第4話初戦闘?いいえ、泥仕合です。

「こ、こんにちは。え、えーと本日はお日柄も良く、良くですね。」


お日柄も良くの続きなに?続かない?んなわけあるめぇよ。あー。肉体があったらクソ駄々漏れだわ。剣先が喉の手前でピクピクしてるもん。死なないし痛くないと分かっていても、恐怖はあるな。前にいた世界の名残だろうな。どう切り抜けたもんか。


「あのですね、抵抗はしません。ほら、両手を挙げているでしょう?なので早まらないで下さいね。いやホントに。まずですね、私は、さっきここを通った者の連れでして、何か聞いてませんか?」


実は、支社時代には営業でトップにまで上り詰めた実力派だからな。確かにこの状況は怖い。だが軒先で、「何回も来るんじゃねぇって言っただろうが!!」と初めましての強面おじさんに唾飛ばされるよりかは、幾分か冷静に対処できるってもんよ。さーて、番兵さん穏便に行きましょう。


「あsdfくぇrzxcv;lkj@ぽい・。、m」


ふぇ!?ウ、ウソだ!そんなヘンテコな言葉聞いたことない。第一バラさんは俺と普通に日本語で話していた。そして、バラさんは番兵さんと話していた。


・・・・・・。バラさんがバイリンガルの可能性があるな。もしくは、魔法か。やばい、言葉が通じないなら俺の営業時代のスキルは役に立たない。これは、あれだ。ジェスチャーだ。


「ワタシはー、テキジャナーい。ワカルネ?オーケー?」


敵じゃない!のジェスチャーってどうすんだよ。とりあえず両腕を大きく振ったけど、上京する友人の見送りじゃねぇんだって。あーあーあ。めっちゃ睨んでる。その目は親の仇に向けるもんだよ?君の親は殺してないよ?


「fdさl;lkじゃlskdjf;あs!!!!!」





コータの喉元に狙いを定めていた切っ先は、上方にゆるりとあがり、シュパッ‼と躊躇いなく振り下ろされた。剣を振り下ろす直前に踏み込んでいた番兵は、見事に刀身で首の根元から体側中腹辺りを袈裟切りにした。コータはその瞬間目を見開いていた。そして、攻撃も防御も逃走もせず固まったまま、砕け散った。


ギーーーン、刃が肉を通るにしてはおかしな音だ。と番兵は剣を振り下ろしながら考えた。


刃はすんなり通った。すんなり過ぎる。素振りをしているかのような錯覚をするほど切った感触は無い。強いて言えば、刃が通る瞬間と斬り終わる瞬間に、雑草を乱暴に切り進む時に感じる感触があったぐらいだ。人間を、斬ったのか?


番兵は袈裟掛けに切り捨てた身体の余韻を感じ、無理に身体を止めず自然体にしていた。その為視線は地に刺さる。


先輩の番兵ジミーには「最後まで相手から目を逸らすな!死に体になればなるほど、お前は追い詰められていると思え。」と言われていたのを思い出す。ああ、悪い癖だ。今なら簡単に俺は殺されるな。


パッと視線を不審者に向ける。合うと思っていなかった目が、合う。数秒の膠着状態が続いたのち、剣を構え直した。


な、なんで生きてるんだこいつ、確かに斬ったはずだ。次はしっかり、死ぬ瞬間を見届けてやる。剣を大きく振りかぶった。





たぶん、パニックに陥ったんだろうな。分かる、分かるぞ少年。俺も君が剣を振りかぶった時何も出来なかったもん。いざ不審者に出くわすと、体が硬直して声が出ないなんてのはよく言われてるもんな。避難訓練といかのおすしは大事だな。え、やっぱりまた斬りますか?あーもう、クソ、やけくそだ、突撃‼


「チェストォォォォーーーーーー!」


突撃したものの無手でできる事、真っ先に思い浮かぶことは組み伏せる事だった。走りながらの打撃なんかしたことがないし、腰の入っていないパンチが効くとは思えないとの、コータの判断だった。


イノシシ然とした低姿勢タックルは相手の足元に組み付き掬い上げる様に足を刈る予定だった。


だが、言うまでもなくコータの身体は感覚が無い事と、体が異常に脆いことを除けば人間と同様の構造であるから、四足獣タックルをする際に目線を相手から外さないように注意が必要であった。


