✄アリガトウゴザイマス

 暗くなった配信画面ごとゴーグルをむしりとった。


「やっ、やったなあっ!?」


 同じく脱いだデバイスを小突いている灯糸へ詰め寄る。


「よくもあれだけ言っちゃいけないことをペラペラと! コンプラ研修受けてんのか!?」

「ふふ、なんですかぁ今さら、好きにしろって言いましたよね?」


 それにー、と媚びるように突き出される唇。


「可愛くてカッコいいは本心なんだけど」

 ――なんちゃって、誤魔化せないかな?


 結婚式で出される生菓子みたいな口元をわし掴みにした。無垢でキラキラで、白々しい。


「いひゃぁい~」

「うるさい、もうその手には乗んないから」


 もろもろ準備や配信の打ち合わせで三日。コイツの性質もわかってきた。

 ふつう人は言ったことに責任をもつけど、灯糸にはそれがない。ナイフで脅した次の瞬間にはしです大好きと手を握ってくる。内心や文脈にかかわらず、ただ相手を思い通りに動かすための最短アプローチを場当たり的にしているだけ。


「ぷぁ、センパイの手って食パンの匂いがする」

「なっ……!」

「癖になりそうかも、ふすふす」

 ――触らないで、うざい。


 だったらその真意はにはない。言葉の裏ばかり読むこの性分も、上っ面がアテにならない相手ならちょうどいい。


「わかった、もうしないから嗅ぐな変態!」


 灯糸は鼻をつままれたような顔をした。


「む、センパイ素直じゃなぁいぃ」

「あんた自分が何やったか分かってんの?」


 無視して問いただす。VCが政党を支持しないと公言した。その意図を。

 かしげられる小首。

 

「これで新旧両方のファンをひっぱれますし。センパイもVCを続けられてWin‐Winじゃないですか?」

「バカ言わないでよ……自分で言ってたでしょ、私たちは」


 票田。民主国家でカネとヒトを集めるもとになるもの。それを稼ぐから私たちは自由でいられる。いさせてもらえる。灯糸はそれを食いちぎろうとした。


「あんた、親とか兄弟とかは」

「一人っ子です。親は仕事で海外に連れていかれて音信不通に」

「……」


 はじめて聞いた身の上に面食らった。


「ぶっちゃけこの移籍も左遷させんなんです。私が党にとって〝優秀〟でも〝模範〟でもなかったから」


 思いつめたような目が私を射抜く。


「センパイとやりたいのは本当。でもそれ以上に、誰かにあたしの道を曲げられたくない。……だから、このタイミングしかなかったんです」


 トートバッグの底から引き出されるレインコート。ひるがえった赤が視界を覆い、予備動作なく突きつけられた刃にげんなりした。またか、と。


「イナバ已亡のメインパスワードを教えてください。もういらないんですよね?」


 フードをかぶった顔はすましたもの。きっと背中を押している程度の認識しかないんだろう。初めて会った夜もこんなふうだったのか。


「ワガママにつき合わせてごめんなさい。これ以上は誘いません。だから」


 かと思えばしおらしく細い眉毛を下げてみせる。いいや、もう私なんて要らないだろう。さっきの配信さえ済ませたなら。

 灯糸はストーリーを作った。

 本心ではVCを続けたい初代わたしとそれを叶えようとする二代目あかし。配信者と元ファンの二重人格ダブルキャストが、それを認めない運営に反抗する。初代を惜しむリスナーを一人残らず自分のシンパへと変えてしまう物語。

 そこに初代わたしは必要なく、一緒にいるというていさえあればいい。配信に出ない言い訳くらいできるだろうし、そもそも回数を重ねるたび彼女自身のファンが増えていくだろう。

