第22話一旦落ち着くコータ

どういう訳か善き人の店周辺には追手がやって来ない。魔法結界みたいな特殊仕様かな?もしそうなら教えてもらおう。何故なら、絶対カッコいいから。憧れるわー結界とか。魂に効果あるのか分からないけど、教えてもらおう。


相変わらず、視界は暗い。内観は分からないし、今後どうしたらいいのかも分からない。

この人は善き人だと今のところ信じているが、悪魔教みたいな変な宗教信奉者って可能性も無いことはない。まあ、そうだとしても俺は付いていくしかないだろう。この世界、人間界の常識も知らないし、魂の常識もあまり知らない。まずはどちらの知識でも吸収しないことには死に近づくことすらままならない。


まずは、人間とも魂ともコミュニケーションを取っていきたいぜ。


何やら善き人はガサゴソと何かを漁っている。魂以外見えない俺には何をしているのかさっぱりだ。


この人の手は赤く染まりルビーのようで綺麗だ。

胸に大きな穴があるのが不気味で、その穴の周囲もうっすら黒ずんでいるものの、それ以外はバラさんのように光り輝いている。どんな人なんだろう。

男性だと言うことは分かる。まあ、アレが付いてるからな。人間の魂の性別はすぐ分かるけど、バラさんや俺のような本物の魂は分からないんだよなー。俺にはついてないし、バラさんにもついてなかった。アリアさん達は性別を象徴するものがあったし、そのあたりも本人次第なのかしら?勉強することが多いな。


善き人は俺の前へやってきて、片手で何かを持ち、それを見ながら何かを言っている。耳が聞こえないから分からないが、口が動いているから話しているのは間違いない。申し訳ないが聞こえないぜ?そうジェスチャーで伝えるが、空いている手で待ってくれと制された。


そういえば、ベロが出来たんだよな。震えの直後に舌が生えたから、成長したって事だろうな。それにこいつだけ感覚がある。この感覚が嬉しくて、口の中を舐り回してるが、ガラスをペロペロしてる感覚で飽きてきた。色んな物を舐めてみよう。いや、変態的なやつではなく、赤ちゃんみたいに口の感覚で確かめてみたいってだけだ。幼児退行も甚だしいな。


善き人は、俺に話せとジェスチャーしてくる。

いやー、話せないのだよ。声が、ん?声が出る!?

おお、声が出るじゃないか。何故だ?ベロか?ベロがついたら声が出るのか。震えてベロが生えてきて、そしたら話せるようになったと。ご都合主義バンザイって感じたけど、何でベロが生えたんだろう。そういう順番なのか、俺がコミュニケーションを望んでいたからなのか。目とか耳の方が優先順位高そうな気もするけど、考察は後にしよう。


「こんにちは。俺はタキ、あー、コータ、コータです。ああ、通じないか。話せても通じなきゃ意味ねぇよー。はあ。」


「いや、通じている。はじめましてコータ。私は勇者コウゾウといいます。あなたは転移者ですか?私の同胞ですか?」


俺は天を仰いだ。人とは関わりたくない、関わらないのが皆の為。そして、俺も心を砕かずに済む。そんな気持ちもあったから俺は前世で首を吊った。


そして、ここへ来てからは魂たちと会話をした。いや、会話ではないな。業務連絡と尋問と質疑応答だ。

純粋なただの会話。ただの挨拶だが、とても心地良い。俺は未だにあの頃の未練が捨てきれていないらしい。そして、人と関わることに飢えているのだと自覚した。


やはり死なねばな。


「同胞?どうでしょうか。私は転移ではなく転生しました。元は地球という星の日本という国に住んでいました。あの、俺何も知らなくてですね、聞きたいことが沢山あります。まずは何から聞けばいいのか。」


「ええ、ええ。何でも聞いてください。あなたは同胞です。私の名前はコウゾウ・スミス。アメリカに住んでいました。やはり日本人でしたか。ドゲザを見たことがあったのでそうかなと思いましたよ。」


「そうですか。あの早速ですが、何故言葉が通じるのでしょうか。これも魔法か何かですか?」


「ええ、魔法ですよ。この本から調べましてね。魔力を通して意志を疎通するのでどの言語であろうと理解できますし相手にも理解してもらえますよ。」


コウゾウさんは手に持つ本を見せているつもりのようだが、俺には見えない。


「あの、俺は目が見えません。耳も聞こえませんし、匂いも、痛みや触られている感覚もありません。ついさっき舌の感覚だけが戻りまして。今まで話すことも出来なかったんですが、話せるようになったばかりです。そして、何で声が聞こえるんでしょうか?俺って今、耳は生えてますか?」


「耳?あー、ありませんね。ふむ。この魔法は通訳をしてくれる訳ではありません。私の伝えたいことを私の魔力からあなたの魔力へ伝える事で、あなたの魔力が日本語にしてくれています。耳が聞こえない方もこの魔法を使うことで声を聞くことが出来るんです。魔力を使った意思疎通手段なんですけど、広く翻訳魔法と呼ばれていますね。」


そんな便利な魔法があんの?バラさんそれ使ってくれよ。まさか、知らないって訳ないよな。

あ、人間と話す必要無いでしょ?とか考えそうだわ。人間嫌いだもんな。魂と会話するだけなら魂話だけでいいしな。


「そういうことですか。あ、お礼がまだでした。助けて頂きありがとうございます。この恩は必ずお返しいたします。」


「どういたしまして。聞かれたくない事もあるかもしれませんが、伺っても?」


「ええ、もちろん。隠すことはありませんから。」


「あなたは何者ですか?見た目には魔物のように見えますが、着てるものがスーツですし。それに、その魔力量は、あ格冒険者の中でも特異格に分類される程ですよ。」


「えー、俺は魂です。もちろん訳が分からないですよね。1から説明します。」


全部話すか。アニメなら隠したり誤魔化すのがセオリーだけど、状況が違うからな。むしろ俺の現状を聞いて考察聞かせてくれ!

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