例えば、綿密に絡まった糸の解れ。

捕らえた気分になった、銀色の網……。

知識とは即ち、もぬけの殻なので御座います。

抜け出した蝶は、羽を広げ、生気に満ちた粉を散らしてゆきます。

蛍火にも似た、遥かなる命のともしび

月明げつめいとは元より、太陰より生まれ出る物であります。

黒鉛なんぞを絡め取った紙の繊維が、何故なにゆえ、己が思慮を指し示す実像と成り得ましょうか。

しかし、世にはまことを語る者はおらず。

又、まことを語り尽くせる者もおらず。

くして、印気いんきから漏れ出た黒い雫は、思索をこの世に現す源となってゆくのです。

汚れに塗れた、白き紙面の中。

滴り落ちゆく、静かな涙……。

ここに、真実などは御座いません。

あるのは唯、虚しき悦びのみ。


ああ、紙川様……。

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