✄二度と誰かに
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ムカシのいむチャ@初代 @Inaba_Imu
ケンカしにいきますわよ‼️!!!!
午後19:36 · 203▯年11月30日·Twitton for VIVID
🔁 4.3万 👍13.1万 💬83
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月でも星でもない、銀河のへりのような紫黒の光をこぼす
ランドマークは天を二分する超高層ビル。百階はくだらないその節目節目には張り出した展望室があり、ビルというより仏塔のようなシルエットを作っている。
頂上には
『……くす』
その
私が
その瞳に映るのは、塔の中ほどに光るネオン文字。
〔まちのネジさん いま6825人!〕
数字は増え続けており、対応するように一階から七階までが点灯していた。
〈何の数字?〉〈ワールドの運営リソース募集してる〉〈サイトどこだよ〉〈ネジ扱いすな〉〈リンク貼っていいやつ?〉〈始まったら発表あるんじゃね〉〈偶然見つけた奴らが先走ってるだけ〉
「……聞いてたのと違くない? もう募集してる」
[[やられた。配信告知に隠しリンクがあったっぽい]]
ヘッドセットの向こうで
予定では灯糸がクラスターを構築する前に乱入する作戦だった。初手からハズされた形。
現在地は塔の建つ円形の広場で、私はアバターを偽装して一般リスナーにまぎれている。
[[どうする、もう突っこむ?]]
「いや。まだリスナーが集まりきってない。傾城さんの出番はいつ?」
広場を囲む街路の上には【お引越し凸待ち!】とカラフルな風船フォントが浮かんでいた。
[[1時間後くらい。リューちゃんがタイミングはあっちで決めるって。どこまで本当かわかんないけど……]]
「なら様子見する。いくらアイツでも集めた
多種多様なコンピュータを並列化して扱うのは面倒が多い。【ガシャドクロ】のように負荷を押し付けるだけならまだしも秩序立てて使うには調整が必要なはず。
「この配信中になんとかすれば問題ない」
[[頼もしいけど方法は?]]
「む、向こうの出方待ち……」
いきなり後手に回らされた。準備したカードが役に立つかは微妙。
『んっん、そろそろいいかな~。みんなー、大地に
〈きた!〉〈大きく出たな〉〈待ってた!!!〉〈イムちゃぁあん〉〈Kawaii!〉〈ワールドすご〉〈ステージ遠いわ〉〈支援したよー〉
『ありがとーありがとー! あれぇ、なんでみんなそんなに小っちゃいの~? っと、ステージダウン!』
〈昇降式なのか〉〈近い!〉〈うっかりかよ〉〈ネジってなに?〉〈小っちゃいのとこもう一回いって〉〈重大発表はよ〉〈今日ゲームする?〉〈ためしに歌おう〉
『うんうん、そだね。慌てんぼうな子狐さんがいるけどそれはあたしのミス! ちょっと告知が前後しちゃって……えっと、とりあえず重大発表ひとつめ! このファンシティがオープンしました! ぱちぱち~』
〈88888〉〈“拍手”〉〈慌てんぼうでごめん〉〈おめでとーすごい!〉〈展開速すぎて心配なる〉
『街の名前はみんなで決めようね! で、ここから重要なこと!』
『あたしはここをイナバ已亡とファンの皆だけじゃなくて、いろんなVCさんが使えるワールドにしようと思うの。皆で楽しく遊んだり配信したり、ちょっと前までは当たり前にできてたことを、これからも当たり前にしていくための場所』
〈オープンにするってこと?〉〈グループコミュ?〉〈今マトモに配信できんもんな〉〈荒らし対策か〉〈誰呼ぶんだ?〉
『〈杜王町〉〈第3東京市〉〈冬木市〉
〈お引越し凸待ち!?〉〈引っ越し凸とは?〉〈亡命では〉〈まさか呼ぶのか〉