 実力がある。強引でしたたかでもエンターテイナーとしては本物だ。こんな無茶苦茶をして勝算があるのかは分からないし、そもそも訴えられて終わりかもしれないけど……。

 胸の前の切っ先を下ろさせる。


「――、――――」


 フード内側のマイクへ顔を寄せるとパスワードを音声入力した。

 メインコンピュータへのアクセスが許可され、暗号化前のマスターデータまでが開帳される。

 これで引き継ぎは完了した。彼女の思惑通りに。


「……アリガトウゴザイマス」

「何で不服そうなわけ」

「べぇっつに」


 ありえない物を見るように間隔を狭めたまつ毛が、私の首筋をかすめた。

 ちゅ。


「はぁっ!?」


 鎖骨に押しつけられた湿っぽい感触。驚いてあごを引いた頭にゴーグルをかぶせられる。


「ウェイクアップ蜃楼シェンロー、ライブをスタート」

「な、な……あっ?」


 再起動する配信プラットフォーム。

 だがスタジオの外へはいくつもの足音が殺到し、数秒前から荒い解錠音を響かせていた。

 踏み込んできたのは三人一組スリーマンセル


〈おかえり〉〈操作ミス?〉〈なんで事後みたいな空気なんですか?〉〈警備員ワラワラで草 ガチじゃん〉〈今は配信つけないほうが……〉


 フルフェイスの警備用デバイスと防刃ベスト、警棒。先頭の一人がいつも挨拶していた守衛のおじさんだと気付いて変な笑いが出た。現実感が無さすぎる。


「抵抗するな!!」

「しません! あんたも早く謝れバカ!」

「やぁだ、何ビビってんですかここまでやって」

「おまっ、お前が……っ!」


 秒で両手を挙げた私の横で灯糸は悪びれもせずデバイスを操作する。ひらりと細い腕が掲げられた。


『命令実行/インストラクション――』


 現実リアルに一枚重ねたレイヤーに光が収束する。処刑槍の逆回し。あらゆる防壁を突破する光槍と、警備用オペレーション・システムの支援を受けたスタッフ。何する気だ、まさか。

 

〈画面がががが〉〈バグってる〉〈二代ムなにした?〉〈やめろ消されるぞ〉〈シェンローちゃんはヤバい〉


 予想は最悪の形で裏切られた。

 射出された槍はあろうことか天井へ。空間が軋み、歪む。

 

『――Longinus/ロンギヌス・Nimrod/ニムロッド』


 MR領域そのものへの攻撃。その標的は世界を覆うMRプラットフォーム【蜃楼シェンロウ都市】のメインサーバーにほかならない。

 例えるなら大樹に住まう一匹の虫が枝へ毒バリを刺したようなもの。自然界なら虫こぶを作って終わりかもしれないが、この樹は防衛機構を有している。


「センパイ、この前のアレやってください」

「は、アレって……」

「メインデータはそっちに転送しましたから。消えたいなら別ですけど」


〈ミュートだぞ〉〈なんか話してる?〉〈ノイズやば〉〈配信とまった?〉


 ラグでガクつく風景。ゴーグルを脱がないのは現実世界以上のヤバさがそこにあると直感したから。警備員も戸惑ったようにデバイスを確認している。

 事務所のネットは単線だ。つまり大樹せかいの側からこっちをたとして、私達も警備のおっちゃんも等しく有害なアドレスということ。


〈これアカウント消されたんじゃね〉〈イムとの接続切れてる〉〈来るぞ……〉


 〔蜃楼ちゃん〕と呼ばれる実態不明のガードウェアがある。【蜃楼都市】のメインセキュリティ。

 正体不明なのは怖いもの見たさでクラッキングを試した連中が軒並みBotアカウントにすり替わっていたり、または何も起きなかったと報告したりしたから。でも最高レベルの突破力を有するロンギヌスなら。


「わぁ、キレイ」

「っ」


 槍が裂いた天井から虹光があふれ出す。

 威容をもって降りてくるのは少女の形をしたモノ。オーロラがなびくツーテールに、雪原を映したワンピース。バラの唇がつぶやくように動き、恒星こうせいの瞳が私たちを見下ろして、


「っ、命令実行/インストラクション――山海妖経・管狐/クダギツネ!」


 呪詛返じゅそがえしが墜ちてくる。この演出イメージを観せられている時点で終わっている。メインPCが煙を噴き壁のスピーカーが人獣の混じったような悲鳴を爆音で撒き散らす。ゴーグルの演算負荷が跳ね上がり、警備員らが頭をかきむしるようにもんどりうった。


「無理むりムリムリ!」

「センパイなにしてるんですか逃げますよ!」

「フザけんなあッ!」


 なーにが「これ以上は誘いません」だ、要らないから盾にするって言え!

