第24話野良であり一匹
勇者コウゾウ視点
「王国の全騎士を敵に回すか。興味深いな。魔人を捕まえる理由が更に増えた。」
ギロリと私を睨むと、私と全く同じ動作の剣技を見せた。彼の深い踏み込みのせいで、後ろへ避けても大きな傷を負うだろう。
「
魔法で全身を硬くする。私の使える防御の要だが、無事では済まないだろうな。流麗で軽やかで洗練された動き、そして居合に見えるほど瞬速の剣筋を、一瞬で観察し真似をするセンス。
案の定、硬化したはずの腰から金属のぶつかる音がし、剣は通らずとも衝撃が身体を突き抜けた。衝撃に押し流されよろめき、あろうことか膝をついてしまった。込み上げる物を抑えきれず、床に腹の中身をぶちまける。クソっ、外側をどれほど硬めても内蔵のダメージは考えていなかった。私の剣技を真似、更に魔法をかけられたのだろう。視界が二重に見え回転する上に口の中で鉄の味がする。繰り返す吐き気に下を向くと吐瀉物が赤く染まっていた。
「では、捜索する。大人しくしていろ。」
声のする方へ目を向けたが、ブレる視界では沢山の騎士が店へ入る様を見ることしかできなかった。
とうとう片膝でバランスを取れなくなった私は、ブレる視界と同様に、大きく身体を揺らしそして倒れた。
コータ視点
カウンターの下にいる。コウゾウさんがそう言ってたからそうなんだろう。いつも通り目は無いので真っ暗です。
だが、今までと違って耳が聞こえるのだ!
そして、またピンチだ。。コウゾウさんよりも強い人間てこの世にいるんだな。あな恐ろしや。
という事で、戦おうじゃないか。捕まえられそうだし、コウゾウさんやられたっぽいし、流石にムカつく。
調整しちゃおっかな〜。
俺は勢い良く立ち上がった。そして気づいた。出口がどこか分からないし、料理屋なんだから椅子とかテーブルもあるはず。そして目が見えない俺がまともに戦えるのか?ハハハ、ムリだ。
そうして、やらかした事に気付いたが時既に遅し。
「・・・。魔人とは、お笑いだな。お前達は店の外へ出てろ。」
騎士団長っぽい偉そうなヤツが味方にそう言った。
「しかし!相手はこの街の結界をくぐり抜けた魔人ですよ?いくら団長でも。」
「問題無い、コイツは知り合いだ。話をして帰る。それまでお前達は下がれ、理解したか?」
「し、知り合いですか?」
「俺に重複した命令を3度もさせる気か?スカスカの脳みそでも分かるように言ったんだが?黙って下がれ。」
「・・・。おい、外で待機だ。行くぞ!」
うわー、オッサンどんまい。声からするに騎士団長年下だろ。こっちも世知辛いな。
ぞろぞろと騎士達が扉から出ていくまで、俺を凝視する騎士団長。ていうか、こんな知り合いいないんだが。何でそんな嘘つくんだ?
もしや、どっかの派閥の人間か?派閥に取り込まれた人間って可能性もあるよな。むしろその可能性は高い。あー、信兵衛の派閥だろーな。これ、詰んだのでは?いや、魂は人間よりも強いはず、いけるか?
俺、ここに来るまでにボコボコにされたもんな。そいつらより強いコウゾウさんがやられたんだ。うん、詰んだ。
という事は、うまく殺してくれるように誘導してやる。この世界に来て3日か4日くらいの俺の経験舐めんなよ!
