第10話 奏音、絶対に戦わないで

「到着〜!」


 伸びをして空気を思っきり吸う。飛ぶと酸素量が減って少しだけ息苦しいのだ。

 到着した先には既にこの基地の兵器と司令官とかが揃っていた。

 感謝の言葉を残して食料を運んで行く兵器達を見ながら、私達の所にやって来る一人の人物。

 その人を見る結衣と龍虎の目の色が変わる。


「花園、さんだ」


「綺麗」


 深紅色の髪を風に揺らしながら近寄って来る。

 機動力を活かした戦い方講座ムービーは彼女がメインで行っている為、認知度が高い。

 戦姫の花園と呼ばれる程までに学校では知名度を持っている。


「ちっす。久しぶりだなレイっち」


「本当、お久しぶりですね奏音」


 ハイタッチをした私の首を引っ張る龍虎。

 顔をギリギリまで近付けて来た。


「なんでそんなに仲良さそうに花園さんと会話してんだよ!」


「わ、私も気になります!」


「ゆ、結衣まで」


 結衣が龍虎を宥めない事を考えると、本当に気になるようだ。

 説明をしようとしたら、横槍が入った。


「すみません。来て貰えますか? 資料を見て頂いたと思いますが、直接見て貰いたくて」


「あ、はい。ついでにこの二人も連れて行きますね」


「え?」


「龍虎はうちの部隊長で動体視力に優れてます。速度を測るには丁度良いでしょう。結衣の視力は異次元です。射程距離を測れます」


「それ全部、福田さんで完結するんじゃ」


「良いじゃないか。奏音の今の仲間との関係を深めるにも丁度良い。ついでに私も行こう」


「え、花園さんもですか?!」


「問題か?」


「い、いえ」


「なら決まりだ。空先輩はどうしますか?」


「行きたいけど、眠い」


「分かりました」


 そして、正式な自己紹介が始まる。しかし、レイっちが空先輩と呼んだ瞬間にある程度察しが付いたらしい二人。


「初めましてだよね? 奏音とは同期、花園麗華です。広島地区超級六番隊隊長を一応任せれてます。機動型バランスタイプ」


「はい! 兵庫地区下級一番隊隊長、廃乙女龍虎! 攻撃型パワータイプです! よろしくお願いします!」


「同じく下級一番隊、井野川結衣、攻撃型パワータイプです! よ、よろしくお願いします!」


「えー、しなくていいよね?」


「逆にいる? 貴女の自己紹介なんの宛にも成らないじゃない」


「まぁね」


 にしてもこの二人、私の時よりも態度が全然違うんだよなあ。

 なんか悲しくなるぞ。畜生。

 レイっちの視線が少し気になった。


「あ、ちなみに私とレイっちは同じ孤児院で育ったんだぞ」


「付け加えると、途中まで同じ部隊所属だった」


「「⋯⋯ええええええ!!」」


 そして、私達は研究所へと移動した。

 そこで、天才的な研究者と鉢合わせる。

 私の肩をがっちりと掴んで来たよ。ちなみに相手は男だ。

 幼馴染でもある。私が子供の頃に一緒にバカした覚えがある。

 まだ学校で訓練する必要のない四歳くらいの時だ。同じ孤児院所属。


「待ってたよカノノン!」


「久しいなぁキオ!」


 軽めの腹パンで吹き飛ばし、会話を重ねる。

 そんな態度を微笑ましそうに見守るレイっちと比べて、龍虎と結衣は青ざめている。

 だってそうだ。彼は本物の天才なのだから。

 最近の発明に関わっているのはあの狙撃銃だろうが、きっと前まで学生だった兵器が知っているのは⋯⋯兵器用の回復薬だろう。

 ウンゲテュームの血を利用して、それを兵器の再生能力に利用する考えは元々あったが、それを完成させる事に成功したのは彼だ。

 味はどうにかして欲しいけどね。


「そちらはカノノンのお仲間だね。一応情報は来てるよ。僕は菊田尾立 キオと呼んでくれ」


「は、はい」


「わ、分かりました」


「それじゃ来てよ! 実は今さっき新作の試作品が完成したんだ!」


 ハイテンションのキオにやれやれと思いながら付いて行く。

 そこでは、男性研究者が腕にガトリングを着けて構えていた。


「あれは?」


「まだ名前は決めてないけど、狙撃銃よりも射程が落ちる変わりに連射力と破壊力を上げたんだ」


 ガトリングの後ろには何かしらの突起物が着いている。


「あれの中で膨大なエネルギーの電気を作り出す。それを先端へと流して起こる電磁力⋯⋯回転の力をフル活用して高速でエネルギーを生み出す仕組みだよ。生み出しても高速で放つのは難しかった⋯⋯だけど、なんとか試作段階へと持って来れたんだ! 最近ここを危険視した隣県のウンゲテュームがバンバン攻めて来るから弾丸の問題もないしね!」