 表示するだけで演算資源リソースが干上がりそうな極彩色の彗星が降り注ぐ。即座にパフォーマンス優先表示に切り替えたがその隙を狙われた。ファイアウォールが数十のマルウェアを検知して警報を鳴らす。橋頭堡バックドアを築こうとする尖兵たちを無数の偽情報フェイクタグが包み込んだ。


「無事ですか、データ!?」

「いまやってる!」


 放送事故なんてレベルじゃない。ここまでやらかしたらもう政党ここにはいられない。

 昏倒した警備員の間を駆け抜ける。ガードウェアの本質。クラッカーに現実リアルと同等の攻撃リスクを負わせる害意の天秤。弓を引いておいて何をのうのうと生きていると言わんばかりの報復措置。

 対するこちらがとれる手は欺瞞紙デコイ。自分側のあらゆるファイルへ偽の荷札タグを貼り付ける。それを高速で貼り変えることで敵にマトを絞らせない。ただあくまで瞬間的な防御措置であり使用中はこちらの挙動まで制限される両手もろての盾。だけどそれも、


「駄目、切断もシャットダウンも出来ない!」


 目論見もくろみが外される。灯糸に襲われた時のようにセーフモードにできればと思ったがそれすら思い通りにならない。どうやら初太刀で相当深くまで斬られたらしい。


「物理的に壊すのはどうですか、電源周りだけ!?」

「一体型デバイスじゃ無理、データまで壊れる!」


  内蔵バッテリーを抜くには工具が必要だ。せめて使い慣れた傘型デバイスなら。あいにくチェック中でまだ手元にない。


「ていうか酔う! ガックガクでかけてらんないもう!」


 ゴーグルの視界はいくつもの情報付与を経て映し出される。高負荷で動かせば処理が遅れて当たり前だ。目は離せないがさりとて走るのも無理になり廊下の壁に手を着いた。


「……っ!? うむぅっ!」


 あごに絡みついた細い指が口腔に押し入ってきたのにとっさに反応できない。背中を腕でホールドされながら舌奥を押されて意図に気付く。


「もー吐くなら吐いてください、時間押してるんですよっ」

「うぇええ゛……っげぇほっ、この、サイコ女ぁ……!」


 裏返った胃の中身の味とめまいでキレそうになりながら寄り添う体を突き飛ばす。確かに時間はない。遠からず敵はこっちの偽装を破ってくるだろう。

 手すりづたいに階段を降り始めたとき、上がってきた人影と鉢合わせた。


「止町、アンタ……」

「ぁ、部長……ぶちょぉ~……!」


 腫れぼったい目が私をみてぎょっとする。その手には傘型デバイス。


「それ私のをぅっ!?」


 駆け寄ったハグをすかされ肩を組まれる。というより捕獲される。


「メチャクチャして何のつもりだい」

「無実なんですぅ~あの子がぁ~!」


