第16話 1月2日
1月2日。俺たちは何も変わる事無く、元の生活に戻る事ができた。
変わった事と言えば、富士山頂にダンジョンが現れた事くらいだろう。
アルスが言うには、光の神アトランテさんが破裂した事でその微粒子が影響を及ぼしてダンジョンになったとか。
ダンジョンってそんなもんなのか。
「怒らないのか、ジクウ」
寝巻のまま、アルスがリビングに顔を見せた。
枕をギュッと抱き締め、少し俯ている。
昨日は新幹線で帰って来て、疲れてたのか直ぐ寝たからな。
ちゃんと話せてなかった。
「なんでだ?」
「勝手に居なくなったから」
別に、俺はアルスの親じゃない。
預かってるだけの知り合い。
もしくは、居候させてる大家だ。
家族とか親だとか。
そういう自覚ってのが芽生えた訳じゃない。
ただ、こいつと一緒にいる方が一人でいるより居心地が良いってそれだけの話だ。
そんな俺の我儘にそもそも付き合わせてる。
そんな俺が、説教してやる程偉い立場な訳がない。
「分かってるんだったらいいよ。次からはちゃんとどこに行くか、何時に帰るか教えてくれ。夕飯、無駄にしちまう」
説教、なんてのは快楽主義者が考え吐いた言い逃れだ。
これは説教だから、自分の快楽を満たすためにやってるんじゃ無くて相手の為にやってるっていう言い訳。
殺してやりたいほど憎い上司だったが、判明教師として頗る優秀だったな。
「うぅ、うわぁあああああああ! ごめんなしゃいぃい」
「ちょ、え? 泣くな泣くな」
あれでもなんでだ。
外が明るいままだ。
いつも悲しくなると雨が降っていたのに。
今日は、空に太陽が浮かんで街を照らしていた。
洗面所からタオルを持ってきてアルスの顔に当てる。
ハンカチだと吸収しきれなかっただろうな。
そんな水分量だ。
「鼻水……」
「分かった分かった」
ティッシュを取って、アルスの鼻に当てる。
チーン、と音が鳴って3回程アルスは鼻をかんでいた。
「取り合えず着替えろって。餅食うか?」
「食う」
パジャマを着替えさせている間に、俺は餅を焼き始める。
雑煮食うかな。
まぁ、用意しとく。
お節も欲しいけど、蕎麦食ってからだよな。
清水さんと蕎麦を食べる約束をしている。
今日は何か用事があるらしいので、明日ここで歌合戦を見る予定だ。
先にお笑いみるか。
信念でお笑い番組多いよな。
「ジクウ! なんだこれは膨らんでるぞ!」
アルスがストーブの上で焼いていた餅をつっついていた。
「火傷するぞ」
「邪神はこれくらいで火傷などしないのだ!」
「じゃあ食うか」
そろそろ良さそうだ。
更に移し、醤油をかけてアルスに出した。
「喉に詰まらせんなよ」
「ジクウ!」
「ん?」
「死ぬ!」
早々詰まらせやがった。
邪神餅で死ぬのかよ。
「ぐえ!」
喉に手をつっこんで、餅を掻きだす。
「邪神復活!」
すると、アルスは復活した。
「ってまてジクウ……」
「今度はなんだ」
「ちゅうしちゃった……」
ガキかお前は。
てか、この会話懐かしいな。
たった一月いないだけで、この家は相当静かだった。
毎日一人で、誰のためでもなく食事をとる日々。
ニートってのはこんな気分なんだろう。
隠居して悠々自適に過ごしたいと思ってた。
けど、何も楽しくない毎日だった。
アルスと一緒にいる生活が板についたからだろうか。
「なぁ、アルス」
「ん、なんだ?」
「お前を復活させて良かったよ」
そう言うと、彼女は花が咲く様に笑った。
「私もジクウで良かったのだ!」
「あぁ、明日は清水さんと蕎麦だからな。ちゃんと夜起きてろよ」
「よゆーなのだ!」
絶対寝るなこいつ。
清水さんお酒とか飲むのか?
まぁ、一応買っとくか。俺も久しぶりに上司のご機嫌取り以外で酒を飲みたい気分だ。
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