第17話権能と記憶
『ん?なんだ、権能が使えんのか?』
うぉい!やべー。何かミスったのか?えーっと、調整人が執行するだよな。あ、遂行するじゃないな。えーっと、言い直す、かな?恥ずい。
『"
・・・・・。あれ?
『アッハッハッハッ。使えんのか。引き継ぎがされておらんな。ここに来て日が浅いと見た!残念だったなあ。わしもそろそろ限界が近いのでな、全力でゆくぞ!』
結局どうすりゃいいんだ。
侍はガンガンつついてくるけど、削れてすらいないぞ?全力でって言ってたよね。限界が近いとも言ったね。それで削れてないよ。ふーむ。腕は急所じゃないから簡単に落ちたけど、喉やら頭は固いのか。胸のあたりも同じく。バカみたいに同じ場所突くな〜。
思い出せ!バラさんはなんて言ってた?とりあえず、調整人という単語はマスト。で?執行する。で?
分かった名前だ!ホントは隠すべきだろうけど無理だ。相手も日本人。ここはやるしかない。未だに刀で突きまくってるけどこの人じゃ、俺を殺せない。・・・。我ながらカッコいいな、今の。いやいや、だからこそ相手を殺して逃亡、もしくは殺されるか、ここは前者だ!捕まって実験台なんて断るね。
『"
うん?ピタッと止まった、な。一応成功か?あれ?確か夢幻に送るのではないのか?まだ、視線の先に今にも刀で突き刺しそうな侍がいるけど。
では、この場合の恩とは何なのか。殺そうとしてくれた侍への恩。それはない。殺されるのは彼自身も気分が悪い。自殺の代替方法に過ぎない。でも、殺してくれたならば感謝したことだろう。結局今回信兵衛は失敗したので、恩はない。
では、マリストルはどうか。彼自身は気づいていないが、マリストルの権能のお陰で生き延び、意外にも勝ってしまった。つまり、マリストルに恩がある訳だ。魂自身がそれを分かっている。
彼自身、そんな事は全く考えていない事は言うまでもない。
ただ真似ただけの結果上手くいっただけである。
止まったままの信兵衛。
『信兵衛さん?生きてます?』
返答なし。成功、はしていない。夢幻に送ったつもりだから。とりあえず、動かないなら逃げよう。地面に足首までめり込んでいるので、足を折って、折って、折って、折れない。頑丈になってるわ。今だけは鬱陶しいけど。
魔法使うか。何をイメージする?えーっと、小さめの落とし穴だな。両足の土が消えればいい。とりあえず座ってと、念じます!落とし穴落とし穴落とし穴。おお!やっぱできるわ。ちょっと練習すれば魔法はチョロいな。さて、全力で逃げますか。立ち上がり走ろうとすると、信兵衛さんは光の粒になり何処かへ向かっていく。霧散せず遠くに行き見えなくなるまでどこかへ向かっていった。
まあ、いいか。信兵衛さんが生きていたとしても、実験台に俺をしなければ問題は無い!
俺はとりあえず走った。場所も分からない真っ暗な空間を。目指す場所は少なくとも
疲れ知らずの身体で、五感0の状態で全力で走った。信兵衛の増援が捕まえるに来るかもしれないからと。
コータは"ガワ"の状態である。あの、バケモノ顔のスーツ姿の状態だ。それが真っ昼間に宿屋街を全力で駆けていた。ぶつからなかったのはたまたま大通りであったから。昼間の宿屋街にはあまり人がいない何故ならギルドへ向かったか、冒険に出ているから。だが、まばらに人がいる。昨夜の冒険から帰って宿屋を探す者や近くまでふらっと飲みに出て行く者。大体冒険者だ。
そこでバケモノが陸上選手の如く腕を振り太ももを高く上げ地面を蹴る。今のコータはマリストルの権能によりマリストルの身体によって支えられている。どうせなら"ガワ"も貸せばよかったのに。貸し出されなかったのは、コータ自身が求めなかったから。戦闘において必要ないだろう、と考えた訳ではなく、殺されるつもりだったからである。途中で方針変換したが、コータや魂自身が必要としなかった。戦い慣れていない上に、楽観的であったから。
そんなマリストルの権能による補助は、大通り半ばもう抜けようかというところで事切れた。マリストルの中に信兵衛の魂が流れ込み驚異の回復をしたマリストルは権能を回収した。
新兵衛の権能、
コータは着地と同時に足から腰まで崩れた。そして、支えのない上半身も地面に放り出され砕けた。
大通りに出ている冒険者たちは、思い思いの獲物を携えバケモノを囲んだ。
全力で走ってくるバケモノに、人々は叫び、思い思いに避難していた訳だが、血の気の多い冒険者だ。当然の帰結といえる。
一方その頃、アリア御一行とバラモント
さてぇ、アイザック君は終わりぃ。次はアリアだねぇ。
それにしてもぉ?森の中かぁ。やっぱり経験不足かなぁ。集中すれば障害物なんて関係ないのに。人間の頃の名残かなぁ?