 泣きながら訴えると詰問はため息に変わった。


「バカだね、ここまでされちゃかばえないよ」

「あの、それ返してもらってもいいですか」


 そーっと傘の柄に伸ばした手をはたかれる。迫力のあるめじりがじろりと細まった。


「どうでもよさそうだね」

「よかないですけど、それはそれとして貰えるものは貰おうかなと」


 現状を説明するとデバイスを押し付けられた。


「ウィルスを駆除できるのかい?」

「無理です、手あたり次第ってカンジなんで。無線LAN機を壊すつもりでしたけど、もう侵入はいってるヤツは動き続けますし」

「熱っつぅ!? センパイこっちヤバいです!」


 飛び上がった灯糸がフードを脱ぎ捨てた。しきりにあおぐうなじに赤いあとがついている。私もゴーグルの排熱部に触れると、すぐに離した指先を耳たぶで冷やした。


「熱暴走させる気かも。半導体ごとかしちゃえばデータを隠す場所なんてないから」


 一体型デバイスは排熱が弱いものが多い。ギリギリのスペックでそろえた私はなおさら。


「すみません部長、お世話になりました」

「いいから!」


 追い立てるように手を振る登美部長を残して無線LAN圏外を目指す。熱への対処を考えた。


「配信する」

「はぁっ、は、ぁえっ?」

「やりようはある。けど筋を通さないとダメだから」


 正気かと疑うような視線を受けながら、傘を広げた。こっちはキャリア回線だ。ゴーグルをずりあげ、傘裏のスクリーンを起動する。


「あ、ちなみに生顔出しだから」

「ひきゃああぁあっ!?」


 灯糸がレインコートにくるまりながら急ブレーキを踏んだ。だってキャラを動かしたり背景をデフォルメするのも演算だし。やればやっただけ加熱してしまう。

 遅延ゼロ秒、画質は最低値。正真正銘の生放送。


〈三 段 突 き〉〈消された?〉〈描き換えできてないぞ〉〈毛皮はげてますよ〉〈陰キャイム久しぶり〉〈最期の言葉聴くね……〉〈画面ジャギジャギで草〉


『まだ殺すな! いやぶっちゃけヤバいのですけれども!』


 ゴーグルの画面がヌルヌル動き始めたのが不気味だった。おそらく過熱防止のリミッターを外されている。いつバッテリーが火を噴いて頭が爆発してもおかしくない。


『手短に言いますわ。わたくしのチャンネルメンバーで、デバイスの一部を貸してくださっている方々にお願いいたします』


 有料のファンクラブ会員のうち、金銭でなくリソースを提供してくれているメンバーへ呼びかける。

 かつてマシンスペックにあえいでいた雇われVCが思いついた苦肉の策。最新ゲームの配信のため有志のデバイスやPCをネット上で連結して仮想のハイスペックマシンを構築した。その名も。