「さて、神の雫か?それともピースか?心当たりがあるのはその2つだが。」
そんな神の雫?宗教か?ピースって、お笑い芸人しか知らんけど。なーんか勘違いされてるな。
「どっちでもない?ふむ。最悪な派閥が絡んできたか。俺は繰り返すのが嫌いなんだ。お前らのボスに伝えておけと前に来たヤツに言ったぞ?ちゃんと伝わって無いようだな。」
「あのー、俺は派閥に入ってません。ここへはたまたま来ました。あなたは信兵衛さんの仲間の人間ですよね?」
「・・・。1つ目、俺はお前と同族だ。2つ目、信兵衛とは誰だ。3つ目、ここに来た目的を嘘をつかずに言え。」
コイツ魂かよ。しかも、信兵衛の仲間じゃないのか。何で俺が魂だって分かるんだ?見分け方があるのか。
「えー、信兵衛さんは俺を拘束、いや殺そうとしたのかな?どっちか分からないですが、取り敢えず敵でした。もう夢幻に送ったのでいません。そしてここに来た目的は嘘ではなく本当にたまたまです。」
「夢幻?何だそれは。」
「俺の、能力と言うんでしょうか。それで送れるんですよ。」
「権能か?職業か?」
「へ?あー、うーんと、
「ふむ。お前ここに来て日が浅いだろう。どれくらいだ?」
「正確には分かりませんけど、3日か4日ですね。」
「・・・。嘘は無しか。普通は1年ぐらい教育期間があるんだが、何があった?」
「何がですか。とにかくいろいろありましたけど、あなたは敵ですか?俺を殺すんですか?」
「質問に答えろ。話はそれからだ。」
「はぁ。えーと、バラさん、いやバラモントさんに少しは魂と仕事の事を教えて貰い、その後バラモントさんの敵に捕まり、解放され、信兵衛さんと戦闘し、この街でも襲われ、コウゾウさんに助けられました。」
「バラモントとは
バラさんめちゃくちゃ有名人なんだ。まあ、悪人としてだろうけど。
「ええ。」
「なるほど。お前を捕まえた連中と信兵衛とかいうやつは仲間か?」
「いえ、信兵衛さんとアリアさん達は敵のようでしたよ。全力で逃げてましたし。」
「アリア、知らんな。他に誰がいた?」
「ん?名前聞いてないな。確か、巨人と光輝くモゾモゾ爺さんとキューピッドですね。あ!キューピッドは
「マリストル・エルポトだな。お前は神の雫と敵対しているのか?いや、この短期間でそれは無いか。」
「あのー、」
「バラモントの仲間なのか?」
「えっ、いやまだ違います。というか、仲間になろうか迷ってます。」
「クソっ、面倒だな。ここから出る気はあるか?別の国に案内してやってもいい。その方がこちらとしては助かりそうだ。」
「それは、嫌ですね。コウゾウさんには助けて頂きましたから、恩返しするまでは。」
「分かった。何か聞きたい事は?」
「あなたは敵ですか?派閥には入って無さそうな雰囲気ですけど。」
「お前は雰囲気で派閥に属しているか分かるバカなのか?俺は独りだ。そして敵ではない。お前が派閥の魂でない限りはな。」
「それは、バラさんの仲間になっても敵という事ですか?」
「本当に何も知らないんだな。あいつらとは敵対したくない。だが、ここに来られても困る。だから、穏便に出ていってもらう。」
「あと、」
「あと1つだ。それ以上は受け付けない。」
「んな殺生な。マジか。えーと、どうしよ。」
「あと、5秒だ。4、3、2、1、」
「なーーーー、あーーー、あ!能力!能力の使い方を教えて下さい。」
「・・・。断る。以上だな、では帰る。」
「断るってアリっすか?」
「必ず答えるとは言っていない。ああ、勇者コウゾウだな。そいつの魔法は解いておくから心配ないだろう。血を吐き続けたり、顔が青ざめたり、意識が無くなったら一応、治癒でもかけてやれ。」
「いや、それ死にかけてない?それに、治癒の魔法習ってません。」
「はあ、使えないやつだ。イメージだと言われなかったか?魔法は万能なんだ、とにかくイメージすればいい。それで治らなかったらお前のせいだからな。クレームはやめておけよ。」
「いや、それで人のせいに出来ると思ってんの?ムリムリ。まあでも、やってみますよ。教えて頂いてありがとうございます。」
「ではな。あ、まだあったな。その見た目で街をうろつくな。魔人が出たと騒ぎになる。街を歩きたいならどうにかしろ。」
「分かりました。ちなみにどうすれば、」
「ではな。」
くれくれは嫌われるってか?ぼくちん初心者ですよ?スターターパックくれよー。
騎士団長は帰り際、コウゾウさんに触れると一応顔色を確認したり、魔法を掛けたりしていた。
偉そうな割には意外とまともじゃないか。たぶん。
さて、騎士団長がお帰りになりまして、私は無事と。
コウゾウさんも生きてるね。起き上がって扉の向こうで騎士団の人と言い争ってるし。
派閥に属してないって事は野良の魂か。コウゾウさんよりも強いって、人間で魂に勝てるやついなさそうだな。まあ、世界は広いから分からんけどな。この世界は広いのか?
あ、騎士団長に頼めばよかったな。殺してくれって。あの人なら素直に殺してくれそうだ。派閥のしがらみも無いだろうし。
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