第13話人生思い通りに行かず。誕生2日で悟る。

『バラモントが転生してから1世紀、その間派閥は全面戦争に発展し壮絶な戦いをしていた。当然、自派閥に属していない新人を教育して勢力の補強をと思う奇特な者は皆無で、皆一様に保身の為に奔走した。忘れられていた訳では無かったらしいが、長く続く戦いで頭の片隅に追いやっていたのだろう。優先順位の問題だ。つまり1世紀の間バラモントは1人だった。』


『争いが終わって、主要派閥は人員を大きく減らし、そしてその内の一角は壊滅。もう一角は小規模な派閥へと成り果てた。これが現在の派閥の構図に繋がっている。彼らは、死んだ魂の補充として積極的に新人勧誘に乗り出した。それぞれの派閥から魂を送り出し、自派閥へと引き込む為に。そこで、調整人の存在を思い出したのが、赤ん坊を実験していた派閥だ。やりたい放題のアホの魂が死んでから、派閥間の戦争。もしかしたら誰も手を付けていないのではと考え、彼の胎安宮たいあんきゅうへと派閥の長が赴いた。胎安宮たいあんきゅうとはここの事だ。詳しくは追々説明しよう。』


『バラモントは胎安宮たいあんきゅうの中で派閥の長を見ると何も言わずに殺したらしい。当時連れ添っていた女性、現在の派閥の長だが彼女曰く、「同族だねぇ。実験開始~。」とだけ思考を読み取れたそうだ。彼女の視界の先で立っていたバラモントが消え、派閥の長は動かなくなったそうだ。だが、思考だけが警告を発していた。俺を置いて逃げろ!と。バラモントが何をどうやったのか不明だが、彼女は助かった。恐らく2人だろうが、3人だろうが関係なく瞬殺だっただろう。バラモントが彼女を逃がしたのは、殺しが目的ではなかったからだろうと彼女は自嘲気味に話していたよ。』


とても興味深いし為になる話だが、俺の疑問をぶつけると永遠に終わらないな。必要なことだけに絞るか。


『バラさんが派閥の長を殺したから、追っている。そういう事ですか?』

『いや、違う。』


まだ、続きそうですね。バラさん何したんだよ。


『魂を殺した数は150程。4世紀での殺しにしては少ないが、1人の魂としては当然類を見ない数だ。そして、人員の引き抜きも勢力、派閥関係なく行っている。その理由が知りたくて君を尋問、いや、拷問だな、してしまった。』

『お言葉ですが、それだけですか?なんというかよくある話って感じで、いまいち納得できないんですよね。あなたは魂の世界における警察なんですか?』


『警察ではないな。魂達を支配するものは何一つない。法律も国王も神も。だから、警察というのは存在しない。私がバラモントを追う理由は私の夫を殺されたからだ。』


夫?おっと?


『肉体があった頃に旦那さんを殺されたという事ですか?』

『いや、肉体があった頃は純潔だった。宗教と慣習から私の国ではそれが一般的だった。』


??????余計に混乱するな。えーっと、純潔だったとはどういう意味だ。話の流れ的に、彼女の前の世界では婚前交渉はご法度という事かな。・・・・?だとしたら、すごく混乱する。話の途中で何度も疑問に思った事だが、この質問はしなければいけない。

肉体があった頃旦那さんはいなかったという事が、彼女が純潔だといった事で分かる。つまり魂になってから結婚したという事。この魂の世界において結婚はよくあるのか?しかも、孕んだり孕まされたりって人間みたいだし。だが、最も大きな疑問はそんなことじゃない。


『魂になってから旦那さんを殺されたという事ですね。それで、恨んでいると。それなら納得できます。150人の魂とか派閥からの引き抜きとかは建前で、私怨でバラさんをどうにかしたいと。合ってますか?』

『ああ。その通りだ。彼は、』

『ちょっと待ってください。話の腰を折って申し訳ない。単刀直入に聞きます。女性にすべき質問でないものも含まれますが、どうしても聞きたい事です。答えて頂けますか?』

『ああ。私に答えられる事なら。』


『まず、あなたに感覚はありますか?嗅覚、触覚、味覚など”ガワ”における感覚です。』

俺の場合視覚、聴覚しか働かなかった。


『ああ、ある。』

・・・・。あるのか。


『では、肉体があった頃との違いはありますか?感覚が鈍いとかなんでもいいです。』

『そうだな、この身体に慣れてしまったから差異を見出すのが難しいが、初めてこの身体になった時は感覚が鈍いと思った。』


『そうですか。では、答えにくいと思いますが、あらかじめご容赦ください。旦那さんと性交渉をなさった時、快感など気持ちが良いという感覚はありましたか?』

『な、何というか直球だな。一応あった。肉体があった頃には経験が無いから、比べることは出来ない。』


快感があると。人間みたいだ。年中無休で発情期の人間、種族を繋ぐために性欲や快感はあると何かで聞いた。所説あるうちの1つだろうが、それにならうと、魂も子供が作れるのだろうか。