「元気そうで何よりだ。⋯⋯だけど、動いてないようだけど?」


「あぁ、あれは失敗作だよ。腕がハマって取れないから兵器を呼ぼうとしてたんだ。外してくれ」


「気をつけろよ」


 レイっちが向かって行き、のしかかっていたガトリングを取り除きた。

 開放された研究者は喜びのダンスをしていたので、それを横目にきちんと完成した物を見た。

 突起物が幾つも着いたガトリングである。


「この筒が電磁力を生み出すんだ。最大二分しか動かせない。その後は熱を冷まさないといけないね。すぐにオーバーヒートしちゃう。しかし、この六発の銃口から放たれる弾丸の威力は凄まじいよ! 大地は抉れるし、何よりも、群れを成す小型ウンゲテュームを破滅させる事が出来る! 難点は操作性が悪い事だね。今から試し打ちするから確認よろしく。うちの機械では計測出来ない速度を出す予定だからさ!」


 そう言って洋々とガトリングへと向かうキオ。

 キオに付いていけてない龍虎達だが、レイっちの目線で仕事だと判断した。

 私も含めた三人でガトリングの試し打ちを確認する。


「四分のチャージが必要なんだ!」


 射撃場内部からそんな声が聞こえた。

 正確にはスピーカーからだ。射撃場には小型マイクが付けられているらしい。

 防弾ガラスに仕切られているが、これは音も遮断してくれている。

 大型のウンゲテュームの皮が使用された的へと向けて、一気に放った。


「おおお」


 大体毎秒80発を放つようだ。凄まじい連射速度。

 しかも、大型なのに、的を少しだけ凹ませる結果に成っている。

 さらに言えば、一分で2400発も理論上では放てるが、弾倉的に無理なので、オーバーヒートの心配も無い。

 実用的かと言われたら難しいが、使い所さえ見極めれば十分使い物になる。


「は、速い。あの、小型のウンゲテュームよりも」


「私は何も見えませんでした」


「今回は狙撃銃じゃなかったね。結衣の視力は射程距離だから仕方ないよ」


 慰める様に結衣の頭を撫でる。少しだけ照れる素振りを見せる。


「結衣が嫌がってるだろ!」


 龍虎がその手を弾いたが、結衣は顔を赤らめて何も言ってない。


「別に嫌では、ないです。寧ろ、お姉ちゃんみたいな安心感が⋯⋯」


「結衣⋯⋯」


「ふん」


「なんだよそのドヤ顔は!」


 そっか、結衣には姉が居たのか。

 しかし、結衣に似た人物を私は見た事がない。つまり、私よりも年上で、既に亡くなっているって言う事だ。


「私のお姉ちゃん、今は町内で料理屋を開いているんです。今度、行きませんか?」


 兵器じゃないだけか。


「良いね。行こう」


「アタシも行くから!」


「勿論だよ!」


 そして、基地内部に警報が鳴り響く。


『ウンゲテュームの群れが急接近しています。兵器の皆さんは準備を整えて迎撃に向かってください。小型が30以上、中型が5以上だと推定されています。下級の皆さんは内部の守りを固めてください』


「仕事か」


「私も手伝おうか〜」


「私が奏音に頼ると思うか? 大型も居ないし、問題ないよ。それに言ったよね? 私は今や六番隊隊長だよ? 防衛隊でも運送隊でもない、日本奪還の為に戦う部隊の隊長だ。それにさ、これでも救世世代と呼ばれた一人だ。君程の実力は無いけど、信頼出来る仲間が基地には居る。問題ないさ。⋯⋯だから奏音、絶対に戦わないで」


 私が弱いとか、そんなんでは無い。彼女は純粋に私に力を使って貰いたくない。

 それがその目から分かる。だから、私も受け入れる。

 無理矢理を元仲間兼親友に通す訳にはいかないよね。


「中型程度までなら問題ないけどね。分かったよ。あ、二人に観戦させて良い? 勉強になる」


「良いよ」


「良かったな二人とも。超級の戦闘部隊の戦いが間近で見られるぞ。しっかり学べ」


「「ありがとうございます!」」


 そして私達四人は移動を開始する。


「この新兵器の役目もある筈! 台車を! 急いで運びますよ!」


 キオのそんな叫びを聞き流しながら。

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