『"バラモント・ソフィア・バメラが命じる。
『ギャァァァ。ぜっだいにい"ぃ"ぃ"ぃ"、屈っじない!』
なかなかどうして骨があるぅ。それを仕事で発揮すればよかったのにぃ。
『"バラモント・ソフィア・バメラが命じる。
『ギャァァァァァァ。』
ミシミシ、バキリと、何かが折れる音がした。比喩や幻聴ではなく明確に、大木をなぎ倒すような音が森の中で響いた。あたりの木に何の異変も起きていない。
それ以降彼女が声を発することは無く、彼女が震えるたびに鎖がジャラリと鳴るだけであった。
『"バラモント・ソフィア・バメラが命じる権能よ還れ。"』
『アリアぁ。話せるよねぇ?言いたい事はあるかい〜?』
『・・・・だ』
『んん?』
『・・・・もう、嫌だ。』
『何故、クリスを殺したか君は知っているかい?叫んでいて聞こえなかったろう?』
アリアは首を振る。
『教えて欲しい?』
アリアは動かない。
『君達、いや、僕も含めて魂達がすべき事は至極単純。与えられた仕事をすればいい。そうして力と共に第二の人生を歩めばいい。それだけだ。寝る、食べる、子供を作る、それをする必要が無いこの身体は、その為にある、僕はそう考えている。』
アリアは動かず聞いている。
『僕よりも力のある長生きしている魂は、何を勘違いしたか、職業や権能が神の賜り物だとか選ばれし者だとかほざいて、悠々と暮らしている。肉体がないのに肉欲を暴食を貪り続け、果ては人間もおもちゃに快楽に興じる。魂の源泉を守る為じゃない。遊ぶ為だけに人間の人生をおもちゃにしてるんだ。』
アリアの知る、力のある長生きしている魂は、完璧な魂だった。源泉の囲いに目処をつけたのだろう。派閥を作り守ってくれる上に、生きていくのに必要な知識を与えてくれる。その派閥を抜けたアリアに、派閥の長は『いつでも帰ってきなさい』そう言った。
だから、彼女は、マザーはバラモントの言う、そんな魂では無い。と思った。
『君は僕の後輩だね。神の雫って派閥にいたんだろう?いつでも帰ってきなさいと言われたかい?彼女こそが僕の言った最低最悪の魂だよ。嘘だと笑ってもいい。でも、5世紀ほど前かな?僕が死ぬ前にいた村で、彼女がやってきて村をおもちゃにした事を一生忘れないよ。その記憶は僕の源泉なんだ。』
アリアは何も言わず動かない。彼は何が言いたいのか分からない。
『何が言いたいのか分からない、か。君も被害者って事。クリスはどうして君と結婚したと思う?愛していたから?そうかもしれないね。でも、疑問に思った事無い?何故派閥にいて私達だけが戦いに駆り出されないかとか、仕事をしなくて済むのかとか。』
思った事はある。でも、幸せな時間を尊重してくれたんだと思っていた。
『それは無い。愛に目が眩んでいたんだね。コータ君も君と似た善性を持ってたねぇ。彼との違いは死の観念かなぁ。まあ、彼の話はいいや。クリスの権能はとても扱いづらい。タフな心がないと穢れてしまうね。クリスが穢れていたのは知らないよね?』
知らない。そんなことはなかった。仮初の肉体はキレイなままだった。
『仮初の、ああ、今では"ガワ"をそう呼ぶんだ。はあ、気持ちが悪いことこの上ない。クリスは君達がマザーと呼ぶ人に飼われた豚だよ?いいように使われて、少しでも長く使えるように女を宛てがう。彼の趣味変わってるんだ。アリアは権能を使われた事は無い?無いか。じゃあ、本当に愛していたのかな?』
