第5話正式に村に入れました。正式に。
「おい!ばあさん!離れろ!そいつは人に化けた魔物かもしれねぇ。」
「黙って見てるんじゃ。私が何もされなければこの方には敵意が無い事の証明になるだろうて。」
「でも・・・」
黒髪のバケモノはゆっくりと慎重に地面に膝、手をつき、またゆっくりと慎重に地面に寝た。そして、手を真横にピンと広げ一切動かなくなった。
な、何が起きているんだ。なんで急に寝る?何か大魔法の準備なのか?それならマズイ。
「ばあさん!いい加減離れろ!誰か!警備長を呼んで来い、8番だと伝えろ!」
「わ、分かった。」
くそっ。野次馬も集まり始めてる。ていうか、なんでばあさんは離れないんだ。
8番はこの町の全戦力で対応すべき事態。平の俺が使える最高の緊急符号だ。魔法さえ使えれば、信号弾で合図を送れるのに・・・。いや、ないものねだりをしても仕方ない。
「ジート、この方は敵じゃない。ほら、こんな近くにいても何もしてこなんだ。あんたは攻撃されたのかい?」
敵の線は捨てられない。
バラモント様が「神の森で不審な一行を見てねぇ。騎獣していたところを見るとテイマーだと思うんだぁ。そしたらぁ、ほらぁ。あそこの黒髪の男~。よく分からない言葉を話しながらついてくるんだよぉ。助けてくれないかい~?」
バラモント様はテイマーの仲間の人間か、人型に化ける魔物もしくは魔族だと言いたいのだろう。
何故この村に嗾けるのか、あいつは人間なのか魔物なのか魔族なのか。不明な点は多いが、恐らく、あいつは魔物か魔族だろう。焼き物の様に砕ける身体に異常な回復速度、バケモノだ。
確かに攻撃はされていない。最初の突進は攻撃ではなく何らかの目的があっての行動だろう。避けて切って下さいって誘導してるようなものだった。それが目的だったのか?攻撃させる事が?いや、そんな回りくどい事をして俺だけを殺そうなんて効率が悪すぎる。
だとすると、俺一人に対する攻撃でなく村に向けたものの可能性がある。そうなれば尚更、どうにかしなきゃいけないだろう。
「攻撃はされていないが危険すぎる!神の森へ行くかここで死ぬかどちらかだ。」
この判断は間違っていないはず。ジミー先輩も正しいと言ってくれるはずだ。
「この方は
なんだって?
だが、その男には翼が無いじゃないか。
「その男には翼が無いぞ!それについてはどう説明するんだ。」
「
「な、バカって。いや、説明になっていないぞ!翼が無いことに変わりはないじゃないか!」
「お前と違って慎ましく生きる者もおるんじゃ!神の恩寵を人間ごときとの諍いに見せびらかす訳がなかろう!」
クソばばあが。言いたい放題じゃないか。クソッ!本当にばばあの言う翼族の祖だとして、殺すとマズいのか?
