第21話最強勇者と最弱魂の始まり
前方ではバッタバッタとなぎ倒す、俺のパトロン、いや、俺の善き人。心底感心する強さだ。
俺の後ろからワラワラと敵がやって来る。魂の形は選り取り見取りで、彼らの周囲には霧のように霞が掛かっている。この霧のような白っぽいモノは少し前にも俺を攻撃したものだ。
この霧は武器?俺の善き人も微かだが白っぽい霧を使いながら戦っているところを見ると、この世界では割とポピュラーな武器だろう。
つまり、魔法だな。この霧は魔法の素、魔力ってやつか。では、攻撃される前にやりますか!
俺は俺を取り囲もうとする輩を魔法で打ち砕く。
とはいかない。
さて、どうしたらいいのか。
魔法はイメージらしいからとりあえずイメージしないと。うーん、魔法の攻撃か、火炎弾とかアニメで見たなー。やってみるか。
右手を前方の敵へ向け、魔法攻撃準備中で距離を取っている敵へ火炎弾を打ち込む。何かで振り払ったのかダメージは伺えない。恐らく剣で打ち払ったのだろうとコータは推察した。
勇者コウゾウ視点
敵は躊躇いなく私を襲ってくる。顔も知られずひっそり勇者活動を続け早25年。
虚像の勇者コウゾウが持て囃され私の
「チェヤー!」
シュパッ!と風を切るロングソードには血すら付かず、妖艶な銀色を甘く煌めかせる。
愛剣エクスカリバーはこの世界で真の勇者が持つ最強の剣。コウゾウ以外には使いこなせない名剣だ。
風を薙ぎ見えない斬撃は敵を斬り伏せる。死なないよう加減するが、数名は助からないであろう傷を負った。
私と同じ世界から来たものは転移者と呼ばれ、初めこそ戸惑い、怒ってみたり、従順なフリをしてみたり、ふらっと何処かへ消える者もいた。そんな彼らは、この世界を理解し始め、元の世界への帰還は叶わない事を知ると、欲望をむき出しに行動し始めた。
唯一、私だけは勇者として活動した。元の世界に残された家族に会いたいが、末期のガンにより寝たきりの状態だった私が、ここへ来てからは体調がすこぶるいい。
治癒師が治療を施したそうだ。
家族と引き離された事は辛い事実だが、このまま迷惑を掛けるぐらいならと、自殺を考えた日もあった。
だから、良かったのかもしれない。死んで生まれ変わったのだと考えれば、怒りは自然と消えていった。
だから、勇者として戦い、戦い、戦い続けた。
転移者は力を持っている。力を持つものは、その力を人々の為に役立てる。それが私の道徳観だ。だから、勝ち続けた。
転移者もこの世界の人間も変わらない事を、私は痛感した。ある日、私の戦いは私の道徳観を踏みにじるものであったと知り、勇者として、いや、国の犬として飼われ続けるのが第二の人生なのか?そう考えてしまう日々が少なからず続いた。
そうして私は、ひっそりと過ごすに至った。
そんな折、不思議なバケモノに出会った。
諸手を上げ抵抗しないバケモノ。見た目は痛々しく、人の欲望を喰らい果ては人を喰らう悪魔の様な見た目だが、私には敵には見えなかった。
希望的な予想だろうが、最早どうでもいい。
10年。1人ひっそりと過ごし家族を作ることも、友を作ることも出来なかった。こんな事を言うのは女々しいのかもしれない。だが、やはり寂しい。
置いてきた家族に会いたい。それは叶わぬと分かっていても消えることは無かった。
転移者とは反りが合わず、唯一友として生きられそうな彼らには愛想をつかされた。孤独、それだけで、目の前のバケモノが敵では無いと錯覚するには充分な理由だ。
期待外れに過去の異世界人と同じでも構わない。それは幾度も味わったから。
彼、彼女か?に向かう敵へファイヤーボールを撃ち込むが、どうやら魔法の経験はあまり無いのだろう。威力は申し分ない。だが、直線的で打ち払うのに苦労しない。
助太刀の為、同胞の元へ駆ける。
幾刃もの殺意が四方から迫るが、エクスカリバーのサビにもならない。愛剣の前では鋼鉄も、人も岩も巨木も皆一様にあどけない感触だ。
