第23話クルークツイ王国

俺はこの世界に来てからの事を訥々と語った。

俺が語り、コウゾウさんは黙って聞く。傍から見れば、バケモノが人間を洗脳しているようにしか見えないだろう。こんなに自分の事を話したのは、元嫁に出会った時以来だ。


「なるほど、魂ですか。元の世界で言われる魂とは別物のようで、同じような気もしますね。魂とは強いんでしょうか?」


「強い?どうですかね?俺は弱いですよ。ん~、俺以外の魂に疎いから断言は出来ませんが、強いと思います。人を一瞬で消したり、文明を何回も滅ぼしたって言ってましたから。」


「文明を滅ぼすですか。人間では抗えない強さですね。」


「いや、魔法で拘束するとか抗う方法は探せばあると思いますよ。」


「まずは、敵対しないよう心掛けるのが肝要ですね。ところで、魂の皆さんはそのような見た目なのですか?それともコータさんだけ?」


「俺が出会った魂だけに限れば、魂は皆人間みたいでしたよ。」


「コータさんだけだと。理由は聞きましたか?そのバラさんという方に。」


「なんか、元の世界での記憶が影響しているとは言ってましたが、詳しくは聞いてないですね。分からない事だらけだったので、容姿よりも別の事を聞いてました。」


「別の事?」


ちっ、余計な事言っちまったーーー。いやー実は俺死にたくてですね、死ぬ方法を聞いていたんですよ。って?助けてもらった人にそれは言えないよな。だけど、言わなければ俺の目的を何と言えばいいのか。


魂の仕事がどうしてもしたい訳ではない。単純”ガワ”が元のニュートラルな状態に戻れれば何かと都合がいいから、仕事をせざるを得ない訳で、義務感があるのでもなく、社畜精神が再発現したのでもない。だから、仕事が目的でそれについて聞いてましたってのもな。実際魂の仕事についてほとんど知らんし。


「あ、あれですよ。転生って事はチート能力あるんですか?とかまあ、転生に関することです。」


「なるほど。コータさんは元の世界に帰る方法を知っているんですか?私は今更帰っても向こうに居場所は無いでしょうし、彼らの今の生活を壊すのも嫌なので帰る気はありませんが。ご家族とかいらっしゃるんですか?というかおいくつなんですか?」


「28です。家族は父がいます。母はガンで死にまして、家族というか、妻とは離婚して子供もそちらに引き取られた感じですね。なので、父だけが家族です。」


「お母さんもガンでしたか。お気の毒に。すみません、余計なことを聞いてしまって。あの、もし帰る方法を知っているならあまり話さない方がいいですよ。転移者の中には元の世界に帰りたがる者がかなりの数いますから。転生者が帰れるなら転移者も帰れるかもと面倒に巻き込まれること請け合いですから。」


「ご忠告ありがとうございます。ただ、帰る方法は分かりません。それに、俺自身帰る気は無いので。」


「なら良かった。初対面で根掘り葉掘り聞きすぎるのもなんですから、この国いや、この世界の事でもお聞かせしましょうか?」


「ぜひお願いします。」


コウゾウさん曰く、この世界は魔物がいる。魔人という人型の魔物上位種もいて、人間が魔物を食べ続けるか、魔物が人間を食べ続けると魔人になるらしい。そして俺は魔人だと勘違いされていたようだ。さらに、ドラゴンもいて世界の終末の直前に現れる伝説の種族とか。なんと世界に5体しか存在しないらしいが、ドラゴンと魂ってどっちが強いんだろう。まあいいか。


そのドラゴンに匹敵するとのが転移者達なのだが、三々五々に旅に出たらしい。それぞれに理由があるらしいのだが、ろくでもない奴もいるみたいだ。コウゾウさんが残っているのは、行く当てがなく、他国に勇者の看板は通じず、別の領地へ行くにはここの領主にお伺いを立てなければならないなど、ハードルが高いためにここに住み続けて10年がたったそうだ。



そして、異世界転生に定番の貴族がいて、王様もいるらしい。貴族に絡まれる日がいつか来るのだろうが、あいにく俺は異世界転生アニメで学習済みなので問題なくあしらう事が出来るはず。


この世界には12の国があり、現在いる国はクルークツイ王国という大国。今いる領はリストビアという小領地で、比較的穏やかな気候であり農業生産と漁業生産で経済を作っている。これといって大した名所は無いが、近年”神の森”という場所が賑わい始めているそうだ。その神の森を通るにはオオタ村を通る必要があるそうだが、コウゾウさんはその村が無くなった事を知らないらしい。まだここまで伝わっていないのだろう。コウゾウさんの店は領主の屋敷がある街にあり、神の森までは馬車で3日ほどかかるそうだから、そのせいで情報が伝わっていないのだろう。


コウゾウさんの店があるのはリストビア領主の屋敷がある街。

海と森と川とが同居する街で、屋敷に近づけば人出や店が増えていく。コウゾウさんの店は割と立地がいい。北西へ半日歩けば領主の屋敷があり、その途中にコウゾウさんに助けてもらった、冒険者ギルドがある。冒険者ギルドがある為その周辺には宿や歓楽街、飲食店が形成され、その中の1つに軒を連ねるがコウゾウさんの店という訳だ。


