幕間のお話

受け取った時点で、それは花束なのである。


わたくしこと閉野由紀恵しずのゆきえは、そう思わずにはいられません。

紙川様から頂いた、沢山の光景。閉じた目の中に浮かぶ、大切な言葉の数々。

どれも、私にとってかけがえのない物です。

砂漠に取り残される青色の花。乾いた声から放たれた、繊細なニュアンス。

——ねえ、そこの……。

紙川様の話には、不思議な雰囲気がありました。航海中の船乗りをいざない、深い海へと連れ去ってしまうような。

——素敵な、そこのお姉さん。

静かに私の手を引き、奈落の底へと引きずり込むような。そんな、重力のようなものを感じられたのです。はっきり言って、物凄く怖かった。

——聞いていて、もらえますか?

背筋に走る寒気。ゾッとする程の強烈な違和感を、最初に覚えたのですから。初対面である事を忘れてしまう、呑気な口ぶり。

——はなしの、おはなし。

子どものような言葉の羅列は、一見すると奇天烈で。ひどく幼稚とすら思いました。

——わたしのはなし。

葬式に参列する幼い女の子のような容姿。黒く煌めいたシルクのドレス。

——はなはなしは、なし……。

大人びた唇にはいつも、青い口紅が塗られていて。綺麗に揃った白い歯が、特に際立っていました。

——あれは、昔々のお話し。

陶器のように滑らかな、白い肌。両目には包帯が巻かれているのに、どうやって歩いているのか……。

——みんなの目が、真っ暗だった頃の話。

そして、どうやって軽やかに踊っていたのでしょうか。くるくると。舞った跡を残してゆくスカートの裾。宙へと跳んだ、幼いつむじ風の影法師。

——ねえ、お姉さん……。

電灯が映し出したあの方の御姿は、神秘的で。この小さな公園に、静かに降り立ったのです。飛び乗ったベンチの上で、私を見下ろすかのように。

——お姉さんは、知っていますか?

昔の話を、始めていました。夜の静寂しじま。まるで、神様が遣わした使者であるかのように。

——私たちに、言葉がなかった頃の事。

そして、まるで自分の親族であるかのように。ひどく懐かしげに、私に向けて語り掛けてくださいました。


——想像、してみて欲しいんです。


黒くて長い髪が、風になびいています。寂しげな電灯の逆光を受けて。


——例えば、遥か昔に祈りを続けた巫女の事。


生暖かい風に当てられた私の髪は、さらりと流れて。雨の匂いを運んできているのです。


——例えば、理想を諦めてしまった画家の事。


既に降り止んでしまった、雨の匂い。


——例えば、そう……。

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