでしょうね」


 奏美はその後も会話を続けてくれて、この病室から出る事はなかった。

 それは今の私にとてもありがたい存在だった。


「それで龍虎が逆立ちしながら⋯⋯」


 そんな作り話をしていると、病室のドアがゆっくりと開けられた。

 中に入って来たのは結衣と龍虎である。


「変な話してんじゃねぇ!」


「あ、龍虎」


「⋯⋯ふ、副司令官!」


「はいそうですよ。お二人とも、ここではお静かにして座ってください」


「は、はい」


 龍虎と結衣は萎縮しながら椅子に腰を下ろした。

 医者が顔を出して「誰も居ないから問題ないぞ〜」と言うダル気を大きく含んだ言葉が飛んで来た。


「ところで、どうして副司令官が?」


「私の妹だからだよ」


「⋯⋯マジで?」


「マジマジ超マジ。な、奏美」


「そうですよ。奏美は姉さんの双子の妹です」


 刹那、龍虎が白目を向いて床に倒れた。

 医者が龍虎の体を頑張って起こしてベットに転がせた。

 きちんと道具は使っている。

 普通の人間が兵器の体重を支えれないからだ。


「くっそ重い」


「龍虎ちゃんは軽い方です!」


「180はあるだろ⋯⋯」


 結衣は龍虎を見守って私にも声を掛けてくれる。


「その、お疲れ様でした」


「結衣のお陰だよ。結衣、実はな」


 私は結衣をエネルギータンクにした事を説明した上で謝罪をした。


「⋯⋯むしろそうすれば奏音さんは力をかなり使えるんですよね!」


「まぁ、慣れればこう言うのは無くなると思うよ?」


「ならば練習しましょう! 私もエネルギーの操作の練習しないとですし、一緒に頑張りましょう!」


「い、良いの? 本当に危険だし、結衣の事を⋯⋯」


「大丈夫です! ⋯⋯それで勝てるのなら、生きられるのなら」


「⋯⋯なるべくしないようにはする。これからも必要な時はお願いするね」


「はい!」


 そして龍虎が起き上がる。


「がああああ! 変な夢を見てた。奏音の妹が副司令官って言う夢」


「あの、夢じゃないんですけど。なんですか? 奏美達はそんなに似てませんか?」


「奏美、殺気は飛ばすな」


 再び気絶した龍虎。

 全く。


「面白い奴ら」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る