第21話 二匹蛇の杖


 二匹蛇の杖と命名された。

 少し厨二病っぽいが、探索者なんてやってる事は最上位の武闘家だ。

 多少、威圧のある名前でいいのだろう。


 意味は、世界の治癒者。

 ギリシャの英雄、アスクレピオスがモデルらしい。


 そして、俺の家の地下にあるダンジョンだが『二匹蛇の杖』の資産となった。


 俺の口座10億が入った。

 これは清水さんのポケットマネーだったらしい。

 会社の資産にするならと、買い取ってくれた訳だ。

 これで金に困る事は一生無いだろう。


 しかし、じゃあ俺はこのまま何の意味も無く老人として若者を羨みながら余生を過ごすのだろうか。


「それも少し情けないよな」


 自分が大層な人間だと思っている訳じゃない。

 自分の意志の低さは、今までの人生で思い知っている。


「アルス、俺さちょっと強くなりたいんだ」


「ジクウは弱くない。けれど、そう言う事では無いのだな」


 そう答えたアルスの姿は、いつもより大人っぽく感じた。


「良かろう。我が信徒よ、ならば招待しようか。邪神の腹の中に」


 アルスの姿が変化していく。

 幼女の姿ではなく、死神の様な骸骨の姿でもない。

 初めて見るその姿は、妖艶な美女のよう。


「お前、成長期早すぎだろ」


「違うわい!」


 あ、別に精神的には変わんないんだな。


「自分の迷宮内であれば、いつも以上に魔力が余るからな。無理せず姿を変化させられる」


「へぇ、じゃあいつもは魔力消費が少ないからあの姿なのか?」


「まぁ、そうだな」


「って、迷宮内って言ったか?」


 さっきまで家だったけど……

 あ、なんか外の景色変わってるわ。


「見たか、ジクウの家毎迷宮内に転移させたのだ」


「ちょ、それって水道とか電気とかヤバくない」


「知らぬ」


「一旦戻して下さいお願いします」


 しょぼくれながらアルスの姿が幼女に戻った。

 俺は直ぐに電線と水道をチェックするが、特に異常は見られなかった。


「アルス、このやり方は今後は辞めてくれ」


 心労がでかいわ。


「ふむ、良かろう。では歩いていくか」


「あぁ、そうだな」


 てな感じでやって来た隠しダンジョン。

 ケルベロス君に挨拶も済ませたし、行きますか。


「加護にはレベルという物があるのだ」


「あぁ、探索者の魔力総量の覚醒現象だろ?」


 昔調べた気がする。

 けど、覚醒の条件は明確には分かってないらしいけど。


「多く戦えば、自ずとレベルは上がるのだ」


「へぇ、そんなもんか」


 まぁ、神様が言うんだし大体あってるんだろ。

 戦闘回数、戦闘時間、どれもレベルとは比例しない。

 けれど、アルスの言葉は何と言うか現代の情報とは別の説得力がある。

 気がする。


「まぁ、我がダンジョンをクリアするのは無理だろうが。探索者は負けても死なぬのだろ? なれば、我武者羅になればよい。簡単な話だ」


 それから、俺の地獄の日々が始まる。

 有り余る金で、適当な装備を買い、無限に使える換装の装備を買った。


 ちょっとは活躍できるかなと思って挑んだ1回目。

 即死。

 まぁ、最下級探索者ですし。


 2度、3度、と自分が死んでいく。

 普通に痛いんだがこれ。

 死ぬ程の激痛すぎて、連続で挑戦できねぇ。


 そんなこんなで時間をロスし、結局半日かけて5度の挑戦しかできなかった。


「ふむ、内在魔力は多少上がって行っている。これを続けて居れば自ずとレベルは上がるだろう。まぁ、それだけでは頭打ちはあるだろうがな」


 このゲーム脳邪神が。

 当たり前のようにそう言ってきやがって。

 レベル上げの為に何回死ねば良いんだよ。


 とまぁ、思うのだが、やはりコツコツ人間の性と言うのか、俺の足は行きたくない筈の迷宮に向く。


「やっぱりジクウは弱くないよ」


 小さくアルスがそう呟く。

 聞こえない様に言ったんだろうが普通に聞こえた。


 あぁ、はいはい。頑張りますよ。

 上司に快楽目的の説教食らいながらやる仕事より万倍マシですよ。

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ダンジョン掘って30年、今更最強の冒険者 ~壁をぶち抜いたら邪神の封印が解けたけど懐かれました~ 水色の山葵/ズイ @mizuironowasabi

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