これは意識しなければ、緊急事態や恐怖や体の構造から必然的に地面に視線が行くことになる。


責めてはいけない。28歳。元会社員。喧嘩は小学生以来のただの元日本人なのだから。


イノシシの様に上体を屈めタックルに入るが相手は剣を振り上げて準備は万全だった。番兵は剣を振り上げたままサイドステップで突進ルートから回避し、上方の剣を自然と引き下げ野球の打者の様にスイングした。


バギーーーーーン


剣とコータの頭頂部から不快な音が響いた。剣はコータの肩甲骨辺りまで砕いた後、銀色の刃を空中に残した。


コータは異音を聞きながら、頭から胸の辺りまで砕け散りながら、しばらく走り続けた。


思ったより接敵がまで距離があるなとか、なんだ今の音とか僅かに思考したものの、敵を組み伏せること以外は邪魔なだけだと、すぐさま余計な思考を一蹴していた。





薬屋を営むクライばあちゃんは村の”神の森”側入り口近くの道沿いに店を構えていた。この村は、領主邸に近く村にしては行き交う人が多い。


何故なら”神の森”へ行くにはこの村を抜けるしかないからだ。


領主邸にて”神の森”へ入る許可を貰い、そのまま街を抜ければこの村へ入る。そして、”神の森”へと赴くから、村にしては人が多く商売の芽も多いわけだ。


そんな村の一等地とも言える場所にて商売をしているクライばあちゃんは、78年の人生の中で最も驚いていた。


従軍から帰還して私にプロポーズをした旦那が実は王家の血筋の傍流だとか、私の作った回復ポーションが欠損のある子どもを治した奇跡だとか、神の森から死者が帰ってきただとか。そんなことよりも目の前の光景と比べれば取るに足らない事だと思った。


黒髪の男が番兵のジートに突進したと思えば、頭をかち割られた。見たくはない光景ではあるが、戦争は何度も経験しているから、顔を顰める程度の事、のはずだった。


目の前の光景に啞然とした。


黒髪の男は頭から胸までが焼き物の様に砕け、胸から上が無いまま走り続けている。数舜、砕けた頭から胸の残骸は光の粒になって空気に溶けていった。そう思えば黒髪の男の欠けた部分が徐々に戻っている。それも綺麗な光を放ちながら。


黒髪の男はザザーッと走り抜けた勢いそのままに転んだ。


するとまた、先ほどの様に砕け美しい光を放ちながら再生していた。男はフゥーッと息を吐くと。キョロキョロ辺りを見回し、番兵のジートに向き直る。


「あsdlfjjhgdl;さじぇおうぃうrj」


何かを叫んでいるが、全く意味が分からない。どこの言葉だろうか。何より、彼は何者なんだろうか。人型の魔物は存在すれど、あそこまで脆くまた瞬時に再生するようなのはいなかったはずだ。


「qpをいうtjsdんgじゃbんscヴぁsd!あ;slk!」


必死に何かを伝えようとしている。両手を上げるのは何だろうか。


彼を遠目から検分してみるが、武器は持っていないし転んで立ち上がってからは、その場から動いていない。それにあの格好は初めて見るが高貴なお召し物に見える。


「な、なんじゃ?あの禍々しい魔力の流れは。それにあの魔力の多さ。」


もしかしたら・・・。






「こちらは何の攻撃もしていないだろう。頼むから話し合おう!頼む!」


攻撃はしたけど、当たって無いから攻撃には入らないよね。ていうか、俺2回斬られたし。


そして、こけて砕けて今に至ると。あの少年警戒してるな。ただ、攻撃する気はなさそうだ。いや、どう攻撃すれば通用するのか判断し兼ねるているんだろう。


困った。言葉が通じず、敵意全開の番兵。バラさんここまでする事ないぜ。心を読まなければ済む話でしょうに。


「あsd;lkfhh;あlkshごっうぇr?」


「ひぇ!?」


ばあちゃんがいきなり話しかけてきた。なんか心配そうな顔をしてるな。


もしかして、味方なのか?どう見ても俺が悪者なのにわざわざ近寄ってきて、話しかけてくれたんだ。降伏アピールが効いたのか。


落ち着け。まずは冷静に対処しよう。言葉は通じないんだからボディランゲージで敵対者ではないとアピールしなければ。




今が正念場だ。

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