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——春香ちゃんは、天才なのよ!

私こと風間春香は、昔はよくそう呼ばれていた。あの人から注がれる熱い視線。掛けられた言葉を思い出しながら。

——紙川様の感情が、見えるだなんて!

街並みを、ぼんやりと眺めている。とても静かな、電車の中。がらんどうな深夜の車窓を通して。

——本当に、凄い事なのよ!

寝静まったベッドタウンが、やけに綺麗なように見える。明かりの残った街並みに、何となくで出来た建物の群れ。

——春香ちゃんは、本物なの!

薄靄うすもやの掛かった夜景は、朧げで。雨が降った後の匂いがする。しっとり湿った、アスファルトの臭い。

——ねえ、春香ちゃん……。

陰気な空の残り香が、列車の中に広がっている。微かに感じる、濡れた街の名残。

——どうして、

青臭い埃の質感が、じりじりと。鼻の中に染み付いているのが分かる。空気に混ざった、春の雨の跡。

——どうして、花束を捨てたの?

湿気った塵の放つ生温かさが、雨が上がった森の腐葉土のように。身体の中には、わだかまりが残っている。

——別に、怒ってる訳じゃないのよ。

ぬるく、脳裏の底に溶けゆく言葉。暗闇の中に失せた冷たさは、未だに顕在で。

——ただね、ただ……。

疎外感を、感じているのだ。思い返せない、この夜景の向こう側。

——どうして、なのかなって。

窓の外に広がった、昔の風景の事を。

——それが聞きたかっただけ。

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