第9話 広島到着

 サービスエリアで休憩中、子供に笑顔で指を向けられた。


「兵器のお姉ちゃん達だ!」


 私達には専用の制服を着る事が義務と成っている為、一目で兵器だと認識される。

 指を向けた事を母親が注意していたので、私は「大丈夫」そう答えた。


「奏音、ココア」


「お、どうも」


「ねえねえ! ぶきだして! ぶき!」


 子供が近寄って懇願して来る。

 私には自分専用の武装が無いので、少しだけ困る。

 そんな困った反応をしていたら、母親が反応して謝って来た。


「ごめんなさいうちの子が⋯⋯」


「いえ。大丈夫ですよ。それよりも、引越しですか?」


 整備されてあるとは言え、高速道路なんて使うのは兵器達だ。

 金が無駄に掛かるので、基本的に一般道路を市民は使用している。

 そこまで遠い場所に行ける訳でも無い。

 ならばどんな人が利用するか。急ぎの用事或いは大荷物での移動だ。

 トラックなんてのは消費燃料が激しいので、使っている人は殆ど居ない。さらに言えば、引越し業者も居ない。

 少ない人数をそこに割り当てれない。引っ越すって考える人も少ないしね。


 なので、大荷物を運ぶに市民が買える車に荷台を繋ぎ合わせる形が良くとられる。

 その荷台付きでは一般道路は走行しにくい為、高速道路が利用される。

 実際、このサービスエリア(昔のパーキングエリアと変わらない)にも車は一つだけだ。

 エネルギーボールを露出させた四輪車が後ろに控えている。

 エネルギーボールとは、簡単に言えばガソリンを貯める場所だ。ガソリンではなくエネルギーだが。


「はい。夫の先祖が大阪出身で⋯⋯大阪復興作業に出掛けたんです。私も何か手伝いが出来たらと考えまして⋯⋯大阪に。いずれ大阪に住む予定です」


「そうですね⋯⋯それに復興作業に参加したらボーナスがありますからね」


「はい」


 この奥さん、それも狙っているだろうな。だからわざわざ育ち盛りの子供と一緒だ。


「坊や、いっぱい勉強しろよ」


 目線を合わせて頭を撫でる。


「ぼうやじゃない!」


「はは。大人って言うには早いんじゃないか?」


「いや、僕女の子⋯⋯」


「⋯⋯ごめんね」


 そして戻って来た龍虎と結衣と合流して、再び空先輩の魂武装で移動を再開する。

 飽きたのか、龍虎が眠り出した。


「一応食料輸送の護衛なのに⋯⋯」


「まぁ、確かに油断は良くないけど、基地内や人間が奪還した領地にウンゲテュームは滅多に来ないけよ。でも寝るのは流石にあかんだろ」


 やれやれと言った様子の結衣。しかし、その表情は明るくかった。

 柔らかで優しい微笑みの顔は正にお母さんである。

 そんな結衣の頭を私は無意識に撫でていた。


「え、え?」


 わなわなと慌てだした結衣に私は少しだけ笑みを零した。


「すまん。ちょっと昔の妹に似ててね」


 生物を愛でる時の奏美と重なったのだ。そんな光景を見ていると、空先輩が太ももをお尻でグリグリして来る。


「はいはい」


「よろしい」


 空先輩の小さな頭を撫でると、目を細めて落ち着いた。

 こう言う態度を取られると、先輩ってよりも妹か娘に感じてしまう。


「そうだ。これ」


「なんこれ」


「送信されて来たデータの資料。本当はもっと早く渡す予定だった」


「おいおい。流れ的に広島研究所かな?」


 私はその資料に目を通す。結衣も見たがっていたので、空先輩に目線で許可を求めた。

 一度だけ瞬きをしたので、結衣を隣に移動させた。

 ついでに空先輩と一緒に三人で資料に目を落とす。


「ウンゲテュームの皮膚片と電磁力を利用した銃?」


 これに寄って火薬無しでの射撃を可能とする。兵器のエネルギー無しでも使用可能であり、ウンゲテュームの皮膚片でウンゲテュームを攻撃出来る事は二十回の検証で確認済み。

 実用的にする為の研究を進め、狙撃銃の形ならある都度の攻撃は可能だと判明。

 小型の中でも弱い部類ならこれで瞬殺可能。数年前からその数も増加しているが、近年では減少傾向にある。

 しかし、弾丸一つに使うウンゲテュームの皮膚片が足りなくなる可能性もあり。


 狙撃銃と言う単発式でしか使用出来ず、連射力に欠ける。

 集団戦闘を不得意とする為、今後はより実用的な形を模索する。

 目標はアサルトライフル形式の実現。中型までを相手に出来る程の火力。


 現状はアンチウンゲテュームスナイパーと呼んでいる。


「ついでにその証明映像のデータもある。見る?」


「空先輩の魂武装は便利ですよね。大丈夫です。嘘は無いと思いますから。⋯⋯それにしても、既に導入されているんですね」


「そうらしい。今後の使用状況を見て数を増やすらしい。だけど⋯⋯」


「弾と人員不足。さらには敵がそれに適応して強くなり始め、性能不足に陥った⋯⋯そんなところですか?」


「そうみたい。ずっと研究しているらしいけど、火力は少しだけしか上げられておらず、まだスナイパーのような単発式でしか使えないらしい」


「電磁力で射出⋯⋯レールガン式なら仕方ないと思いますがね。しかし、敵が強くなる、ですか」


「それは問題ですね」


 結衣が横からそんな言葉を漏らした。確かに、下級兵には私達の真実は知らされない。

 なので、こう言う反応に成るのは仕方ない。

 弱ければ弱い程倒しやすいのだから当然だ。その分、主と怪物域──ウンゲテュームが蔓延る場所──の雑魚との差が大きくなり過ぎてしまうが。

 正直、ある程度の強さが無いと濃いコアは手に入らない。

 その点を考えれば、火力アップは確かに望ましい。

 やり過ぎると雑魚が全員中型に成りそうだが⋯⋯そうなったら今後の兵器誕生が喜ばしいな。


「⋯⋯てか、これを私に渡すって事は、そう言う事ね」


「うん。空と一緒にその調査と詳細確認。及び意見出来る事があればする。各地域からも数名呼ばれては確認しているらしい」


「もしかして最後?」


「まぁ。一番数が少ない基地だからね」


「その分成果はあげてるから」


「それと空は寝るから、頼んだ」


「⋯⋯頼まれましたっ」


 そんな会話をしていると、出口が見えて来た。

 もうすぐ広島侵入だ。まぁただ、昔の建造物の修復作業の風景が見られるくらいだが。

 やっぱり人が少ないと建造物の復興が遅い。

 生産型の兵器が手伝っているので、それでも早い方だけど。


「龍虎ちゃん。起きて。そろそろ着くよ」


「上昇して、そのまま広島支部へ向かう」


「了解」


 エネルギー消費を抑える為に高速道路を利用していた。

 空先輩の魂武装の大きさ的に一般道路を走行出来ないので、ここからは飛行する。

 飛ぶので、流石に結衣が龍虎を起こした。


「寝惚けてやがる」


「わ、私が落ちないように抑えておきます!」


「よろしくね結衣。空先輩行きましょう」


「うん。出発」

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