第18話バラさん帰還。コータ、戦いに次ぐ戦い。

一方その頃、マリストルとバラモント

『えーっとぉ?とりあえず解いてあげればいいかぁ。』

『"バラモント・ソフィア・バメラが命じるぅ。遵法人ロイヤーが権能、犯罪者クリミナ解放せよぉ。"』


マリストルに巻き付く麻縄は彼女の体躯を型取りながら緩み足元の方から、一本の麻縄になる。中空へ向けて飛び出した麻縄は自ら円を描き始めて、その円の中へと飛び込んだ。総じてすべての麻縄は何処かへと消える。


『・・・。わざわざ起こす必要もないかぁ。これ、死んじゃうんじゃないのぉ?』

全身にヒビが入り所々、もろもろと崩れている。


『さっさと用事済ませて帰還しますかぁ。』

『"バラモント・ソフィア・バメラが命じる。監査人オーディターが権能、報告者リポーター、コータ君の真名を探しだせ!"』


『がっ、ふぐっ、う、お"ぇぇぇ。』

叫びこそしないものの、苦しみからかうめき声が漏れ、えづく。身体がビクンと跳ねる度に崩れかけていたマリストルの身体は更に崩れる。


『もう、これは無理、なのかなぁ?消えないって事は生きてるんだよねぇ?』

ビクンと弓形に大きく身体がのげぞり、ミシミシと音をさせる。バリィン。のけぞった身体がもとに戻ろうと背中をすぐに地面に預けようとした。勢いが強かったのか背中が割れ破片が弾ける。


『僕のせいじゃないよねぇ?これで死んでも恨まないでねぇ?それでぇ、ふむふむぅ。知らないね。なら放置して帰るかぁ。』

コータの真名を知らないと確認し、彼女にはなんの用もないバラモント。そそくさと帰ろうとすると、ふわふわと光の粒が集まり出す。

バラモントは警戒し、怪訝な顔をしながら光の粒を見る。


『なんだろうねぇこれは〜。』

信兵衛の魂の破片はゆったりとマリストルの元へ向かい、割れ砕けた傷口に染み渡っていく。彼女の身体はみるみる回復していき、それでも大量に残る光の粒は奔流となり、彼女の胸へと向かった。

バラモントは何が起きているのか分からず警戒するばかり。逃げないのは、この謎の現象が気になるからだ。

パチっと目を開けたマリストル。キョロキョロとあたりを見渡し、バラモントを見つける。すると、バッと立ち上がった。


『な、なんであんたがここに?ていうかここはどこ?アタシをどうする気!?』

『傷治ったんだねぇ。死んじゃうかと思ったよぉ。』


『"介添人グルームスマンマリストル・エルポトが権能、隠蔽者コンシルメンタ帰還せよ。"』

バラモントは特に何もせず様子を窺うに留める。彼女の権能に攻撃機能がない事は把握しているし、現在戦っているコータに関しては、死なせるのは気乗りしないが、そこまで死にたいならここで死ぬだろうと考えている。だから、助ける気はない。生きて僕の元に来てほしいとも考えているが、母親ではないのでそこまでする義理は無い。

