第25話そろそろ街へ行きたいな。

「コータさん、怪我は無いですか?」


コウゾウさんは騎士団との話し合いに決着が付き、店内に戻った。そして、床を念入りに磨いているようだ。どうやら吐いてしまったらしい。騎士団長はどんな魔法をかけたんだ?


「ええ、全く問題ありません。あの騎士団長も俺と同族、魂でしたよ。」


「知り合いだとか言ってましたが、会話を聞く限り知り合いではないのですよね?」


「全然知らない魂ですよ。人間に紛れて暮らす魂もいるんですねー。」


「あの、コータさん。今後どうされるのですか?なんならこの店で暮らしてもいいですよ。」


「え?いやいや流石にそれは。」


「では、何か予定が?転生して知り合いもおらず、寄る辺もないのでしょう?」


「あー、それは確かに。」


胎安宮たいあんきゅうか、あれがマイホームになるのだが、入り方が分からぬ。そうなると、俺は根無し草の一文無しの放浪人ならぬ放浪魂か。


お世話になりたい。だが、今後の予定もなくお世話になるのはいけない。ダメダメ魂になってしまう。


「コウゾウさん、実は俺にはある目的がありまして。」


「目的ですか。その目的とは何でしょうか。」


「それは、自分探しですかね。」


「自分探し?」


死ぬ方法です。とは言えないから自分探しと言ってみたものの、何だよ自分探しって。言った俺自身が理解できてないわ。


「自分探しですね。元の世界にいた時は家族の為とか、幸せの為とかいろいろ考えて生きてました。けど、上手くいかなかったんですよねー。なので、身の振り方を考えるという意味でも自分探しをしてみようかなと。」


「なるほど。生きる上での目的や自己充足出来る何かを探すわけですか。」


「まさに、仰る通りです。」


生きる目的では無く死ぬ方法だし、自己充足出来るのは死んだ時な気がするけど、言わないでおこう。嘘ついてごめんなさい。


「それでは、街に出てみますか。独りで考えても分からないでしょうから、交流して自分を見つめ直すのが1番ですよ。そうなると、その見た目ですね。」


「そうですね。このままだとまた騒ぎになりますね。」


「フルプレートアーマーを着るのが手っ取り早いですが、怪しい上に絶対に脱げないのは不便ですよね。うーん、魔法はどうですか?」


「見た目が変わる魔法ですか?是非教えて下さい!」


「見た目だけではないんですよ。種族がまるっきり変わりますし、生態も変わります。変身ファーバンデンという魔法です。」


「それって、猫にもなれます?」


「猫?ええまあ。動物や魔物なら何にでもなれますね。」


「ハ○ーポ○ターだ。」


「え?」


「いえいえなんでもないです。俺は魂だから魔法を使えば人間になれるでしょうか?」


「恐らくなれるでしょう。確信はありませんが試してダメなら別の方法を探せばいいだけです。副作用等はありませんので、安心してください。」


「副作用無しか、ハ○ーポ○ターではないな。」


「え?」


「では、お願いします!」


「・・・。自分で自分に掛ける魔法なので、コータさんがご自身でお願いします。成りたい種族を想像して変身ファーバンデンと唱えるだけです。コータさんの場合は昔の自分を想像すればいいかと。」


「ふむ。」


では、本当の姿を5倍ぐらい美化して、細マッチョのスーパーイケメンを想像しよう。元の姿に似通う部分を探すのに一苦労しそうだが、これでいいだろう!いくぜ!


「むむむ、変身ファーバンデン


・・・。感覚があれば多少痛みを感じたのだろうか。何も感じないまま俺は突っ立っている。失敗ではないか?チラリとコウゾウさんを見たが、コウゾウさんを見たが、コウゾウさんを、コウゾウさん。


「目が見えます。」


「成功のようですね。」


「湿気がある、それにこれはパンを焼いた匂い?」


俺は自分の手を裏表まで念入りに調べる、まさに映画のワンシーンだ。

これは俺の手だ。俺の皮膚だ。顔を触る、鼻がついてるし、眉毛も唇も頬もついてる。何より触れている感覚がある。


はて?こんな簡単に五感が手に入るのか?穢れって意外と大したこと無いのでは?


「コータさん、目が見えるのですか?」


「ええ、触覚も嗅覚も視覚も元に戻りました!」


「それは、何よりです。」


コウゾウさんはシワと彫りの深い渋めの男。背は185ぐらいでガタイがいい。顔はあまり日本人ぽくないな。そんな彼が手を差し出した。欧米スタイルだな。たが、応えようぞ。

俺も手を差し出し、固い握手を交わす。


ミシミシ、バリッ。


割と感動的なシーンに似つかわしくない音が手元から響く。


パラパラと俺の手は砕け、光の粒と共に再生した。手は人間の皮膚のままだ。


「脆いのは相変わらずみたいです。すみません。」


「いえいえ、んーそうなると、フルプレートアーマーも装備しますか。中身が人間なら外せと言われても問題ないでしょうし、怪しいだけですから。」


「あー、そのフルプレートアーマーというのはおいくらでしょうか。恥ずかしながら、一文無しなので。」



「私が払いましょう。気にしないでください。では、街へ買いに行きますか。」


質素な食堂の中から、曇り空でやや肌寒い外の世界へ踏み出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る