第18話 剣聖の孫2


 探索者の定義。

 それは、スキルという力に目覚め、ダンジョン攻略を生業にする者である。


 その中にはランクがあり、それは『レベル』と『スキル』によって判別される。


 人類は探索者の持つ物理限界を突破した力を魔力と名付けた。

 魔力は人それぞれ総量が異なる。

 多ければ多い程、身体能力が強化され、それはスキルにも影響を及ぼす。


 よって、探索者の強さは基本的にレベルによって推し量れる。

 レベルは後天的に向上する事はあるが、どのような要因によって向上するかは不明である。


 スキルに覚醒した時点で、魔力を持つ事は確定的である。

 しかし、レベルの上昇は3日で起こる者も居れば1年経っても起こらない者もいる。

 今の所、その条件は漠然としか解明されていない。


 曰く、魔物と戦う程レベルは上がる。

 曰く、ダンジョンに居た総時間でレベルが上がる。


 そんな話は数あれど、どれも明確な数値を叩き出す事は無かった。


 探索者にはSからFまでの七段階にランク分けされる。

 それはイコールで、レベルアップした回数である。

 6度のレベルアップを経験すればSランク探索者として認められる。


 これは、体内の魔力量を観測する事で測定可能。

 故に誤診はあり得ない。

 だからこそ、清水青子はSランク探索者とは認められなかった。


「相手になると思ってんのかよ?」


 灰村裕也が、武器を構えてそう言った。


(アトランテやアルスちゃんと比べると、全く恐怖を感じない)


 相対する青子は、それに応えず、ただ開始の合図を待った。


「では、始め」


 簡素な掛け声で試合は始まった。

 どちらも動かない。


 武器を構え、タイミングを読みあっている。


「はっ、結局あんたは何も変わってねぇ」


 先に仕掛けたのは灰村だった。

 武器に構えた槍を真っ直ぐと向け、足裏が爆ぜる。


 全身の何処でも起爆する事ができる。

 それが彼の能力スキルだ。


「これで終わりだ」


 そう言って、灰村は青子の首元へ槍の切っ先を宛がう。

 圧倒的な身体能力の差。

 レベルアップした回数が違う。

 灰村は既にSランクに達してから二度のレベルアップを体験している。


 つまり、本質的なレベルは8。

 青子はSランクになったと言ってもなりたて。

 レベル6が良い所。

 この2レベルの差は圧倒的な身体能力の差、そしてスキルの差を生む。


「えぇ、終わりよ」


 その声は、灰村の後ろから聞こえた。

 自分が青子だと思っていた物がいつの間にか消えている。

 灰村は全く気が付いていなかった。

 いや、この場にいる誰も、何が起こったのか理解できていなかった。


 青子の刀の切っ先が、灰村の背筋に宛がわれていた。


「転移……いや違う。お前のスキルはそんなんじゃねぇ」


 スキルとは殆どの場合1人1つだ。

 稀に2つ持つ物も居るが、青子は違う。

 そして青子のスキルは転移等と言う物ではない。


朧姿おぼろすがた。これはスキルじゃないの」


 それは、剣聖より受け継いだ極意で秘奥で必殺の技。


 青子の持つスキルは『攻撃予測』。

 自分が何もしなかった場合、自分に命中する攻撃を予め視認する。

 それは、彼女の祖父である剣聖から遺伝した物だ。


 探索者には魔力を知覚する力がある。

 探索者は常人よりも直観に優れる。

 探索者の情報所得は視覚80%ではない。

 魔力、殺気、直観。それは高位の探索者であればあるほど、無視できない要素だ。


 朧姿はその性質を逆手に取る。

 己の魔力を極限まで減らし、何もない空間に殺気を生み、極大の魔力を乗せる。

 目には何も見えない。

 なのに、相手はそこに敵が居ると思い込む。


「探索者たるもの、目に頼ってばかりでは駄目。そう言われて訓練を受ける。魔力感知の精度は上がり、直観の正答率も上がる。だからこそ、この技は成功するのよ」


 強者を打倒する為の技。

 それがこの技の真価である。


「ふざけんじゃねぇ!」


 激情の感情を露わにし、灰村は振り返る。

 槍の突きを青子に向けた。


 しかし、槍は刀に滑らされ火花を散らすのみ。

 槍が限界まで伸びると同時に、青子は姿勢を屈め灰村の手首を斬る。

 そのままアクロバティックな動きで、足を上げ、槍を蹴り飛ばした。

 槍が床に転がり回転する。


 灰村があっけにとられている間に、足首が斬りつけられ踏みつけられる。

 そのまま懐に迫り、青子の腕が灰村の胸を押す。

 姿勢の制御は不可能。

 仰向けに倒れ、その上に青子が馬乗りになっていた。


「その根性、一度叩き直した方が良さそうね」


 刀を床に突き立て、拳が振り上げられた。

 訓練場にボコッ、バコッ、という音が響き続けた。


 数分後、顔を張れ上がらせ気絶した灰村の姿がそこに有った。


「次は誰が相手?」


 他の3人に向け、青子はそう言った。


「こんなに強くなってるなんて……」


「拙者は遠慮しておこう……」


「あはは、私もパスでー」


 であればと、視線は樋口へ向いた。


「別の意味で、君には残って欲しくなったよ」


「すいません。ですが、もう決めた事なので」


「本当に僕は見る目が無いな。もし何か困った事があれば、いつでも頼ってくれ。せめてもの詫びはさせて貰う」


「感謝します」


 ペコリと頭を下げると、青子は床に刺した刀を鞘に納める。


「皆も、もし私が困ったら助けてくれる?」


 少しだけ気恥ずかしそうに、青子はそう言った。


「え、先輩にそんな事言われたの初めてです」


「であるな。まさか、あの冷血な青子殿からそんな言葉が出るとは」


「なっ、私の評価どうなってるのよ。そんな冷血じゃないわよ」


「可愛いー。もしかしてパイセン彼氏でもできましたー?」


「居ないけど」


「じゃあ好きな人とかー?」


「…………いませんけど」


「なんで敬語? 嘘下手過ぎでしょ。どんな人なんですか? 教えてくださいよー!」


「いないってば!」


 結局、青子が帰れたのはそれから3時間質問攻めを受けた後だった。

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