第11話 勉強になる蹂躙劇

 外に出て塀へと登る。正面を見れば、土煙を起こしながら迫り来るウンゲテュームの大群が見える。

 その中心を走るのは軽トラサイズの亀や人の形を成していた。

 小型は基本的に動物の形が多い。中型は人型が多い。大型は恐竜など古代の生物とか。超型に規則性は無い。


「動物型の中型か」


 しかも亀の姿なので、ディフェンスタイプだろう。

 防御力の高そうな甲羅の突破が重要視される。


「げ、犬の形が居る」


 龍虎が嫌そうな物を見る目で一体のウンゲテュームを見る。

 書類にあった話がほんとだとすると、龍虎が戦った犬よりも強いだろう。


「隊長お待たせ」


「揃った様ですね。既に上級の二部隊、中級の三部隊が向かったそうです。我々は中型の殲滅を中心にして行きます」


「暴れて良いのか?」


「今回も大型は無し⋯⋯味方の取り分を残すなら暴れても良いです。指揮には従ってくださいね」


「なんか今日は優しい口調だな。そこの奴が原因か?」


「いつも、私は、こうじゃないですか」


「いーや。あんたはもっと⋯⋯ソウデスネ」


 有無を言わせぬ気迫により仲間が押し黙った。

 そして、超級六番隊が中型退治に出かけた。

 亀は斧の魂武装の人が相手をするらしい。

 連携だの関係なく、ただ殲滅の為に動くと言う様子である。

 脳筋っぽいが、レイっちの事だ。どうせ指揮が必要な時には統制する。


「では行って来ます。奏音、決して戦わないでくださいね」


「わーてるって」


「⋯⋯魂武装コンソウル


 彼女の全身が光の粒子に包み込まれる。機械的な翼を広げ、制服はパワードスーツへと変わる。

 ロボットと人を融合した感じの、SFチックな見た目へと変貌する。

 翼を羽ばたかせ、半透明の水色の羽を生やす。

 少しだけだが、光の奔流が輝いていた。


 そのまま飛び立ち、彼女の仲間も後に続いて魂武装して飛び出す。

 そのスピードは昔の新幹線に届く程だ。大きな斧を担いでいる人でもそのくらいのスピードは出す。

 兵器は人型でも、人のような私達でも、兵器なのだ。


「は、速い」


 そのスピードは龍虎の動体視力でもギリギリ追えるか追えない程。

 唾を飲み込み今から始まろうとしている戦闘に目を向けて離さない。

 結衣も決して離す事は無かった。⋯⋯だが、彼女には仕事が出来た。


「結衣、武器を出して」


「え?」


「あの上の小型のドローン型ウンゲテュームを撃ち落とす」


「わ、私に出来るでしょうか」


「君だから出来る。な、龍虎?」


「そうだな。隊長として、ダチとして言おう。お前なら問題ない!」


「わ、分かりました! 魂武装!」


 対物ライフルを顕現させ、制服は軍服へと姿を変える。

 周囲の風景に溶け込む様に見えてしまう不思議なマントも出現する。

 彼女は正に狙撃特化と言うべき感じだ。

 ライフルを構え、対象に向けて狙いを定める。

 そして、エネルギーを流して弾丸を創り出して行く。

 私は結衣の肩に手を置く。


「少しだけエネルギー操作を手伝う。体で覚えろ」


「え? ひゅん!」


 変な声を漏らす結衣。今まで扱った事の無い量のエネルギーを操らせる。

 これは全部結衣が体に秘めているエネルギーだ。空間の色が変わるくらいの量を秘めている。

 全盛期の私には及ばないが、それでも超級並のエネルギー量を最初から秘めているのは素晴らしい。

 それを扱える技術さえ備わっていたら、すぐにでも超級へと昇進だ。


「ば、爆発、しそうです」


「我慢だ。狙いをもっとちゃんと定めて」


 私も引き金へと指を伸ばす。結衣を背中から包み込む形で。

 狙いをきちんと定め、そしてエネルギーの弾丸を構築する。


「今」


「うちましゅ!」


 盛大に噛んだ結衣だったが、小型相手には勿体ないと思う程の火力を秘めた弾丸がドローンを撃ち抜いた。

 そのエネルギーは戦闘中の兵器にも一目置かれた程だ。

 未だに空には結衣のエネルギー粒子が舞っている。


「良くやった。これからも自分のエネルギーを出来るだけ多く扱える様に訓練しよう」


「は、はい」


「すげぇ」


「龍虎がこの隊での最弱かなぁ?」


「うるっせ!」


 しかし、反抗する様子は見せなかった。

 龍虎も察したのかもしれない。この中で一番自分が、弱いかもしれないと。

 突出した部分の特異体質。その動体視力は良いが周りと比べると低く感じてしまう。

 結衣程のエネルギー量はない。弱い部類の小型に負けた。

 その結果が龍虎の心に刺さっているのかもしれない。


「龍虎、周りと比べるな。私と居るから、周りが必然と高い奴らしか集まってない。だから見えてない。まずは同僚と比べろ。そして抜け。結衣程のエネルギー量が無くても、お前には操作と言う強みがある。それだけじゃない。相手の動きを見て自分で扱える模倣スキルがあるじゃないか。君の強みはそこだ。伸ばせ。限界を超えてまで伸ばせ。強みは最大の武器だ。だから、良く見ろ。この戦いを」


 正確には、蹂躙を。


 人型のウンゲテュームが通常の人間なら粉砕出来る程の火力を秘める拳をレイっちに放つ。

 しかし、彼女はそれをひらりと避けて、光剣を取り出す。

 エネルギーを剣に変えて扱う武器である。

 そのエネルギーが秘める熱は簡単にウンゲテュームの腕を切り裂いた。

 そのまま自分の機動力をフル活用した動きで胴体を切断。

 コアを速攻で抜き取り、専用の機械へと入れる。


 そのあまりにも速い動きで戦いを終わらせた。

 龍虎も結衣も言葉が出ない程に魅了される華麗な動きで。

 専用の機械はこれまたレイっちが操作している小型ドローンが基地内へと運ぶ。

 斧を使って戦った兵器は既に亀の甲羅を剥がしていた。

 剥がし終わり、柔らかい体を剥き出しにしたウンゲテュームに向かって、二丁のサブマシンガンを持った人が躍り出る。

 弾丸を放って肉を抉り、コアを剥き出しにする。

 そのまま双剣使いがコアを回収する。


「得意分野を上手く活かしているだろ? 一発の火力が高いから相手の装甲を破るのに全力を賭ける斧。攻撃速度で相手の再生速度を上回り、ひたすら削るサブマシンガン。そして機動力の高い双剣がコアを回収する」


 しかし、増援の如く小型の大群が迫って来た。


「やばい!」


「龍虎出るな! 見てろと言った。それに勘違いするな。超級はな、小型の最強クラスが集まっても、雑魚なんだよ。そしてな、雑魚が何万居ようとも、雑魚なんだ。⋯⋯エネルギーが尽きたら終わりだけど、あの数なら問題ない」


 それに大群の方が、レイっちの特異体質を活かした戦いが見える筈だ。

 そして、その戦いは確実に龍虎の役に立つ。


「龍虎、良く見ておけ。お前に必要な力を見せて貰える。レイっちは、強いぞ」


 他の中型はレイっちの仲間が相手をして、レイっちは単身で援軍の軍団へと向かった。

 他の上級と中型は最初に攻めて来た小型の殲滅だ。


「なかなかに良いモノが見れそうだ」

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