『そう! 居場所に困ったなら作ればいい! 必要なのは〔この街で何をしたいか〕と〔お家の3Dモデル〕だけ! 企画力に行動力、どっちもサイコーな先輩後輩たちをほっとくー? やーだ! じゃあ一人目いっくよ――!』
―――――—。
林立する鉄骨ビルのひとつから私は見下ろしている。
ステージ上のイナバ已亡やゲストVCたち――多くが事前コラボしたWaQWaQの――そっちのけでワールドを動き回るリスナーはちらほらといて、ことさら私が目立つことはなかった。
「あれは花屋……かな?」
放射状に広がる街路にこじんまりした店舗が建設される。
いま舞台へあがっているゲストがプレゼンした、自身の拠点。でもその出来はハリボテ同然だ。
(頑張ったんだろうけど。てか準備時間少なすぎでしょこれ……)
そもそもファンシティ自体がギリギリまで隠されていたんだから。凸待ち企画だってそう事前に知らされるとは思えない。その上で敵じゃないなら参加しろと暗に迫ったそのやり口は。
「小さいなあ、ちっくしょう」
急ごしらえの街並みのなかで圧倒的な質感を放つ中央塔をにらんだ。
【
モデリングの壮麗さもさることながら、内蔵された機能もケタ違いだ。アクセス権がないから詳しくはわからないけど、あれが巨大な監視塔だってことは出入りするパケットを解析してわかった。
ワールド全体、ひいては外界にまで届く警戒の目。莫大なリソースを背景にサーチ&アタックを司る灯糸の城。私だって傾城の環境を借りてログインしていなかったら即時発見されていただろう。
ステージではゲストが交代している。登場したのは傾城。
『きゃー、来てもらえて嬉しいですぅ』
『ふははーめでたいねぇイムっちゃん、建物が欲しいんだって? しょうがないなぁ』
傾城が
『フォック・シーの円形闘技場だよ! 機能はもちろん格闘技全般の演出と観戦。ワタシはここで毎週リスナー参加型のトーナメントを開催する!』
『わぁあ~スゴイすごいっ! さっすがシーパイ! んーでもぉ、ちょっと遠くないですか?』
灯糸がステージから手をまねく。するとコロセウムが滑るように街を移動した。中央広場のすぐ外側へ。
『これくらい真ん中でもいいですよっ』
『おぉなんだ~? そんなにワタシの近くがいいのか、可愛いヤツめ~』
『きゃあきゃあ♪』
『んーでも遠慮しとく。そりゃ中央のほうが人は呼べるだろうけど、そんなの関係なく通わせるし』
『えー、それってあたしがロケーションに甘えてるってコトですかぁ?』
ヘッドセット越しに聞こえる灯糸の声がわずかに温度を下げる。
『ちっがーうってば、もー! 目を
『むぅう、そーいうんじゃないんですけどっ、ふーん』
傾城がかわして収まったが灯糸はかなり過敏になっている。ちょっとでも意に沿わないことがあれば暗に明に問わずにはいられない。お前は敵か味方か、と。
『じゃーこっちの案は取り下げまーす。でもたまには遊びに来てくださいねっ』
灯糸が指をはじくとコロセウムが郊外へ滑りもどる。半透明だったモデルがその位置を確定し実体化した。
軽いトークのあと、いつも会ってるしという理由で早々に傾城は退場する。
〈ほんと仲良いな〉〈さすがの姉貴だった〉〈もっと供給して〉〈賑やかになってきたな〉〈シーパイとの空気感好き〉〈今日はこれで終わり?〉
『お引越しはこれくらいかな? まだいれば受け付けるけど、タイミング的にけっこう急だったからね……でも待って、もういっこ大事なこと聞いてほしくって!』
〈二つ目な〉〈何?〉〈知ってた〉〈ネジってなんだ〉〈初代ムは?〉〈きくよー〉
『今、いろんなものが信じられなくなってる人がいると思うの。でも子狐さんたちはあたしを好きでいてくれて、あたしも皆が好き。ファンシティを作ったのはその気持ちさえあれば新天地でもやっていけると思ったから』
