第19話コータは流石にうんざりしている。
冒険者格付けによって5格に区分される。
【あ格】最高格。冒険者の中の強者であり、国に起きる天変地異にすら一人で対抗できると言われている。
【い格】準最高格。魔物、魔人において討伐不能は殆ど存在しない。一部討伐不能なのは伝説的な魔物や魔人のみ。
【う格】中堅格。この壁を越えるのは難しいと言われる格。凡人の最高格であり、これより先には到達できない。
【え格】最も人数の多い格。初心者が目指す最初の格。ここで経験を積み、金を稼ぐ。死なない術はこの格で覚える。
【お格】初心者。登録時に与えられる格。それ以上でもそれ以下でもない。
コータの前に立ち1人奮闘していた男は【う格】。戦闘狂のような一面も時折見せるが根は優しい、子供好きな男だった。
冒険者は定職につかない負け犬の職業だと揶揄する者が一部いるが、それは本当に一部だ。実際には、訳ありが冒険者に辿り着くから、訳ありの巣窟として揶揄するものが多い。基本的に触れず近寄らず。
では、この男が何をしたのか。何もしていない。ただ好きな人が男だっただけだ。
そんな男が、目の前のバケモノに立ち向かうのは隣でヘバッている男の為である。同じ冒険者で恋人。ここで投げ出せば彼が死ぬ。そんな動機だったが、戦闘狂のスイッチが入った。勝機を見出すには、敵が油断した時だ。つまり回復直後。ここで大技をぶち込んでおしまいだな。それで無理なら叩き続ければいい。そう考えていた。
コータは穏便に話し合いたかった。話せば分かる。その通りで、実際話せば分かり合えただろう。だが、人間にとって見た目はとてつもない強度の情報力を持っている。眼球の無い暗闇が2つ、鼻のあたりは骨が見え、両耳は無く、皮膚は一片も無い。そして、皮膚のない顔面から血液のようなものが流れており、口の中は見えない。一言も発さないから。そんな人型のバケモノがスーツを着込んでいる。
結論、人間にとって見た目は大事。だが、コータの場合は次元が違う。そもそも逆立ちしてもバケモノだ。初手から話し合う余地は無かった。
だが、コータ自身戦いは不得手であり、経験も極端に少ない。殺してくれという、覚悟?と、魂に与えられた権能、そして魔力、それだけでゴリ押ししているにすぎない。
ちなみに、信兵衛は200歳ほどの魂だが、戦闘特化ではない。むしろ、単身で敵地に乗り込みゲリラ戦を仕掛け混乱させるような戦いを得意としている。
コータは戦わずして穏便に終わらせる方法を取りたいが、見た目に踊らされているという訳だ。
その気持が能力を発動させる。
コータの呪文が唱えられ、彼らの闘争心が組み替えられていく。未知の恐怖が波の様に引いていく。よく見れば人型。あの回復力は強いと言わざるを得ない。話す事は出来ないのか?そもそも、アイツは俺たちを攻撃していない。余地はある。
闘争心も引いていく。ここで倒さなければ家族が、街が。
倒す必要がそもそもあるのか?アイツが、敵ならいざしらず不明。味方にする事は出来ないか?一考の余地あり。
結論。戦っても勝てる気がしない。まずは話すことにしよう。
理性が感情に押し流されていたのを、調整人の能力により調整。感情と理性を拮抗させた。警戒はするが、話し合いの余地あり、と。
あれ?なんか攻撃が止んだ。でも、魂は残っている。夢幻送りにしたはずなのに。
ん〜、攻撃してくる様子は無い。では、どうするよ。魂なら話せるんだけど、、ああ、バラさん使ってたわ。
『"
『こんにちは〜聞こえますかー。』
魂が膝から崩れ落ちていく。やっぱ倒れたか。言葉を選んだつもりだったけど、意味ないか。死んでない、と思うから大丈夫なはず。
『誰か〜なにか話して〜。俺は敵じゃない!』
『頼むよー!正当防衛とは言え殺したくないんです!』
『あsldkjふぉいrg』
『・・・・・・・・・・・。はあ、もう疲れた。勘弁してくれ。翻訳チートぐらいくれよ。能力説明ぐらいくれよ。』
『ぽしdkgばんvcxヵjsf』
『敵じゃない分かる?分からないよね?そうだよね。ん?全員倒れてるなら逃げられるか。』
そうだ!今なら逃げられる。でも、放置していくとこの人たち辛いか。何されるか分からないよね。
遠くまで行って能力解除がいいかな。やってみるだけやってみようか。
コータは走り出す。そして、足から崩れ落ちる。
『ふっ。ははは。はははははっはは。はあ。もう嫌だ。』
情けなくて自嘲したコータ。
回復を待ちとぼとぼと身体が砕けないように慎重に歩く。視界にぎりぎり魂が見える距離まで歩く。
大通りを抜けるとそこは賑わいのある町。商店や飲み屋など雑多に店が開かれ道も入り組んでいる。
コータはある店にぶつかった。顔だけがぴきぴきと割れたが、すぐに回復。ぶつかったのは、【食堂勇者の味】の裏側である。
何かにぶつかったコータは、とりあえず、振り返る。ぎりぎり倒れている魂が見える。
『”
ぼーっと様子を見ているとうまくいったようだ。こちらへ追いかけてくる様子もない。
成功した!と考えたコータは再び足を進める。目の前には壁がある、とりあえず左方向へ進んでみた。
ぶつかる気配も無く魂も近くにはいない。ふう、これで一安心かな?
現在コータがいるのはさっきの店から軒先の並ぶ通りに出てきた。もちろん人は多い。何故なら、目の前に冒険者ギルドがあるからだ。
『とりあえず、追っ手も来ないし、この辺で
独り言ちながら、通りにたどり着く。たくさんの魂たちが行き交っていた。コータは嘆息し、切実に死ぬ方法を求めた。
阿鼻叫喚、一声がさらなる声を呼ぶ。一意専心、他人など何のその、とにかく逃げる。
バケモノが路地からヌッと現れた。
「バケモノだギルドへ報告を!」
「ギャー――!」
そんな声を聴いてのんびり構えているギルドではない。何事か?と受付嬢モーリス・デンバーが外を見る。
「なんなのあれ。」
そう呟くと二階へ駆けあがって行く。階段を下りてくる貴族に肩がぶつかろうとお構いなく駆ける。
ギルド長室をバンッ!と開け放つ。すると、ギルド長の机もバンッと上に跳ねた。
「い、痛った。ななななん、なんだ!」
「大変です!外にバケモノが!」
「ばばばばバケモノ?い、いる訳ないだろ。ここに魔物は入れない。そのために結界があるんだ。」
「でもいるんです!非常事態の緊急呼集を!」
「わわわっわ、分かった。と、とりあえず出ていきなさい!扉も閉めなさい。」
「・・・。急ぎです!」
それだけ言うとモーリスは扉をバタンと強く閉めた。受付をサボり机の下に潜り込むアホ女の為に。
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