ダンジョン掘って30年、今更最強の冒険者 ~壁をぶち抜いたら邪神の封印が解けたけど懐かれました~
水色の山葵/ズイ
第1話 30年掘り続けた末
俺の名前は
現在58歳、独身。
趣味は、ダンジョンの壁を掘り進めること。
大昔、今から200年程前の事らしいが世界にはダンジョンと呼ばれる異次元の穴が出現する様になった。
それに合わせる様に、人間の中に『スキル』という特別な力に覚醒する存在が現れた。
そして、俺もそのスキルに覚醒した一人。
スキルに覚醒する可能性は千人に一人であり、覚醒すれば即ちダンジョンを攻略する探索者への道が開いたことを意味する。
探索者の平均年収は二千万円。強力な攻撃系スキルを持つ者ならば、億以上を稼ぐ人間もザラだ。
そんな冒険者に俺もなれる!
そんな夢を抱いていた時期もあった。
「さて、今日こそ何か出るかな」
俺はダンジョンの最奥で重くなった腰を上げる。
大型の犬型モンスター、ケルベロス君が縛られている姿を見ながら「おはよう」と声を掛けて中に入る。
両手でピッケルとシャベルが乗せられた、瓦礫を運ぶ用の手押し車を押す。
俺が覚醒したスキル。
それは探索者として就職するには弱すぎる能力だった。
――壁破。
それは本来傷すらつかない筈のダンジョンの壁を壊せるという、ただそれだけの力だった。
俺は大学を卒業するころには探索者の夢を諦めていた。
普通に就職したが、その職場がブラックで最初は苦労した記憶がある。
就職から8年後、休みが無さすぎて貯まっていく一方だった貯金を崩してダンジョンを私用に購入。
ボスが倒されるとダンジョンは消滅する為、探索者を雇ってボスを縛り上げて貰った。
それから30年、暇な時間を見つけては俺はダンジョン壁を掘り続けている。
分かって居るさ。
こんな事を続けても意味は無い。
30年掘っても何も出なかったのだ。
それが何よりの証拠だろう。
けれど、俺は58になった今でもその趣味を止められない。
様々な器具を購入し、ダンジョンの奥を掘り進めている。
彼女も嫁も家族もいない。金は有っても使い道がこれ以外ない。
ブラック企業に就職中なのは健在で、暇な時間があっても遠出なんてできた物じゃない。
家事購入した庭にあるダンジョンで、穴を掘っているくらいが丁度いい。
実際、この趣味が高じてかブラック企業で3轍4轍が当たり前でも倒れた事は2度しかない。
まぁ、流石に歳を感じる場面は増えて来たが。
ヘッドライトを灯し、ピッケルを振るう。
カキン! カキン! 耳馴染みの良い音が響く。
最初は何か出るかもしれないと、億万長者にでもなれるかもしれないと思ってピッケルを振るっていた。
40を超えた頃には、何も出ない事は理解していた。
それでも今までやめなかった。
きっと、こんな単純作業が自分のしょうに合っているのだろう。
ブラック企業と嘆きながら、転職する努力もしなかった。
結局自分は、事なかれ主義の小心者だった。
俺の人生もそう長くはない。
最後に、ダンジョンの奥、壁にどれだけ穴を掘っても意味は無いと後世に情報を残すのも一興かもしれない。
そんな無気力なトンネル堀を俺はきっと死ぬまで続けるだろう。
でもそれでいい。
俺の成果が何にもならない事を、人類が知るのだ。
きっと、それは意味のある事だ。
「くそっ」
涙で視界がぼやける。
自分の人生の無意味さで。
その言い訳が次から次に溢れ出て来た事への情けなさで。
「くそっ」
俺はピッケルを振るう。
無意味に無価値に……
ガラッ、ガラララ
いつもと違う手応えが有った。
ダンジョンを覆う岩の材質はずっと同じ、密度も同じで洞窟の様な空間はダンジョン部分以外には存在しなかった。
けれど、今の手ごたえは……
それは正しく、そこに空間があって壁が崩れる様な音だった。
「まさか……」
声が震えた。
わなわなと手足が躍る。
ぼやける視界を袖で拭い、視界を空洞に移す。
ヘッドライトを刺し込むと、そこは球体の空間になっているのが分かった。
「なんだこれ……」
中央には台座があり、一本の剣が突き刺さっている。
更に、その剣には幾つもの鎖が巻き付いていて、鎖の先には杭が撃ち込まれている。
それが台座を中央に6つ。
俺が空けた穴は床から3m程の場所にある、急いで家に帰り、賭け梯子を持って戻ってくる。
それを伝って、恐る恐る降りていく。
ここは紛いなりにもダンジョンだ。
モンスターが出て来る可能性はゼロじゃない。
慎重に進む。
一応、二十代の頃に購入した魔物避けのお香を焚いて入る。
消費期限残ってるかは知らん。
「剣、台座、鎖、杭が6つ」
さらに言えば、台座には魔法陣の様な物が書かれている。
俺は唾を飲み込み、剣に手を掛けた。
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