第3話ようやく村に入れそうです。一悶着ありそうですけど。
目の前には木がたくさん生えている。何て名前の木かは分からないが、広葉樹林というやつだろう。暖かい地域に生息しているのだったか。義務教育ってバカにならないな。ちゃんと理科の勉強すればよかった。
振り返ると、淡く暗い空間がある。やはり何かが蠢いているが、ここは何なんだろうか。遠近感も分からないほどずっと暗く黒い。
俺は、薄気味悪い空間と木々の生い茂る森との狭間にいる。さっきまで薄気味悪い空間から村の風景を見下ろしていたが、バラさんの後を追うと目の前には森が広がっていた。今度は地に足のついた視線だ。この空間はどこにあるんだろうか。これも魔法的な何かなんだろうけど。
一歩踏み出し周囲を観察する。何の変哲もない森のようだ。肉体があった頃と違い、土や木の匂い、地を踏みしめる感触は無い。目や耳は聞こえているはずなんだが、他は機能していないのかな。まだ味覚は試してないから、後で何か食べてみよう。振り返るとそこにも森が広がっていた。あの薄気味悪い空間が魔法であるという認識はより確信に近づいた。
「コータ君。ここはオオタ村近くの神の森ですぅ。オオタは必ずここから村へ向かうしぃ、死者も蘇ると必ずここから村へ行くんだぁ。まぁ、当然だよね。オオタがここで蘇生してから村へ送り出しているんだし。さぁ、村へ行こうかぁ。」
ここに来てどの程度時間が経ったのか分からないが、もう理解できる気がしない。情報過多が過ぎるよ全く。
バラさんの後ろにくっついて森を進むと、左後方から何やら葉を踏みしめる音がする。チラリとそちらを見るが、何もいないようだ。バラさんも特に言及しないし大丈夫なんだろう。
「あの、今から村に行って蘇生された人を見るという事は分かっているんですけど、仕事と関係があるんですか?」
早めに消え去りたいが、仕事と関係ない豆知識を仕入れても意味がない。というか時間の無駄だ。なるだけ早く仕事を覚えて、魂の源泉を穢す方法を模索したい。
「うん~。あるよぉ。さっき震えていた人間がいたでしょう。あれが蘇生された人間なんだぁ。本物の人間は肉体が勝手に成長してくれるからぁ、それに合わせて魂も勝手に成長するんだぁ。つまり、人間は魂が震えることは無いしぃ、僕達とは違って未熟な魂なんだぁ。」
「それは、未熟だから震えないってことですか?」
「そうだよぉ。僕達とは全く違う種族だと考えれば分かり易いんじゃないかなぁ。」
全く違う種族か。すぐには無理だけど
「ところで、バラさんは何年ぐらい
「ん~。ん~?どうだったかなぁ。5世紀ぐらいかなぁ。もう数えてないから分からないやぁ。」
ふぇ!?この人めっちゃ年上じゃん。クソじじいじゃん。見た目は20代後半だな。いやいや、5世紀も仕事続けるとか狂気じゃん。さっさと死のう。このままだと、延々と働かせる気だろうから。
「早く思考を隠す訓練をした方がいいねぇ。僕だって心はあるんだからねぇ。」
「あ、あ、いや。すみませんでした。と、ところで、バラさんはどちらの出身なんですか?俺は地球という星から来たんですが。」
下手な話の逸らし方だが、許してくれ。俺だって、良心の呵責を感じるんだよ。
「ハハハ。えーっとぉ、出身はここだよぉ。僕のいた時代の文明はとっくに滅びてるけどねぇ。文明の水準は現代のこの世界と同じだねぇ。違いは魔法のレベルかなぁ。僕の時代は生活の為だけに少し使う程度だったからねぇ。」
5世紀以上前の文明が今と同程度?人間サボりすぎだろ。
「その辺もぉ、魂が介入してるからねぇ。なかなか発展出来ないんだろうねぇ。」
へぇー。そういう事情があるのか。この世界の人間ごめんよ、早とちりしちゃって。でも、何をしたら5世紀も発展しないんだ?何回も文明を破壊したとか?うーん。わけわかめだなー。
「あそこが、村の入り口だねぇ。番兵が立ってるのが見えるでしょう?あれはただの人間だねぇ。さてぇ、魂と肉体両方見る事ができるかやってみようか。仕事で使うからねぇ。まず、人間の肉体は見えるねぇ?」
