第14話 神話の大戦
「お前達! 僕は神だぞ、お前達の造物主だ。子がそれに意見するとはどういう了見か説明してみせろ」
神様って奴が、本当にこんな奴だったら人間に生まれた事を恨む。
「お前の事を、世の中の人間は毒親って呼ぶんだろうな」
子供なんだから、親の言う事は聞け。
なんて、今の時代は流行らない。
「……お前、どうあっても僕に従う気は無いんだな」
「貴方の提案を聞いて、私達にメリットがあるとは思えません」
「メリット……そうだな、正しく生きられる」
「意味が分かりません」
少なくとも、アルスが辛そうな顔をしている。
そのデメリットを打ち消せるだけの条件じゃない。
清水さんもそう思ったのだろう。
チラリとアルスに視線を向けていた。
「人間というのは意見を食い違える。それは持ちえる情報と能力に差があるからだ。その差を埋める為、人は対話という能力を獲得した」
「納得のいく説明が貰えるって事ですか」
「この世界は醜いと、そうは思わないか?」
醜い。
その意図する部分が何なのかは分からない。
けれど、そりゃ人が70億人も居れば醜い部分なんて仕方なく生まれる。
ブラック企業とか壊滅すればいいのに。
そう思った回数は100や200じゃ効かない。
「飢餓、戦争、病気、それ以外にも様々な要因で弱者は虐げられる。その刃は惑星に向き、地球という惑星はダンジョンという危険信号を発信し始めているんだよ」
「ダンジョンが、地球からの危険信号?」
「惑星が状態を維持する為に悪性腫瘍を実在化させている。人を始めとした地球上の生物がダンジョンを攻略する事で、地球は治癒される。しかし、よく考えて答えろ! このままのペースでダンジョンが増え続けたとして、人間はその全てを攻略できるのか?」
ニュースで見た事がある。
年々ダンジョンの個数は増加を始めていると。
年々、攻略不可能なダンジョンが世界中に増えていると。
そうじゃ無くても、ジャングルや深海なんかの人類が到達しえない場所のダンジョンは攻略できない。
もしもこれが続けば、世界はダンジョンの入り口で埋め尽くされる。
そんな終末論を聞いたことがある。
もしも、この男の言葉が真実だとしたら。
「……」
清水さんが、S級探索者が答えを戸惑っている。
それは、自分の取って都合の悪い物が回答だからだ。
つまり、男の言葉はおよそ真実なのだろう。
「今、この惑星に必要なのは根本治療だ。悪性腫瘍が増え続け生物の住めない惑星にするのか? 違うだろ人間、お前たちは地球のために一度滅びるべきだ。そうすれば惑星へのストレスが減る。そして新人類は同じ過ちを犯させないとこの僕が約束する」
だから、そこで見て居ろ。
男はそう言葉を締めくくった。
「横島さん、アルスちゃんを連れて逃げて下さい。どれだけ時間を稼げるかは分かりませんけど……」
「大丈夫なんですか?」
俺から見てもあの男は普通じゃない。
あのアルスが、大人しく言われるがままな事が何よりの証拠だ。
「余裕があるとは言えませんね。なので横島さんは正直、邪魔です」
俺に気を使う事を止めた。
それほどまでに目の前に相手に集中しなければならない。
暗に彼女はそう言っている。
「アルス」
「聞いた通りだ、神に人は勝てん。逃げていいぞ」
下を向き、突き放す様にアルスは行った。
嘘が不得手な奴だ。
本当に邪神かと疑いたくなる。
びしょびしょだったんだぞ。
お前が壁に貼りまくったシール。
「誰が僕の妻に勝手に話しかけていいと言った?」
そう言いながら、男が俺に指を向けた。
瞬間、空間がブレる様な錯覚に陥った。
「独占欲の強い男って、私苦手なんですよね」
清水さんが刀を振り抜いた体制で俺の前に現れる。
空がピカッと黄色く光った。
「おぉ」
多分、男の指から光線みたいなのが出て、清水さんがそれを打ち上げたって事なのか?
見えん。
「アルス、世界旅行はしないのか? 一緒に色んな場所を見てくれるんじゃなかったのか?」
人類絶滅なんて御免だ。
新人類の誕生なんて知った事じゃない。
地球が危ないとか、俺にどうする事もできない。
「なぁ、お前邪神だろうが! 家族に我儘の一つも言えねぇのかよ!」
「勝手な事を言うな! 私だって考えたのだ! 私にどうしろというのだ?」
「知るか!」
「な、なんだそれは!?」
俺は馬鹿みたいにブラック企業に40年近く務めた無能だぞ。
そんな、世界平和の方法なんて知る訳がない。
だけど、知ってる事もある。
子供の責任ってのは親が取るもんだ。
「お前がどんな我儘言っても、お前がどんな悪戯しても、俺が頭下げてやるんだよ」
俺には子供も仲のいい親戚も居ない。
「それが家族だ」
でも、俺がもし家庭を持つならそうしてやりたい。
「もっと子供らしく困らせて見ろよ」
「私は子供じゃないぞ!」
「どう見てもガキだろうが!」
「これでもか?」
そう言って、アルスは最初に見せた巨大な骸骨の姿に変わった。
「あの姿は変身していただけだ。私の本性はこれだ。歳とか見た目とか、お前も青子もそう言うのを気にしてる。私とお前たちは同じじゃない。それでも同じ事が言えるのか?」
「その顔、夜に見るとチビる自信があるな」
「ほら……結局そうなのだ……」
「けど、お前はお前だ。顔が変わったとか、体形が変わったとか、歳が変わったとか。そりゃ対応は変えるさ。けどお前はお前って認識が変わる訳じゃない。お前が俺の家族だって事実が変わる訳じゃないだろ!」
横で剣戟の音がうるさい。
空に幾つもの光の爆発が舞っている。
「悪いな女。スキルとは僕が人類のダンジョン攻略を手助けする為に与えた力だ。それで僕に勝つ事なんてできる訳ないだろ?」
「くっ」
地面を滑る様に、清水さんが吹き飛ばされて来た。
清水さんの身体はボロボロだ。
装備が損傷し、生傷が幾つも見える。
対して、男の方は無傷。
どうやら、実力差は明確らしい。
「さぁ、次はお前の番だ」
男の手が俺に向く。
「あっ」
また上空で光が爆ぜた。
「ジクウ、我儘を一つ聞いてくれるか?」
男の手と俺の間に、いつの間にかアルスが居た。
骸骨ではなく幼女の姿に戻って。
「花嫁化粧似合ってると思う。けど、お前にはまだ当分早いだろ」
俺よりずっと年上でも、まだ早いんだ。
まだ、俺はアルスの家族になってから数カ月しかたってないんだ。
「悪い気はしないな。ジクウ、私は邪神だが人類を救ってもいいと思うか?」
「あぁ、俺はあんなロリコンより、
「そうか。信者の期待には応えなければならないな」
アルスは男を指す。
「悪いがアトランテ、婚約は破棄するのだ!」
「アルス・モア・フリーデン、君はそうか、分かったよ。やっぱり最初から君なんかに期待するべきじゃ無かった。46億年前の恨み、少し晴らしてみるとしよう」
「ははっ、泣き虫小僧が吠えるではないか」
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