第4話 裏迷宮


「本当だったんですね」


 清水青子を案内し、俺は掘り進めたトンネルを進んだ。


「何がです?」


「解雇した探索者からの報告で、貴方は無意味な穴堀に従事していると」


「無意味……ですか」


「あっ、申し訳ありません」


 この人、謝ってばっかりだな。

 そんな事を想いつつ、俺は進む。

 もう少しで出口だ。


「無意味かどうかは、自分の目で確かめてくれ」


「ここは……?」


 邪神幼女が封印されていた広間まで辿り着く。


「この奥にもう1つのダンジョンがあるんです」


 更に進み、門がある広間まで彼女を案内した。


「まさか……本当に……?」


 信じていなかったのか。

 いや、当たり前だ。

 前例の全くない話を信じる奴がいたら、そいつはバカだ。

 少なくともこの人は、デキる人間って感じがする。


「査定するには、内部の調査が必要です」


 そう言って、彼女は一言呟く。


「換装」


 探索者にとって必須の装備がある。

 それは、魔力で肉体を生成する装備。


 使い捨ての安い物なら1万程で買える。

 しかし、彼女が使っているのは何度でも使用可能なアーティファクト。

 その価格は数百万円に上るだろう。


 魔力で生成された肉体に意識を移し、探索者は迷宮に潜る。

 現代の探索者には死の危険は殆ど存在しない。

 換装された肉体が破壊されても、意識が元の肉体に返還されるだけだからだ。


「行ってきます」


 清水さんは、自分の肉体をダンジョンの入り口で寝かせる。

 そこから装備を取り外し、魔力体に装備を付け替える。

 ペンダントが残っているが、これが換装用の装備なのだろう。


 私服姿の気絶した本体が残される。

 清水さんは、門を開いて中へ入って行った。


「本当に行ったよ。おっさんの事信用し過ぎってか、感覚おかしいだろ」


 年頃の女が、無防備に寝ている。

 まさか、何かする気は全く無い。

 けど、A級だからって危機意識無さすぎだろ。


「はっ!」


 凡そ5分。

 清水青子は目を覚ました。


「私が……負けた……!?」


 心底驚いた表情で、彼女はそう言った。


「迷宮ランクは間違いなくS+ですね」


 彼女は、淡々とこのダンジョンの情報を羅列していく。


「出現魔物は悪魔系。しかも、かなり高度な知能を持ってる」


 それから、彼女の口から飛び出した言葉は俺にとって衝撃的な事だった。


「恐らく、日本に存在するダンジョンの中で最高位の物と思われます。そうですね、これなら最低でも10億で如何でしょうか?」


「はい?」


「ご存じの通り、ダンジョンは難易度が高い程得られる資源や財宝も高ランクの物になります。ですので、少なくともこのダンジョンにはそれだけの価値があると私は推定します」


 ちょっと待って。

 確かに知ってる。

 だからこそ、高難易度ダンジョンは高値で取引される。

 しかし、俺が買い取った時のここのダンジョンランクはDだった。

 それが一気に日本最高クラス?


 ダンジョンの購入費用が一千万。

 一気に百倍になりやがった。


 探索者業界では億単位の金が動く事はザラにある事らしい。

 そう、噂では聞いていた。

 しかし、自分の話になると一気に現実味が遠のく。

 マジか……


「売却されますか? 他のギルドからの査定も受けてから決めるという事も可能ですが……」


 少しでも高く売りたい人間はそうするだろう。

 しかし、正直一般庶民の俺にとって10億と100億にはそれほど差が無い。

 人生をゴールできるだけの大金だ。


「いや、売却します」


「了解しました。適切な金額を精密に調査し、購入させて頂きます」


 そして、その日の探索は終了した。



 ◆



 それは、清水さんが帰ってすぐの事だった。

 玄関前に邪神が仁王立ちしていた。


「あの女は、誰だ!?」


 気温が3度ほど上昇した気がする。

 そんな訳、と思ってスマホを見ると本当に上がってた。

 日本列島全域が。


「探索者の人だよ。ダンジョンを売りに出すから査定して貰ってたんだ」


「ほう、では何故あの女はあんな格好をしていたのだ」


 あんな格好?

 あぁ、出て来た時しか見てないのか。

 流石にごてごてした金属装備の下にビジネススーツを着る訳にもいかないだろうか、私服だったんだろ。


「お前のダンジョンに挑んで、装備剥ぎ取られたんだよ」


「その様な卑猥な機能は我がダンジョンには無いのだ!」


「いやだから……」


「うるさい! 言い訳は聞きとうない! この浮気者!!」


 なんだこいつ。

 そもそも俺に彼女は居ない。

 そして浮気相手などもっと居る訳が無い。

 あ、また温度が上がった。

 このままだと温暖化で死ぬ。

 日本が。


「はぁ、俺仕事辞めるからさ、2人で旅行にでも行かないか? 世界一周、夢だったんだよ」


「え、行くぅ!」


 温度が元に戻った。

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