第10話 デート2


 現代社会はダンジョンによって成り立っている。

 ダンジョンからは既存の功績や植物、果実や野菜、魚や牛などの動物が確認されている。


 更に、ダンジョンは地球外に拡張された土地として認識する事もできる。

 ダンジョンの入り口である穴のサイズは直系10mなのに、内部は100㎢以上あったなんてケースも存在するのだ。


 そんなダンジョンは宝の山である。

 基本的にダンジョンは出現した土地の所有者が権利を有する。


 仮に、地主がダンジョンを攻略可能な能力を持っていない場合は、探索者会社に依頼しそのダンジョンを破壊する事が義務付けられる。

 この場合、地主は探索で得られた財の20%を受け取る権利が存在する。


 まぁ、ダンジョンが自分の家に出来る可能性なんて宝くじ一等並みの確率だ。

 殆どの人間には関係ないし、出来たらできたで幸運の部類だ。

 何せ、何もせずとも利益が発生するのだから。


 まぁ、この話は俺が自分で調べた訳じゃない。

 全部、隣の清水さんから聞いた話だ。


 現場はダンジョン。

 しかしAランク探索者に仕事は無い。

 何故か……。


「はっはははははは! この私に歯向かうなど百億年早いわぁ!」


 この邪神が、全モンスターを1人で蹂躙しているからだ。


「ワ―タイガー、レッサーヴァンパイア、クリムゾンワイバーン、ブラックドラゴン、アークセイバ―。ダイアモンドゴーレムまで……」


 隣で清水さんが呪文のようにモンスターの名前を呟いている。

 その顔は青ざめていた。

 俺はアルスの姿が早すぎて見えないから仕方ない。


 あ、見えた。

 あ、残像だった。


 人間の限界、いや探索者の上限すら突破したような加速。

 そして、全てを一撃で葬る破壊力。

 邪神の名に相応しい戦闘能力だ。

 見えんけど。


 魔法やスキルの様な物を使っている感じはしない。

 全て物理攻撃、パンチかキックで仕留めている。

 しかも、ゴーレムだろうがドラゴンだろうが一撃だ。


 見た目は幼女。

 しかし、戦闘能力は邪神である。


「アルスちゃんが暴れ出したら私じゃどうしようもないですね」


「そうですか? 前は結構戦ってたじゃ無いですか」


「あれはアルスちゃんが手加減してくれただけですよ。私のスキルは回避能力を向上させる物ですが、一度もアルスちゃんの攻撃を回避しきれなかった。受けさせられたら私が鍔迫り合いで勝つのは不可能ですよ」


 そんな会話をしている間も、アルスは俺たちが進む道先にいる全ての魔物を破壊して行く。

 破壊神よりよっぽど破壊神。

 死神よりよっぽど死神じゃないか。

 あぁ、そう言えばその2人もボコったとか言ってたな。


 未だ、俺はアルスという少女を理解できていない。

 人間ではなく、年齢も俺よりずっと上、けれど見せる表情は子供っぽく無邪気な物だ。

 無邪気な邪神、子供を育てる親とはこんな気分なのだろうか。


「ジクウ! ゴールだ!」


 ダンジョンボスである剣聖ゴーレムドラゴンを殴り壊し、アルスは笑顔でピースを俺に向けていた。


「おぉ、凄いな!」


 頭を撫でてやると、アルスは頭を俺に摺り寄せて来る。


「親子に見えませんね。もしくは孫とお爺ちゃん」


「仕事ばっかりで恋愛もした事ないのに、もう娘はハードル高いですよ」


 ダンジョンの最奥にいるボスを倒したという事は、ここは数十分から1時間で崩壊する。

 その間に換金物を持ち帰る必要がある。


 しかし、清水さんは亜空間バックという装備を持っている。

 それがあれば、運搬など容易い事だ。


 まぁ、その装備1つで一軒家が立つらしいが。

 そんな金があるのにどうして仕事を辞めないのだろうか。


 そんな考えが頭を過る。

 しかし、他人の事に口を挟むべきではない。

 そう思い、口を閉じた。


「アルス、あと2つダンジョンがあるらしいけど行けるか?」


「ジクウ、我を誰だと思っておるか。しかし、ちゃんとできたら頭を撫でるのだぞ?」


「分かった分かった。でも、そんなモンでいいのか?」


「あぁ。これがいいのだ。――私は頑張るぞ」


 それを俺はダンジョン攻略の事だと受け取った。

 けれど、この邪神がダンジョン攻略なんて物を頑張る必要が無いなんて事に頭を回すべきだったのだろう。



「人員不足に付き、外部の探索者に協力を要請したという形で処理しました。これは報酬金です」


 別れ際、清水さんがそう言って封筒を渡してくる。

 凄く厚い気がするが、金以外も入っているのだろうか。


「今回のダンジョンランクはB、C、Cですので、合計金額は240万ですね」


「はい!?」


 金銭感覚がバグり散らかしてる。

 日給だぞ?


「ていうか、俺何もしてないんで」


「いえ、アルスちゃんの働きはSランク探索者2人分以上ですよ」


 チラリとアルスに視線を移す。

 遊び疲れた子供の様に瞼を擦っていた。

 手は俺と繋がれ、俺の視線に気が付くと笑いかけて来る。


「分かりました。アルスに何か買ってあげる事にします」


 5億が入って来るまで貯金で生活するつもりだった。

 なのにこんな大金があれば、それすら必要ないな。


「それでは私はこの辺で失礼しますね。アルスちゃんもまたね?」


「えぇ、それではまた」


「青子、元気でな」


「今日は心配かけちゃったね。アルスちゃんが手伝ってくれたからもう大丈夫だよ」


「……あぁ、それならいいのだ」


「うん、今日はありがとう」


 そう言って清水さんは車に乗り込み、事務所に戻って行った。


「ジクウ、今日は楽しかったぞ。生まれて一番最高だった」


「一番最高って同じ意味じゃ無いか?」


「それだけ、お前との時間が良かったという事なのだ!」


 少し怒りっぽくアルスの身体をぽかぽかと叩く。

 しかし、そこにはさっきまでモンスターを殴り飛ばしていた威力は全く込められて居ない。


「ジクウ、私はお前が好きだぞ」


「……ま、お前に好きな奴ができるまで嬉しく思っとくよ」


 邪神が成長するのかは分からない。

 けど、アルスだって俺よりも見た目も性格も良い奴が現れれば普通に引かれる筈だ。


 父親目線は少し痛いかもしれないな。

 けど、それくらい俺はアルスという邪神の居る日常に慣れてしまった。


「また来るか? 遊園地。それに世界旅行もいつか行こう」


「……あぁ、必ず行こう」


 偶に思う。

 アルスは偶に、寂しそうな表情をする事があるなと。


 あぁ、俺は本当に愚かだ。

 彼女の事を何も分かってなくて、知ろうともしなかったのだから。


 次の日、俺の家には俺以外の誰の姿も無かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る