第5話 謹慎処分と司令官に呼び出された


「命令違反により、命令が下されるまで隊部屋にて謹慎してください」


「はい。この度は申し訳ございませんでした」


「謝罪は良いです。今回の事を反省し、今後に活かしてくれれば良いです。以上、解散」


 副司令官がさらりと定型文を口にして、龍虎の部隊、つまりは私達は自宅謹慎となった。

 龍虎と結衣は部屋へと戻る中、私は副司令官に止められる。


「福田下級兵、司令官が司令官室でお待ちです」


「そう? てかさ、二人の時はその呼び方止めない?」


「はぁ。姉さん。仕事中はこれで行くって言ったよね?」


「でもさぁ。普段の奏美かなみを知ってるとさぁ、堅苦しいのが違和感あるんだよ」


 副司令官は私の双子の妹である。上層部などでは、『秘密兵器』とも呼ばれている。

 彼女の魂武装はかなり特殊なのだ。故に、副司令官と言う実質基地の守りを担当する立場だ。


 言われた通りに司令官室に行った。

 ドアをノックして、許可を貰ってから入る。


「お呼びですか司令官」


「ああ。実は君にも聞きたいと思ってね。最近、変わったと思う事はないかい?」


 今日私が大量に手に入れた中の一つのコアを手で転がしている。

 濃いコアが一つも無かった。あんな数が居たのにだ。


 変わった事⋯⋯もしや!


「最近ご飯のお肉の量とかが増えた事ですか?」


「あーうん。ここ最近は割と家畜とか繁殖して潤っているからね。でも違う」


「違うんですか? ⋯⋯食堂の料理人が変わった」


「そろそろ代替わりの時期だね」


「ですよねですよね。よく見るおばちゃんが居なく成っててびっくりしましたよ! お礼したいんで、住所教えてください」


「許可貰ってからね。でも違う」


「違うの!」


 一体なんだろうか。

 司令官は私達兵器をかなり知っている。知っている⋯⋯と言うより把握している。

 まさか、そうなのか。いや、この人なら有り得る。

 まさか、あの事を知っていたなんて。


「わ、私の体重が、250キロから260キロに増えた事、ですか? でも違うんです! 別にお菓子の大量食いとかじゃなくて、筋トレです、そう筋トレ。筋肉量が増えただけで⋯⋯」


「いや、知らないよ? 今初めて知ったよ? それにさ、君達にとって体重って気に出来る事?」


「そりゃあ乙女ですからね」


「そうか」


「でも、違ったのかぁ」


 自分の増えた体重を堂々とさらけ出しただけに成ってしまったでは無いか。

 恥ずかしい。いっそこの事実を無かった事にするか。


「他に思い当たる節はないのか?」


「えー最近ウンゲテュームが弱い事くらいしか無いですよ」


「そうそれだよそれ!」


「これだったかぁ」


「普通これが先に出ると思うんだけど」


 コアをコロコロしてない手に顎を置いて、深く体重を乗せる。

 司令官は男であり、兵器では無い。

 ウンゲテュームが弱い事は倒しやすくて良い事だ。気にする程では無いだろう。


「強いウンゲテューム程、コアは当然濃い」


「そうですねー」


「だが、最近はその濃いのが無く、兵器の質も年々下がっている。⋯⋯これが偶然、だと思うか? 一年ほど前から、一番濃いのでもそこそこ薄いんだ」


「⋯⋯」


 理解出来た。


「ウンゲテュームが兵器の『本質』に気づいたって事ですか」


「その可能性が高い」


「そうですか」


「思っていた以上に軽いね」


「救世世代がこんなんでいちいち驚きませんよ。それだけですか?」


「いやもう一つ、今度の京都奪還作戦にて、主のコアを回収して貰いたい。それが、一番の近道なのだ」


 何をバカな事を言っているんだろうか。

 主、一県事に存在するとされているその中で一番強いウンゲテューム。

 しかも、主同士は情報を共有する為、進む事に主は強くなる。

 主の倒し方はコアを破壊する事。

 理由は単純、再生能力が尋常じゃないからだ。

 今の主は殆どが超型、簡単に倒せる相手では無い。


「無理でしょ」


「いや。研究により、理論上可能には成っている」


「理論上、ですか」


「ああ。だから、その理論上を可能にして貰いたい」


「まぁ、確かに主のコアの入手は今後必要になるとは思ってました。ですが、あの再生能力を抑えれますか?」


「言っただろう。理論上可能だと」


「分かりました。その作戦には下級も少ないですが参加するでしょう」


「ああ」


「出来るだけ、私の部隊は前線でも問題ないくらいには成長させます」


 そうでもしないと、戦力が足りない。

 今度の作戦は大掛かりかつ危険だ。

 仲間は絶対に死なせない。


「頼む」


「失礼しました」


 私は司令官室を後にして、途中の庭のベンチに腰掛ける。

 そして、大きな溜息を吐いた。


「ざけんな!」


 壊さない様に、手加減して殴る。

 ウンゲテュームが兵器の本質に気づいた、だと?

 ふざけんじゃない。それだと、年々と兵器の質が確実に下がる。

 確かに、訓練次第で兵器の質は上がる。他にも方法はある。

 だけど、それでも、その土台がどんどんと低くなって、成長しても私達と比べると弱い状態。

 そんな中を、大型の強い部類に攻められたら⋯⋯人類は終わる。


 ウンゲテュームは主が生成する。私達と戦いそうな基地に近い奴らは弱く設計し、自分の周りは強い奴で染める。

 強い奴との戦闘経験の無い兵器は、確実に綻びが生まれて、死ぬ。

 最悪過ぎる。救世世代の私達が寿命で死に、さらに数年後には⋯⋯かなりの弱体化した軍が完成する。

 そこを一気に攻められたら⋯⋯。


「クソ! 主のコアの入手が今後の絶対条件! どうすんだよ、どうすりゃ良いんだよ」


 主一体でどれだけの被害を受けたか、どれだけの死者を生んだか、私は知っている。

 だからこそ、そいつのコアを入手するのがどれだけ大変なのかも分かる。


 ウンゲテュームは主に生み出された奴らはそいつら同士と主で情報を共有する。

 主は主同士で共有する。だが、主事に体や見た目が違う事から共有されている情報はあまりないとされている。

 主と主同士の情報共有説も最近では間違っていると思われている。

 主に生み出されたウンゲテュームが県外のウンゲテュームと情報を共有する事はない。


「姉さん、これ」


「奏美、ありがと」


 奏美からコーヒー缶を受け取り、開けて飲む。奏美は私の隣へと座る。


「司令官から聞いた?」


「うん。確かに、ウンゲテュームは年々弱くなり、賢く成ってる。でもさぁ、私達の本質って言うか根源って言うか、そう言うの気づかれたのヤバくない?」


「ヤバい、そんな言葉では片付けてはダメ。奏美達が生きている内は、なんとかなるかもだけど⋯⋯」


「だよなぁ。その後、未来がピンチ。主のコア、かぁ。どんな力を持っているのかなぁ」


「その作戦、奏美も出る」


「まじ? これはガチだねぇ」


「それだけ、主のコアに掛けているんですよ。主はどんどん強く成って行きますからね」


「ほんと、辛いよねぇ」

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