「ええ、問題なく見えます。」
「次は~、魂を見てくれるかなぁ?感覚としては、疲れ目の時に頑張ってピントを合わせようとする感じだねぇ。」
この世界にも疲れ目の奴いるのか。書類仕事とか溜まってるんだろうな。残業はほどほどにだぞ。
なんてくだらない考えに耽っていると、魂が見えてきた。肉体が幽霊みたいにスケスケになり、その中から真っ赤な鮮血色の人型が見える。身体中には怒張した血管らしきものが脈動している。魂の体格は肉体に準じているようだ。
「真っ赤な魂が見えます。魂の形って何か意味があるんでしょうか。人それぞれ違うようですが。」
「意味かぁ。本人にしか分からないねぇ。魂はその源泉つまり記憶に形作られているからねぇ。とはいってもぉ、人間の魂なら予想はつくねぇ。番兵の場合は分かり易いねぇ。人を斬ってみたくてウズウズってところだろうねぇ。」
「真っ赤な魂は好戦的という事ですか?」
「違うよぅ。彼の肉体的容姿から10代後半と見えるでしょう~。それからぁ、脈動する血管に血のような赤い魂。僕には血液や暴力の主張の様に見えるねぇ。でもぉ、彼の職業柄血や暴力は日常茶飯事なはずだからぁ、ここまで魂が執着するのは彼がサディストであるかぁ、そもそもこの職業に向いてない血や暴力を忌避する人間かぁ、血も暴力も本気の殺し合いも未経験のバカかぁどれかに絞れるねぇ。」
「10代だから未経験のバカであると結論付けたってことですか?」
「そうだねぇ。これがぁ、女の子なら別の結論になるよぉ。人間はねぇ、魂が未成熟なせいで本能に近い欲求に魂が影響されるんだぁ。さっきも言ったけど人間と僕らは種族が違うからねぇ。人間は未熟だからねぇ、魂の姿もコロコロ変わるんだぁ。キモイねぇ~。」
「キ、キモイですか。俺には何とも・・・」
「まだ人間の感覚が残ってるねぇ。隠す必要は無いよぉ。いずれその感覚は消えるからねぇ。」
なーんか、バラさんは人間嫌いみたいだ。ちょいちょいサイコ発言あったもんなー。
「嫌いとは生易しいですねぇ。人間には反吐が出ますよぉ。」
「あー、へへ。そうなんですね。ところで、肉体と魂の両方を見る事が出来ましたし、次は何をすればいいのでしょうか。」
「とりあえず村に入ろうかぁ。コータ君?さっきの話は覚えているかなぁ?」
「さっき?人間とは種族が違うとかいう話ですか?」
「番兵さんは~、血に飢えてますねぇ。そしてぇ、あなたはこの辺では珍しい容姿をしているぅ。さらにぃ、貴族か家令辺りが着込みそうなその服~。どうなりますかねぇ?」
「悪い想像しかできません。バラさん!助けてくれますよね?」
「さぁ?どうでしょうねぇ?僕はサイコ野郎ですからぁ。先に村に入ってますねぇ。」
「サイコは言ったけど、野郎は言ってません。ちょ、ちょっと、マジですか?喧嘩なんか小学生の時以来なんですけど!」
バラさんはすたすたと番兵の元へ歩き、何か話し込んでいる。今のところ、俺は遠巻きに見ているだけ。転生もののアニメならギルドカードが必要なはずだが、バラさんは特に何かを見せている様子がない。
????なんだ?なんで番兵とバラさんが俺を見てるんだ?
番兵はバラさんに一礼した後、俺に向けて目を細めている。バラさんは俺には一瞥もくれず村へと消えていく。
やばいやばい。やる気じゃん、あいつ。へ?年下に殴られるの俺。あれ?ていうか、殴られても痛くないはずだよな?それに、死なないと。意外と・・・何とかならないよな。殴れないんだもん。殴ったら手が砕け散るし。何か、武器は・・・小枝じゃあ無理だよ。バットみたいな木の棒なんてそうそう落ちてないよな。
こうなれば、逃げ、たら何世紀も彷徨うのか。クソ。やけくそで突撃しかないか。腕の再生力頼みでタコ殴り、これしかないな。やってやる!!!
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