〈急にファンサしないで〉〈うんうん〉〈好き〉〈それでこれだけやれるのスゴイ〉
『そう、新天地。治安のヤバ悪なインターネットから離れてあたしたちとみんなが繋がれる街。でもね、そういうワールドを維持するにはあたしの力だけじゃ全然足りない! スパムを
〈クラファン?〉〈御寄進箱の復活か〉〈誰でもできるの?〉〈お水かわいい〉〈任せろ〉〈やり方おしえて〉〈大丈夫?蜃楼ちゃんこない?〉〈いいよ〉
『〈これ台本?〉台本だよぉ! こんなムズカシイことあたしがスラスラ言えるわけないでしょ!? あはは。でも事務所の人とも相談して決めたこと。もし賛成してくれるなら……うん、今リンクを貼ったからクラスターに応募してくれると嬉しいな』
〈おk〉〈見てみる〉〈推奨環境とベンチマークテスト貼った〉〈サイトのUI分かりやすかったよ〉〈理想郷つくっていこ〉〈ネジった〉
『ありがとう、みんなありがとね……! できたら拡散して――』
「――お待ちなさいまし!」
アバター偽装を解除。
移動オプションのアクロバティックをONにしてビルからビルへ飛び移る。触れた端からバリアエフェクトで弾かれる塔の壁面を蹴り、正面のステージへ到達する。
『……センパイ?』
おっそろしく冷えた声で舞台上の少女が
「おぉっと撃つなよ! わたくしが何のおかげでここにいるか分からないワケじゃないでしょう?」
ロンギヌスの存在をにおわせる。灯糸のしわざか病院を出てすぐに
『えっとぉ、センパイもお引越し希望ってこと?』
「そうだって言ったら?」
『いいよぉ。土地は余ってるしぃ。でもセンパイ、おうちのモデルは? 何をしたいとかある?』
そういえばタワマン住みだったよね、とイジる余裕さえにじませる灯糸。
「ええ、もちろんプレゼンいたしますわ。皆さまにご挨拶も」
腕を空へのばす。直前に傾城から受け取った管理者権限でダウンロードを開始する。
「わたくしの建物はこちら! 第2セントラルストリーマービル!」
天に召喚したそれを掴み下ろす。轟音をともなって巨大な質量が落ちてくる。
私たちの立つ監視塔、そっくり中身ごとコピーした二棟目。
灯糸が目を見開いて腕をかざした。
「機能はイナバ已亡の監視! 皆さまからいただいたリソースを正しく運用できているかチェックいたしますわ!」
言うなり身を翻して、生成された二つ目のステージへ飛び移る。
「大地に
仮組みの摩天楼の実体化。それが半分ほどで停止していた。穴だらけのステージを踏み外しそうになる。
『ふぅうん、そういうことするんだぁ』
凍結した張本人は残念そうに見下ろした。
突如現れた異物を土に
『けっきょく口出ししてくるんだね、お局サマ?』
「っとと、だぁれが。言葉に気をつけろ悪ガキぃ」
これで手段の一致は成立した。
リアルで会えば一触即発。けど
楽しく仲良く殴り合おう。いくらアンタでもこんな大舞台にケチをつけたくないだろう。
ゴールとして二棟目を建てれば私の勝ち。御寄進箱の制御キーは二人が持つことになり、本来の用途以外には使えなくなる。逆に。
『させないよ。ここはあたしたちの新世界。二度と誰かに抑えつけられたりしない』
懐古と好奇と不信と憎悪の目がいっせいに私を見た。負の感情の指揮者めいた灯糸は挑戦的に嘲笑する。
逆に灯糸が阻止すればもはや彼女を止められる者はいない。少なくとも日本のインターネットは嘘と悪意で焼け野原になるだろう。
あぁ上等だ。久しぶり。
「つれないですわ。もとは同じ身体の仲じゃありませんこと?」
『気持ち悪いなぁ……!』
聞こえるか聞こえないかギリギリのつぶやきはビル風によってかき消される。
イナバ已亡とイナバ已亡。お互いのいちばん強く自由なカタチをとって私たちは睨み合った。
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