コウゾウさんは話に一段落をつけ、そして、とより真剣な顔で俺へ言った。


「これが大まかなこの世界の事です。もう1つ大事なのが歴史です。クルークツイ王国は現在の12ヶ国の中で1番古い歴史を持つ国であり、そのクルークツイで語られる神話のようなものですがコータさんの話を聞いて合点が言ったので聞いていただきたい。」


この世界では、5度の文明崩壊、即ち世界の終末が訪れた。人類も魔物も動物も等しく消え去り、大地や自然現象ですら消え去った荒野が辺りに広がった。その世界で人類の祖先が誕生しその末裔が現在の王族だとされている。同時に動物や魔物達も誕生しそこから現在の世界の形になる。


「その世界の終末を魂が引き起こしたのではないでしょうか。初めてこの神話を聞いた時私は、建国神話の類だろうとしっかりと聞いていなかったのでうろ覚えですが、魂が文明を崩壊させる力を持っていると聞いてそう考えました。」


「世界が消えて、人も消えたなら何で神話が残ってるんですかね。」


「仮説ですが、人類を生み出したのが魂であるならば、教育するのもまた魂でしょう。過去を繰り返すなと言いたくて歴史を教えたのではないでしょうか。」


「・・・。なかなか壮大な魂ですね。一旦リセットして新しい世界を作り直そうなんて。スケールがでかい。」


「ええ。ただしコータさんが聞いたというバラさんがウソを教えていたのならば、この話はただの建国神話ということになります。まあ、私はあながち嘘ではないと思っていますけど。」


「うーん、バラさんが嘘をついた目的が判然としないので断定は出来ませんが、俺も嘘ではないだろうと思います。バラさんが嘘をついたのは俺が、あ。」


「俺が?どうされたんです?」


あ、墓穴掘っちゃった。俺が死にたがるから生かす為に嘘をついたと思います!ってそれは言えねぇよ。


「ああ、俺が、俺があまりにも元の世界の異世界転生アニメの事を引き合いに出して比べたから、帰りたいと思われたのかも知れないです。だから、帰らないように嘘をついたのだと思いますね。はい。」


「なるほど!それはまた酷なことをしますね、アニメと比べるなんて。ハハハ。」


「ハハハハハハ。」


一応、コウゾウさんに合わせて笑ってみた。


すると、コウゾウさんがハッと顔を上げ扉の方を睨んだ。


「どうやらここにも追手が来ました。そうそう、言い忘れていましたが【勇者】という言葉は限られた人間しか使う事が許されていない上に、その者の安全を保証する便利な言葉なんです。それが法律となって幾星霜、法律も勇者の実像も時間と共に形骸化しましたけどね。しかし、形骸化していても法律ですからこの店は割と安全なはずです。なんせ【食堂勇者の味】ですから。」


「あ、あの加勢しますか?何かできるかも。」


「いや、コータさんは隠れていてください。さあ、こちらへ。」


恐らくカウンターの中へ誘導され、しゃがむように指示される。


「音を立てないようお願いしますね。」


「は、はい。」




勇者コウゾウ視点


「王国騎士団だ!今すぐ開けろ!」


「そんな乱暴に叩かなくても聞こえていますよ。ハイハイ、今開けますから。」


王国騎士団は国王直属の戦闘兵で、国の中でもトップクラスの強さを誇る。それがお出ましとは、コータさんがいや、魔人が街に入ったとでも聞きましたか。


扉を開けると全身鎧で飾り立てられた小柄の男性が、一瞬で作り出された人垣の道を奥の方から進み出た。


「王国騎士団長のハブリント・マルスク。魔人を匿っていると通報を受けた。捜索をする為中に入るぞ。」


許可を求めた訳ではなく、宣告しただけのようで、ズカズカと中へ入ろうとする。


「お待ちを、騎士団長殿。看板をご覧になりましたか?勇者特権があるはずです。こんな横暴は許されませんよ。」


「その手をどけろ。ウソで飯を食らう乞食にも成れないゴミ虫は、ゴブリンと同じくらい簡単に湧いてくる。お前もその一匹だろう。今回は見逃してやるから、魔人を大人しく引き渡せ。ああ、それと手懐け方も忘れるなよ。」


騎士団長は手をはらはらとさせ私に視界から消えるように促した。


もちろんそうはいかない。再び騎士団長の進行方向に手を伸ばし進路を塞ぐ。


「失礼、騎士団長殿。嘘か真か試してみれば分かることかと。」


私は愛剣エクスカリバーを鞘へ収めた。

誰にも見えない素早い抜剣からの逆袈裟斬り。これで斬れない者はいないが、騎士団長となるとこれで死んだなんて事は無いだろう。


騎士団長の腰から肩にかけて、パックリとした切断面が見え中の人肌が見える。その切断箇所が光の粒子を吸い込むのをコウゾウは見逃さなかった。

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