翼族なんて結局魔物じゃないか。だが、神の御使いか。分からん。そもそも俺には戦力、判断力ともに分不相応の状況だ。援軍はまだ来ないのか?警備長なら判断してくれるはずだ。
とりあえず、ばあちゃんが味方でいいんだろうな。無抵抗アピールは大成功と。さて、このままでは何の進展も無く捕縛され、拷問されるだろうな。痛くないから、拷問の意味はないけど。
ばあちゃんに縋るしかないだろうな。営業時代に培った、このままだとノルマがぁぁぁの悲痛な顔作戦。効果はほぼ無かったけど、一か八かやってみるか。どうせ言葉が通じないんだ。顔芸バンザイ。
あのアホが。御使い様の事も知らんとは、だから最近の若い者は。
このままだと大変な不敬を働いてしまう。この村どころか、国まで天罰が下るかもしれん。どうしたらいいんじゃ。おお、神よ。
クライばあちゃんは両膝をつき天を仰ぎ、胸の辺りで両手を堅く組んだ。
神よ、この状況は私の手には負えません。何卒、解決の御助力を。
すると、黒髪の男はやおら立ち上がる。それを見たジートは、バカの一つ覚えの様に逃げろと繰り返すが、手で制す。
黒髪の男は、私の前で片膝をつき私の両手を優しく包んだ。行動の意図が分からず男の顔を見ると、大層悲しそうな、沈痛な面持ちだった。
何も言わずただ私を見つめるだけ。ああ、私は赦しを得たのか。
なんと罰当たりなことか。人間の諍いを神に仲裁してもらおうなど浅ましい。ましてや、御使い様を巻き込みあまつさえ殺そうという愚かな人間がいるというのに、途方にくれる役立たずの年寄りを赦して頂けるのか。
なんと、なんと尊いのだろうか。
ドドドドドドドドドと軽い地響きが鳴る。バケモノの仕業かと思ったが、どうやら援軍が来たようだ。やっとか。
いつまで見つめ合ってるんだ。年考えろよ気色悪い。あのババアはいかれてるな。魔物に絆されやがって。どこぞの三文小説みたいになってるぞ。
「警備長!こちらです!あいつが村に危害を加えようと企んでいるようです。身体は脆いですが、異常な回復力です。」
オオタ村警備長クレンは、この国でも指折りの戦闘力を誇る猛者である。高い魔法力にあらゆる武を極めている男である。そんな男が何故、村の警備長に甘んじているのか。それは家族の存在である。
「か、母さん?何してんだ!危ないから離れてくれ!」
「え?」
確か、ジートだったか。そんな目で見るな。
「クレン!この方は御使い様じゃ。間違いない!攻撃だけはしてはいかんぞ。私が盾になってでも止めるからの。」
「御使い様?そいつは
「息子の無知をここで晒すとは。ああ、御使い様不出来な息子ですが、根は優しく真面目ですじゃ。御赦しを。」
「おい!ジートどうなってる?洗脳でもされているのか?状況が分からん説明しろ。」
「まず、あいつは魔物か魔族で間違いありません。先ほど村に入られたバラモント様より確認しました。」
「バラモント様?では、間違いないな。なら御使い様とはなんだ。母は何故あそこにいる?」
「あいつと戦闘になった際、ばば、警備長の母上が御使い様だといって庇っていまして、手を出せず現在に至ります。洗脳については分かりかねます。私に魔法の才はありませんので。」
洗脳、精神支配の可能性は否定できないが、母さんほどの治療師が簡単にやられるとは思えない。
しかも、御使い様だと?私に援軍要請に来た男の話では、身体が焼き物の様に崩れたと。しかも異常な再生力。人間でないことは分かるが、魔族でもなさそうだ。尻尾や角の類が無い。
なら、魔物か?そんな特殊な魔物聞いたことが無い。
・・・聞いたことがない特殊な魔物か。だからこそ御使い様の可能性があるという訳か。
「母さん!攻撃はしないと約束する。その方と話せるか?」
周囲の兵がざわつくが無視だ。なにせ、俺も正解が分からないのだから、ここは堂々と自信があるように振舞わねば。
「無理じゃ。この方は下界の言葉に明るくないようじゃ。」
じゃあ、どうすればいいんだ?ん?
「ジート!バラモント様に警備庁舎にお越し願え。通訳を頼みたいと。御使い様とお話がしたいのでと丁重にな。」
「なるほど、分かりました。」
「母さん。警備庁舎に御使い様と一緒に来てくれ。絶対に攻撃はさせないが、周囲には兵を置かせてもらう。それで構わないか?」
「ちょっと待っておくれ。」
母さんは御使い様に身振り手振りで何か伝えているようだが、伝わっているのか?首を傾げてるじゃないか。
「分かったのじゃ。攻撃はさせんでくれ。」
「ああ。全員聞いたな!絶対攻撃はするな。庁舎まで護衛する。行くぞ!」
これは、正解なんだろうか。周りに兵士。ばあちゃんはずっと手を繋いでいる。兵隊のボスらしき人はチラチラ俺とばあちゃんを見てくるし。
・・・・?ん?いやいやいやいや、絶対違うからね?アブノーマルな性癖は否定しない。人の趣味だからね。でも、俺は違うからね。俺めっちゃノーマルだからね。ホントに。いや、ホントに。
これから何されるんだろうか。異端審問とか?正しい選択であってくれ。ああ、神よ。
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