受け取った時点で、それは花束なのだ。


「……拝啓、紙川様。」


例えば、友達から送られてきた手紙。添えられた挨拶、季節の言葉……。


「お風邪など、召されていませんでしょうか?」


思わず、気持ちが華やいでしまう。文字に込められた、丁寧な息づかい。贈られた花のような、温もりを感じる。


「花束を、ありがとうございました。」


ぶっきらぼうな、彼女の筆跡。うにょうにょとした、線の群れから。読み取れるのだ。


「——私は、幸せものです。」


ぽつりと。呟く様が、目に浮かぶ。骨格の崩れた、文字の列。拙速な、筆の走り方を見ていると。


「久しぶりに、会いたいです」


きっと、寂しいのだろう。指が、震えているのが分かる。伝わってくるのだ。


「近いうちに、また」


ひっそりと、声を発した唇の熱さ。吐かれた息は、白くて、空気の中に溶けてゆく。


「また、ご連絡します……」


真っ暗、なのである。埃も光らない、部屋の奥深く。机の前に、彼女は立ち尽くしている。


「それでは、ご自愛ください」


祈りを、捧げている。声にもならない声を、吐き出して。心臓が、溶けてゆく……。


「肌寒い日も、ございますので……」


百合色に輝いた、白い心臓。甘くて素敵な、血液を。出して、吐き出して……。

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