アリアは疑わない、あれは紛れもなく愛だった。
『ならなんで
『誰かの記憶を作り変えたかもね。少なくともクリスは君と出会う前まで女性と見るや否やで、拷問して犯して、
愛して、
『愛ではない。君、権能が記憶を読むんだよね。
君の知っている彼は君の理想の人形だよ?たまたまいい人形がいたから、将来有望な君好みに作り変えて、必要な駒、つまり君に世話させて2人を派閥に繋ぎ止めようってね。』
そんなことはない。彼はクリスは、
『クリスって真名かな?記憶を読んだ事ある?愛してるならありそうなもんだけど。どう?』
試した事はある。痛みを伴わず記憶を読むのは簡単だ。同意を得ればいい。
『名前はクリスだった?』
間違い無い。クリス・ミルソート
『・・・・・・。そうか。じゃあ、僕の知ってるクリステン・アンドル・ミルステッドとは別人だね。彼も僕と同じ頃に派閥に入った友人だ。確かに、女癖は悪かったけど、犯して拷問するようなやつではなかったんだよなー。むしろ、彼自身ひどく自分の権能を嫌がってたし、僕に貰わないかって言ってきたんだよ。そんな彼が、僕が神の雫を出てからそんな鬼畜になったらしいけど。僕の予想だけどね、彼遊ばれたんだと思うんだ。マザーにさ。人たらしの憎めない奴で、いつも笑ってたからね。壊すために拷問とか鬼畜な事させたのかなって、これは証拠が無いから何とも言えないけどね。』
誰の話をしてるんだ?クリスなら私よりも50年ほど歳が上の200歳だったはず。
『信用しなくてもいい。証拠を出せと言われても難しいんだ。言えない事も多いから。少なくともクリス、クリステンを僕は憎くて殺したわけじゃない。友人として、餞として殺して僕と共に歩んでもらう事にした。・・・・・・。君の愛は本物だろうね。でも、謝らないよ。』
アリアは動かない。
『聞きたい事はある?』
アイザックは何で殺した?本当に権能の為なのか。
『オオタとの繋がりでね。彼は君と違って悪いやつだよ。』
私を拷問する意味はあったのか?本当にお前は悪人なのか?
『・・・・・・。悪人だから拷問したんだよぉ。』
・・・・・・。
『さて、誰かに伝えたい事や遺しておきたい言葉はある?』
マリストルはどうなる?
『彼女については、恨まれる覚えがない。忘れているだけかもしれないけど、僕に限ってそれはない。だから、調べてから決着をつける。今は生かしておくよ。他には?』
クリスはあなたの中に?
『ん〜、記憶は無い。クリスは死んだ。間違いなく源泉を破壊した。でも、権能だけはあるね。でもこれは記憶でもなんでもない、道具だよ?』
なら、私も取り込んで欲しい。
『・・・。まあ、最初からそのつもりだったけど、ね。』
コータ、いやタキガワケイタは何の為に生かそうとした?
『真名、記憶を読んだのか。マリストルに、まあ、いいか。後で君の権能で確認しよう。さあ、何というか僕よりも悲惨な人間を始めて見た。善性がこんなにも悪く働くのかって、だからかな。いい仕事人になりそうだし。』
彼には悪い事をした。謝っておいてほしい。
『分かった。でも、気にしてないと思うよ。俺は見捨てられて当然とか思ってるよ。たぶんね。まあ一応会ったら伝えるよ。』
アリアは動かない。
『アリア・ゾーテか。愛に生きた魂。僕の記憶に誓って絶対に忘れないよ。』
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