銘々の剣は切っ先から中程までを、地面へと落とす。もう、元の鞘には戻れない。
敵の驚き。刹那、片脚で地を強く叩き、敵の腰まで拘束する。動きを封じられれば、魔法や飛び道具を使うのが常であり、何度も見てきた。私の周囲で防御の魔法が全て弾き、愛剣を鞘へ収める。私と同胞を囲む敵は胴から血を流し呻く。拘束は解かない。彼らが私達の逃げる時間を稼いでくれるだろう。
コータ視点
とりあえずついていく。早歩きしているが崩れそうで怖い。さっきからチラチラこっちを見ているのは走れと言いたいのだろう。無理なんです。ごめんなさい。
やはり敵は途切れることなくやってくる。
俺の見た目のせいだろうな。どうにかならんかね本当。
すると、突然全身が震えた。最初は地震かと思ったが目の前の善き人は平然と歩いて、敵を切り倒していく。
俺だけが慌てている。
何だこれ、魔法か?だけどダメージはないな。それどころか、ちょっと気持ちいい。温泉に浸かっているように、ポカポカするし、浮遊感や疲れみたいなものが抜けていく感覚もある。はて?なぜだ。
アリアの拷問は気持ち悪さを感じた。
それ以外で何かを感じたことはない。もしや、魂がここにいて何か攻撃を?見分けがつかないから分からん。
震えが止まらない。何だこれ。まともに動けない。いや、気持ちが良いからゆったりしたい、そう、だから動けない。
勇者コウゾウ視点
なんだ?急に震えだした。光の粒が同胞に纏わりつく。途端に震えと光が止み自分の体を見ている。
何か魔法を?いや、そんな気配は無い。
途端に視界は暗転し、前後不覚に陥った。
コータ視点
ヤバい!善き人が倒れた。ん?敵も倒れたな。
何だこれ。みんな動かない。その割には魂たちはそれぞれの気配を強くしている。魂たちの光量が上がった感じか。
なんか分からんけど、とりあえず逃げるか。だけど厄介なことにこの身体の脆さだから、運ぶことさえ出来ない。魔法を使わなければ。
やはり定番の念動力か。魔法というより超能力だけど同じだろう。
イメージは、なんだ?フワッと浮いて操作できる。操作ってどうやるかな、ああ、コントローラーだ。ゲームは結構やり込んだからな。コントローラー出てこい!
手元に懐かしのコントローラーが出てきた。
よし、これで味方を運ぶか。場所は、、ドコだ?とりあえず行けばわかるさ!
フワフワと味方を浮かせ辺りを彷徨う。至るところで魂は寝ている。これどこまで続くのやら。震えは皆が倒れた頃から収まった。
震え、震え?あ!魂が震える?うそ!マジで?何でだ。俺何かしたっけ。バラさんは試行錯誤って言ってたな。こんな急に震えれば試行錯誤せざるを得ないよな。訳が分からんもん。
そして、俺は道に迷った。
勇者コウゾウ
ハッ!意識が戻ると、私は、浮いていた。後ろでは同胞が、ゲームのコントローラーを持って器用に動かしている。
何やら、どこかの国の誰かの家庭を見た。言葉は分からなかったが、アジアの家庭だろう。それが私の世界ならなのだが。こんな時に夢を見るとは。
ここはギルドからだいぶ離れたところか。もう少し東に私の店があるのだか。同胞が運んだのか?
とりあえず、起きたことを伝えよう。
仰向けに浮かんだまま、彼の方へ親指を立て問題ないことを伝えた。同胞は気づいたようで、私をゆっくり降ろしてくれた。
とにかく店へ戻ろう。それから同胞とのコミュニケーション方法を考え、今後について話し合おうか。店ならばある程度防衛能力も備えてあるから、急ぎたいところだ。
私は東の方を指差し、付いてくるよう促す。同胞はかなり遅足だ。走ってくれると助かるが、どうも無理なようだ。その辺の理由も聞きたいな。
路地を進み、追手をやり過ごしながら、私の家兼店【食堂勇者の味】へ辿り着いた。
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