回想

受け取った時点で、それは花束だった。


「——あれは、昔々のお話し。」

紙川様から頂いた、数々の言葉。眼鏡に映った人だかりは、いつも満杯で。

「——みんなの目が、真っ暗だった頃の話。」

あの街の皆が、私の観客だった。ぽつりと。有象無象に向けて呟いた台詞。静かな声の調子は、紙川様の仕草を真似たもので。

「——想像、してみて欲しいの。」

ただ、私は虚空を眺めていた。だらりと動いてゆく、手指の先。全ての言葉を覚えた身体は、勝手に次の台詞を口ずさんで。

「——例えば、文字に化けた線の集まり。」

喉が、乾いてきてしまう。舌の上に残った、僅かな風。青色に溶けた花の触感は、油絵の具のようで。

「——例えば、線へと変わった沢山の点。」

さらには、飴のような味がする。じきに消えてなくなってしまう、ハッカ味の飴。粘り気に塗れた涼しい嘘が、背筋に走って……。

「——苦くて、切なくて……。」

吐き出される。喉に絡んでいたたんのように。心の奥底に詰まっていた言葉のように。

「——すごく、美しかった……。」

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