『今から御寄進箱クラスターを私用で使います。わたくしと繋がったコンピュータはウィルス、マルウェア等の被害を受ける恐れがあります。……だから全員電源切れ、以上!』


〈全員切ったら誰の使うつもりだよ〉〈蜃楼ちゃんとコラボ配信!?〉〈無事でいろよ〉〈横領じゃん、百回フォロー解除押します〉


『お前らさぁ……1分待ちますわ。それまでに身の安全を確保してくださいまし。他の小狐のかたも――熱っづ!』


 ゴーグルの肌に触れる部分が火傷するほど熱くて思わずむしり取った。指に付着した黒く溶けだした樹脂に冷や汗がふき出る。


〈これアーカイブ残る?〉〈悲鳴が雄々しすぎる〉〈いいからやれ〉〈CPUヤバいんじゃね〉〈指示するわけじゃないけど早くした方がいいよ〉〈蜃楼ちゃんお迎え準備した〉


 ビルの玄関を駆け抜けながらはやる気持ちを抑えた。コメントなんて全体の百分の一にだって満たない。裏ではもっと現実的に自衛しているリスナーがいる。あと30秒。


『半分くらいになりましたわね。ってなんで肝心の連結マシン数が減ってませんの。お前らバカなの? 大事な思い出とかストレージにないの?』


〈ないが……?〉〈また傷付けたな〉〈消える前に消されてえのか〉〈専用の環境組んでるから関係ない〉


『……1分。委細承知いさいしょうちいたしました。残っている小狐は悲しきオタクとギークとナードと見なします。わたくしと地獄に付き合ってくださいまし』


〈それが聞きたかった〉〈それ以外いたの?〉〈言えたじゃねえか〉〈御託はいい〉〈どれでもないけど応援してる〉


 傘に透ける空を睨みつける。そこには燃える両目で見下ろす少女のヒトガタ。


『誰も引き留めたくなかったから。言えなかったけどありがとう皆さん。――命令実行/インストラクション――山海妖経/シャンハイヤォジン』


 起動するガードウェア。目の前に経典きょうてんがその結び紐を解き、無数の竹冊ちくさくが展開する。宙に浮かぶその中から今必要な機能モジュールだけを呼出コールする。


僻目ヒガメ――黒山クロヤマ――獣路ケモノミチ――』


 侵入は視覚効果エフェクトに擬態して、クラスターネットワークに強制加入、データ脱出用のバックドアを開く。結冊コンパイルしていわく。


『――我者髑髏/ガシャドクロ』


 【蜃楼都市】から遮断ブロックの信号が返ってくる。やっぱりこんな子供だましじゃ最初の防壁すら越えられない。極彩の彗星が降り注いだ。


「こっち見ろ新人っ!」


 叫んで自分もゴーグルを地面に向ける。

 コンクリートを這いずり出る人骨の群れ。ローポリゴンの集合体が互いを踏み台にしながらドーム状に積み上がっていく。

 星が墜ちるたび天蓋はへこみ、なお湧き出た骨が穴を埋めた。うず高く伸びる壁が私たちを外界から切り離す。

 見上げる極光の空はもはや遠く切り抜かれていて。手の中ではぬるま湯然としたゴーグルが徐々に熱を失っていく。


『……ごめんなさい皆さん。わたくしには過ぎた方々。あなたがたのお陰でわたくしは生きています』


〈デバイスから聞いたことない音出た〉〈空冷ファンがバカ回っとるが〉〈生きててえらい〉〈データ無事か?〉〈どういう現象?〉


『端的に言うと熱暴走しそうでしたので皆さんのコンピュータに処理を丸投げしている状態です。空いたリソースでデータを逃がしていますので今しばらくこのまま、もちろん危険そうなら電源を切っていただいて構いません』


〈安物だから爆発するかも〉〈まだまだよ〉〈なにしてくれんだ〉〈視聴者数ちょっと減ったな〉〈ヤバそうだから一旦切る〉〈二代ムは?〉


『抜けていく人ありがとね。っしアップロード完了。〈蜃楼ちゃんのしっぽ捕まえた〉……!? おいやめろバカ、火遊びは危ないって今わかっただろうが!』


 イナバ已亡に関するデータをのき並み引っこ抜いて、ネット上のストレージに保存した。ここまでくればひと段落だ。【蜃楼都市】もそうだが大手ネットサービスほど堅固なセキュリティ対策がされている。まあ、企業ガードウェア同士の超兵器バトルも見てみたくはあるけど……。


『皆さんきちんと初期化かロールバック処理をなさってね。絶対。動作に問題なくてもどんな情報抜かれるか分かんないし、周りの人が危険ですから』


〈りょ〉〈結局どうすんだこれから〉〈やり方わからん〉〈シールド再充填しとくね……〉〈二代ムめちゃ静かやけど〉〈初代ムもう復帰したの??〉


『ふはっ〈検疫けんえき配信するか?〉て。いいですわね。メンバーを並ばせて一人ずつウィルスチェックします? ……〈陽性者に毎日安否確認凸〉あっはは!』


 名残を惜しむように流れるコメントを追っていく。小さいころ、楽しい夢のエンドロールに居座るように布団の中でまどろんでいたのを思い出した。

 最期の時間がおだやかに過ぎていく。本来ならこうしようと決めていた締め方。


『……いいえ、これっきりですわ。今後どういう対応をされるにせよ、それは皆さんと二代目でやっていくこと。だから』


 今後ともどうかイナバイムをよろしくお願いします、と。うめつくす髑髏ドクロたちに笑う。

 そんな私たちを灯糸は暗がりから見つめていた。不気味なモノに会ったように。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る