第19話 蕎麦
「それで酷いんです。恋バナみたいな話になっちゃって、何も無いのにある前提で話されるんです」
蕎麦を啜りながら清水さんが愚痴を話す。
しかし、聞くのが辛くなるようなグチグチした物ではなく、楽しい愚痴って存在するんだなと目から鱗だ。
居間のテレビには紅白の録画が映し出されている。
しかし、清水さんが仕事を辞めたというのは驚きだ。
アルスが攫われた後、清水さんは実家に一度買えり、剣聖と呼ばれた探索者だった祖父の指導を受け直したらしい。
そのかいあってSランク探索者に昇格。
しかし、元のチームに戻る事は無く退社したと。
そんな話を聞いていた。
「それで、青子はこれからどうするのだ? ここに住むのか?」
なんでそうなるんだよ。
アルスの思考回路は未だに良く分からない。
邪神と人間、常識も大分違うんだろ。
「住まないよ。新しい探索者の会社を作ろうと思ってるの」
「へぇ」
Sランク探索者が
しかし、大企業を辞めて自分独自の会社を持つ理由は何だろう。
「アトランテの話を聞いて、思う所があったといいますか」
「あぁ、ダンジョンをちゃんと攻略しないと世界が滅ぶ……みたいなニュアンスでしたね」
それを未然に防ぐために、アトランテは暗躍していた。
その方法は、人類を抹消して新人類を作る、なんて破壊的な方法だったけど。
あの焦りようだ。
その日は遠くは無いのかもしれない。
「本当の話だぞ。我ら神はすべからず惑星によって創造された。その後神が生命を創造したのだ」
なんか、大変な事聞いてる気がするんだけど。
人類創成なんて数千年単位の命題が解決しちゃったよ。
「惑星としてのエネルギーに満ち溢れていたこの星は、しかしここ数百年魔力の循環が上手く行っておらぬらしいな。私も復活した後は少し違和感を感じていた」
「その怪我が可視化したのがダンジョンって事かな?」
「であろうな。このような事態は地球始まって以来初めての事だ。アトランテの言っている事も間違いでは無いだろう」
「その原因は何なんだ?」
「まぁ、確実には分からんが十中八九現代科学だろうな。地球への負荷が尋常じゃ無く増して居るのは確かだ。魔力的にもな」
魔力的にも。
と言う言葉が何を刺すかイマイチぴんとは来ない。
けど、大変な事態なんだろうなとは思う。
スーパーヒーローが解決してほしい問題だが、どうやら気が付いている人間はそんなに多くなさそうだ。
そして、俺の目の前には絶賛ヒーロー活動に勤しもうとしている美人さんがいる。
年上として、協力できる事があるのならしてあげたいけど。
「やっぱりそうなんですね。今、世界にはダンジョンの攻略が断念されるケースが増えてます。もし傷という言葉が正しいのなら、不治の病が増えている事になる」
清水さんは冷えそうなくらい、蕎麦麺を持ち上げたまま話す。
「殆どの探索者は、それでも別に構わない。攻略できるダンジョンを攻略していればお金には困らないから。けど違うと思うんです。探索者の仕事って本当は、全てのダンジョンを攻略する事なんじゃないかって」
ゲームがクリアできなかった普通な投げる。
けど、彼女はそれが重要な事だからと挑む人なのだろう。
心意気も直向きさも俺の若い頃とは段違いだ。
けど、俺はもう年老いた身で彼女の様に輝きを放つ事は無いだろう。
だから、羨ましくもあり、美しくも感じる。
何にせよ、若者が頑張る姿はいい物だ。
「でもなんで神様さんはダンジョン攻略しないんだ? アルスとアトランテしかいないとか?」
「いや、あと10柱くらいはいるな。でも、地球が滅びても神が死ぬことはないし、単純に興味が無いのだろう」
人間作っといて後はどうぞご勝手にか。
まぁ、人の倫理観で語っても仕方ないんだろうが、結構クズ親じゃないか?
「それで、良かったらなんですけど、横島さんとアルスちゃん、私の会社に入りませんか?」
今日の蕎麦は結構値段のする鴨肉を取り寄せて、そば粉から作った自信作だ。
2人ともから高評価を貰っている。
多めに作ったからお代わり自由だぞ。
うん、スープも朝から煮込んでるから旨い。
ズズズ……
え? なんて?
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