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私は、この街の事が本当に嫌いだった。

綺麗なだけの街並みに、薄暗くて汚い裏路地。

悪い所を直向きに隠そうとする様が、本当に嫌だ。

地べたに積まれたゴミ袋の山に、壊れっぱなしの電灯のちらつき。埃に塗れた臭いは、やたらと湿っていて。しかも、微かに熱気を帯びているのが分かる。

ひどく、腐っているのだ。

えた食べ物の生臭さに、チカチカと残像を残してゆく塵埃ちりぼこり。蒸れた空気の漂う夜道は、退廃的な雰囲気を感じるばかりで、まさしくこの街の住人の性根を表している。

愚かで醜く、そして浅ましい。

脆弱なまでに純朴なのが、彼らの常であった。

ある時は、紙川様に言われるがまま街の秩序を壊し、またある時は自分達の歪みから目を背け続ける。

頬を撫で付けた風が、生ぬるい。

思い出すだけで、腹が立ってくるのだ。愚か者たちの顔に、私の事をほんのりと見下した表情。遠ざけるような視線の内側には、苔むした黒いいばらが生えていて。皆の感情を、緩やかに縛っていたのである。

気持ち悪くて、仕方がなかった。

呪縛ばかりの最悪な環境。一刻も早く、この街から逃げてしまいたい。駅から出てゆく電車に乗って、出来るだけ遠くの場所へと。

足早に、急いでいるのである。

冷ややかな、視線を感じる。裏路地の住民から投げかけられた、冷たい視線。刺々しい感情は、実に不愉快で。発した言葉の中身すらも、うっすらと分かってしまう。

——お前は、愚か者なのだ。

アパートの窓から、私に向けて。放たれた言葉の表情が、私の身体を蝕んでいる。頭を締め付ける青いつた。古ぼけた思考の流れが、とくとくと。

眼鏡の中に、映っているのだ。

実に、悲劇的なのである。足元に広がった文字の海に、霧散をしてゆくさなぎの羽音。

——我々は、単なる贈り物だというに。

破れた卵の中から、文章が生まれる事はなくて。無意味な繋がりを作っているだけに過ぎない。視界を遊泳する空白の文字列。

——逃げられると、思うなよ?

形の無い意味が、くるくると。言葉の外で、空回っている。私を縛っていた、その無意識。

——お前だって、ただの……。

単語の集まった塊は、本当に空虚で。何もかもを、理解してはいない。愚かで惨めな、馬鹿ばっかり。

——ただの、花束でしかないのだから。

余計なお世話だ……。

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