あ、いやいや、どうでもいいな。さて、本題だ。

『あなたは今まで、”ガワ”の感覚が無い魂に出会ったことがありますか?俺以外です。』

『ある。それに聞いた事もある。しかし、全員死んでいる。理由は全く分からない。』


バラさんはまた1つ俺に嘘をついていた訳だ。感覚が必要なのは肉体だけだと言っていた。”ガワ”には感覚が無いと。なんで、バラさんに借りた五感は視覚、聴覚だけ働いていたのか。さっき受けた拷問じみた尋問は痛みこそ無かったが、強烈な気持ち悪さを感じた。体内にエイリアンが潜り込み動き回る感覚。本来、”ガワ”にも魂にも感覚は存在するんだろう。でも、俺の場合は”ガワ”において視覚、聴覚のみ。魂の感覚は一応あるが、フルスペックかどうか怪しい。聞けることは聞いとくか。


『覚えている範囲で構いません。感覚が無いとはどの程度ですか。例えば、俺みたいに五感全部が無い魂とかいました?』

『私の会った魂は、視覚が機能していなかった。前世でもそうだったらしい。それ以外は普通に機能していた。私が聞いた事のある魂たちも大体そんな感じだ。』


・・・。お手上げですね。知りたいなら自分で探せと。なんでバラさんは隠したんだろうか、そこにも理由はありそうだが、これからどうするか考えないとな。


『分かりました。あなたの旦那さんをバラさんに殺されて、バラさんを見つけ出したいという事は分かりました。もし俺が、バラさんと合流すると言い出したらどうしますか?』

『まず、君は話を簡略化しすぎだ。私の夫が派閥の幹部だったりとかバラモントも派閥の形成に関わっていたとか、調整人という仕事の重責とかいろいろ話したいんだが。』


『結構です。それで、どうしますか?今すぐバラさんのところへ行きたいと思います。』

『それは、そうだな。考えていなかった。仲間と相談しないと何とも言えない。』

『そうですか。さっき話していた事の確認なんですけど、自殺は不可能ですか?抜け道とか何か知りませんか?』

『私が知る限り無いな。』


・・・。俺に何をしろっていうんだろうか。無茶苦茶してやろうか!と言ったところで出来るのは、図書館の本を分類と違う場所に置くぐらいが関の山だ。はあ。


この世界に俺を呼んだのって、オオタだよな。

『オオタ!オオタって魂知りませんか?俺の記憶見たでしょう?』

『ああ。オオタか。知っているが、関わりたくないな。君を転生させたとバラモントが言っていたがそれも怪しいな。』


『え!?それも嘘何ですか?』

『いや、嘘かどうか分からない。彼は魂を操ることができると聞いた事がある。具体的に何が出来るのかは分からない。死者を蘇らせる為魂の剝ぎ取りをしているというのは、君の記憶で初めて見たからな。考察も出来ていない。それで、転生させたという事は別の世界からこの世界に魂を連れてきた事になる。魂の仕事の範囲はこの世界だけだ。それなのに、よその世界にオオタが干渉出来るのか?と疑念がある訳だ。』


で?俺どうするよ。バラさんの居場所不明。自殺不可。もし仮に、この世界で生きるならば、少なくともバラさんの元で修業させて欲しい。かなり悪人ぽいけど、俺には尊敬できる魂だった。2日ぐらいしか関わってないけど。自殺が出来ないとなると、死にたい俺はどうすればいいの?・・・・・・・。

なんで、こんなに死にたがる人間を生かすかな?なんで、ごみ屑みたいな人間は楽しそうなのかな?


と悲観しても意味ないんだよな。前世で学びましたよ。


ああ、簡単じゃん。


『分かりました。お願いなんでも聞いてくれるんですよね?』

『あ、ああ。私に出来る事ならだぞ?私にだって限界はある。』

『ええ。さっき出来るって言ってました。俺を殺してください。今すぐに。』

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