第8話 運搬型スピードタイプ
空先輩の元に行くと、既に魂武装を展開して荷物を乗せているところだった。
彼女の武装は空飛ぶ機械的な絨毯である。
昔のSF系の漫画で出て来る飛行船の方が分かりやすいかもしれない。
水色の髪をして、動き易いパワードスーツが彼女の防具であり武装中の服だ。
「⋯⋯奏音」
てくてくと近づいて私に抱き着いて来る小さな女の子。それが空先輩である。
龍虎が呆然とした顔で呟いた。
「なんで小学生がっ!」
小学生、その言葉を言った瞬間に小型のドローンが龍虎の腹を殴った。
武装をしてない体では、武装の攻撃は大ダメージとなる。
激しい痛みを未だに感じているであろう龍虎に私は少しだけ笑う。
きちんと階級を表すバッチをしているのに空先輩を年下扱い⋯⋯懐かしく感じる。昔の仲間を見ている感じがして。
「こちらが空先輩だ。君たちから見たら大先輩だね」
「え、こ、これは申し訳ございませんでした! アタシ、下級一番隊部隊長、廃乙女龍虎! 魂武装は攻撃型パワータイプです!」
「同じく下級一番隊、攻撃型パワータイプ! 井野川結衣です!」
「うん。一応聞いてる。よろしく。空は超級運送隊管理官、青城空。運搬型スピードタイプだ」
定型文の挨拶を終えて、空先輩の魂武装に乗り込む。
ふわりと上昇して、加速する。そのまま高速道路へと向かって行く。
今は確かに少ない土地しか奪還、開拓出来てないが、このような交通整備はきちんと出来ている。
一般市民にも車が買えるのだ。それも当然、ウンゲテュームと兵器の力が関わっているのだが。
ガソリンなんて使えない。と言うかあるのか不明だ。
「てか、上官に先輩とか馴れ馴れしいぞ!」
「いきなり小学生呼びした隊長さんには言われたかねぇ。学校での名残りなんだよ。認められているので龍虎が口を出す資格はないかな」
「ぐぬぬ」
ちなみに高速道路に乗れば後は一直線だ。私の膝の上に空先輩が座り、もたれかかって来る。
龍虎は空先輩を見て、お腹を摩る。
「パワータイプじゃなくてもスピードがあればある程度の火力は出るよね。空先輩の魂武装には小型のドローンが幾つか備えられているんだ」
「別に解説する必要ない」
「今は私が入っている部隊ですからね。ある程度の情報共有は必要でしょう」
今乗っている武装も、スピードがかなり速く、普通の人なら簡単に落とされている。
しかし、兵器は重いが故に心地良い風と成るのだ。
情報共有は重要だし、とにかく暇なので会話をしたい。
「それでも運搬型だから戦闘には向かない」
「あれだけの威力があって?」
「うんなのは龍虎が弱いからだよ」
「あぁ、やんのか!」
「今の君じゃ私には勝てないよ?」
「お、落ち着いて二人ともぉ」
ガンを飛ばし会っていると、結衣が止めに入った。
舌打ちをしながらも龍虎が引き下がった。
運搬型、運送型とも言う。物や人を運ぶ事に特化した形を持つ魂武装だ。
その中でスピードタイプは重宝される。速く戦闘地域に行けるのは良い事だ。
前線で戦う訳では無いので死亡率も当然低い。
「にしても、奏音の部隊攻撃型しかいない。防御型とかないの? しかも、二人ともパワータイプって、脳筋部隊?」
「龍虎は近接特化だけど、今後の成長で中距離も行けるかもです。結衣の方は完全な遠距離特化。視力がとても良いのでいずれ超遠距離攻撃を可能にするかもです」
「遠近をカバーしあっているのか。なら、問題ないのかな?」
魂武装には様々な型とタイプが存在する。細かく分類するとまた違う呼び名になるが、大抵は大まかにまとめた呼び方をしている。
だから龍虎と結衣が同じ文章を述べた。しかし、遠近や戦い形が異なったりする。
「あ、カラスが飛んでます」
「え? どこどこ」
結衣が空を指さして、龍虎がどこだと探す。しかし、龍虎の特異体質は並外れた動体視力。
対して結衣は異常な視力だ。資料によれば、二百メートルまでならくっきりと見えるらしい。
視力を測る事は出来なかった。
なので、雲の上を飛ぶカラスの存在は結衣は見れても龍虎には見えない。空先輩も見えないのである。
「珍しいな。三匹も飛んでる」
「奏音さん、見えるんですか?」
「まぁね」
ふふん、とドヤ顔をしてやると龍虎がウザそうに目を逸らした。
でも、実際に珍しい。
空先輩の魂武装のスピードが速くてどんどん距離は離れている。
ここでは海が見えており、海の上は飛んでないカラス。
「ありゃ群れの数匹海の中のウンゲテュームに食われたな」
どんなに高くても、『海の上』な時点で海の中のウンゲテュームの餌となる。
あいつらは見境無く喰らい、そして地上に居るウンゲテュームよりも強く、面倒だ。
昔に海に沈んだ古代生物の骨や核爆弾の残骸を食らったと言われている。
昔の人間も海の中で生活していたと言われている。
もしかしたら、ウンゲテュームも自己進化を果たして陸上に足を伸ばすかもしれない。
そうなったら、日本以外の海外でも大暴れするだろう。
日本と違い、大きな大陸だとその損害も大きくなる、か。
もしかしたら、既に攻められているかもしれない。
外国の事を知る術は今の日本には存在しない。
「そろそろ半分、次のサービスエリアで休憩する」
「「わかりました!」」
「おけおけ」
私の適当な返事に怒りを露わにしてぎゃあぎゃあ叫ぶ龍虎を無視して私は目を瞑る。
集中すれば、近くに大きなエネルギーを持つ存在をエネルギーのみで認識出来る。
「やっぱり結衣のエネルギーは馬鹿げた量だよね」
「え、そ、そうですか?」
喉が乾いたのか、お茶を飲んでいた結衣がビクッと震える。
私は肯定の意を込めて顔を前に倒した。
「いずれキーパーソンに成るかもね。その膨大なエネルギーを操れる様に、帰ったら特訓だ」
「あ、アタシには、そう言うのないの?」
さっきまでの態度はなんだった、そう思う程に子供っぽい顔を向けて来る。
流石は卒業し、軍に入ったばかりだと言うべきか。初々しい。
私は少し考える。龍虎だから適当に答える、そんな事はしない。
「ないんじゃね?」
「⋯⋯」
あ、固まった。
実際、龍虎の成績は良かったのだろうが、突出するべき点が見当たらないのだ。
改善点を行っても良いが、それは自分で気づけてようやく意味を成す。
なので、今は何も言わない。彼女なら分かり、成長する筈だ。
「一人で小型を倒せるように成れば、良いけど⋯⋯」
「あ、あれは油断を⋯⋯」
「ん? 今、この瞬間に高速で移動するウンゲテュームに襲われたらどうすんだ? お前は一瞬で死ぬぞ? 油断していたから、なんてのは通じないんだよ。兵器として、ウンゲテュームと戦い日本を救う存在として、如何なる時でもある程度の警戒心は持つべきなんだ。常識だ。覚えておけ」
「いや、ここはもう⋯⋯」
「主が居ない、開拓も出来ている、整備も終わっている、だから安心なのか? ウンゲテュームが瞬間移動して来たらどうする? 奴らは野生の怪物だ。私達の万全を待ってくれるような存在じゃないんだ。忘れるな」
「あ、あぁ」
「奏音、隊長に説教。毎回してる」
「言わんでくださいよ」
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