それよりも、彼女の身体に何が起こったのだろうと、ジロジロ彼女の身体をくまなく注意深く観察する。

『な、なによ!私には愛しのダーリンがいるのよ。』

『さっきのは何かなぁ?』


『さっきの?何の話よ!』

『・・・。幸運?身体に不調は〜?さっきまで死にかけてたよぉ?』


『そ、それよりもアリア達は?どこにいるの!』

『・・・。はぐらかしてるのかなぁ?動揺してるだけぇ?記憶を探ってもいいけどぉ、潮時だよねぇ。』


『あ、アリアとアイザックはどこよ!』

『死んだよぉ。君はまだ殺さないぃ。そうだ、なんで僕を追いかけるのぉ?君だけ理由が思いつかないんだぁ。』


『っく。私の親友を殺したでしょう!』

『それは誰〜?名前は〜?』


『マギー・ポップナン忘れたとは、』

『ん〜、やっぱり知らないなぁ。人違いだと思うよぉ。』


『良くもぬけぬけと!アタシはその場に居たのよ!アンタが殺した!』

『そうかぁ。分かった分かったぁ。助言するよぉ。まずは〜、君自身の記憶を疑う事から始めてみるといいよぉ。まぁ〜意味があるとは思えないけどねぇ。僕は帰るねぇ。』


『ま、待ちなさい!逃げる気!』

『逃げるぅ?逆に聞くけどぉ、戦うつもりぃ?君が1番分かるでしょ〜。勝てないってぇ。』


『そんなもの、やってみないと分からないじゃない!』

『分かりきってるよぉ。頑張ってねぇ。』


バラモントは踵を返し、1步踏み出すと半身が消え、2歩踏み出すと全身が消えた。マリストルも見たことの無い魔法だった。そもそも魔法か権能か判別できない。


『・・・。はぁ。災難だ。ダーリンに慰めて貰わないとなー。こんな役回りアタシに向いてないと思うよマザー。』

木漏れ日が差す。太陽が温める空。そんな彼方かなたへ独りごちる。



コータVS?冒険者集団

「おい!魔法詠唱を始めろ!今が好機だ!」

ローブ姿の女性や男性、各々杖を持ち何やらもごもご唱え始める。


「飛び道具は今すぐに放て!逃げられる前にここへ注意を引くぞ!」

弓やスリングショット、クロスボウや剛腕による投石など、様々な物がコータ目掛けて飛んでいく。


「お!効いてるのか?とりあえず、砕けてる内に前衛は突っ込むぞ!」

「待て!なんか光ってるぞ!回復してる!」

「チィッ、何だあれは。あんなの見たことねぇ!」

「落ち着け!やることは変わらん!魔法と遠距離武器で攻撃だ!その後前衛が突撃。タイミング合わせるぞ!今だ!」


水球や氷塊、電撃やら火柱など様々な魔法と、矢や石など遠距離の武器がコータへぶつかっていく。連携もクソも無い寄せ集め達だから効果とか細かいことは無視しているようだ。矢とか石は火柱で阻まれ、水球や氷塊は火柱を沈静化し、それらも蒸発。電撃だけはまともにコータへ。


「砕けたぞやれ!」

電撃1つで砕け散ったコータ。突撃だけならタイミングが合い、各々の武器でコータの破片をこれでもかと叩く。10秒。30秒。2分。3分で武器を持ちながらも膝に手を付き肩で息をしている者が出始める。5分で、一人を除いて座り始めた。7分になり、最後まで残っていた男が攻撃をやめ、コータの回復を見守る。この男、息はあがっているものの、まだまだ余裕がある。

「こりゃバケモノだな。魔人の類か?勝機が見える気がしねぇや。ハハハ。」




コータは復活を終えると流石に理解した。俺は今攻撃されている、と。背後からの攻撃で振り返る事がなかった、更には追撃により、濃い霧の壁が吹き上がり視界を遮られていた。そこへ大きな靄の塊がぶつかって、吹き上がっていた霧、諸共散る。白っぽいが縄が蛇のように胸のあたりにぶつかり俺は砕け散った。その蛇のようなものが当たる瞬間、20名ほどの多様な魂がこちらに駆けるところを見た。


追手か?コータは思案した。信兵衛の追手ならマズイ。だが、回復は間に合わず何かで殴られ続けている。砕け散ったコータには何も見えない。ただ、回復が間に合わないと自覚するだけ。それだけで、まだ死んでいないんだと思うのが関の山だった。


長く時間はあった。だから考えた。追手だとして、20人は多い。新人調整人にそんな数をかけるのか?信兵衛だって一人でやって来た。信兵衛がやられて、目算が外れたことを悟り、20人も追加を出した、?流石に多すぎる気がする。いや、調整人の権能が欲しいから俺を洗脳しようとか、拘束して人体実験とか、何か訳があって多い手勢でやってきたのでは?

だけど、それならパパっと拘束するだろうな。何故しない?皆無手で突っ込んできたように見えた。俺ですら分かる。魂なら魔法で足止めして権能で拘束なり殺すなりすればいい。


魔法で足止めか。たぶん拘束も魔法でできる?力技で自壊して回復って手段も取れるけど、拘束できる可能性があるな。次に戦闘になったら使ってみるか。


それでだ。こいつら素手でタコ殴りしに来たのか?だとしたら、俺と同じ新人の可能性が、無いか。信兵衛は何処かの派閥に属しているようだった。やけに時間を気にしてたし、惜しいなと言いながら殺そうとした。上からの命令だろう。ということは、新人だとしてもある程度魔法や権能は使えるはず。それなのに、素手で吶喊ね。もしかして、人間?いや、だとしても侮れば実験材料にされてしまう。回復したあとが肝要だ。穏便にとはいかないな。殺すとして、また調整人の権能か。結局あれで使えていたんだろうか。よく分からんな。ていうか、人間の魂と魂の魂を見分ける方法教えて欲しい。今も、もの凄くどっちだろうかと迷ってるし。バラさんめ。とバラさんを恨むのはやめよう。1世紀閉じ込められなかっただけマシだ。


おお。回復し始めた。


『"調整人バランサータキガワケイタが執行する"』

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