第12話ちょいと魂の歴史でも紐解きます?

『いや、そうだ。ここまでやる必要はないだろ。クソ女!』


『クソ女・・・。確かにこんなやり方しかできなくて済まない。私に出来る事があれば何でも言ってくれ。お詫びとしてできる限りのことはする。』

この展開、転生アニメなら・・・。ふざけてる場合じゃない。俺は怒ってるんだ。


『まずこれを外せ。情報は得たはずだ。さっき中で記憶を見たんだろ?』

身体の中には魂の記憶、その奥には魂の源泉しかない。つまり、捜し物は記憶ということになる。発言の裏付けが欲しかったのだろう。

『ああ、一部だが見させてもらった。その際に本件とは関係ないものまで見てしまった。恐らく前の世界の記憶だろう。それについても済まない。そうだな、拘束は不要だろう。』


・・・。頼むから悪役に徹してくれ!誠実過ぎて罪悪感出てきちゃうだろ。ただでさえ怒り慣れてないのに、もう、引けないわ。


『では外すが、暴れないで欲しい。制圧せざるを得ないからな。』

彼女は指先で中空に円を描く。拘束している麻縄と同じ物が指先に合わせて中空に出現し円を象った。

『"監査人オーディターアリア・ゾーテが命ずる。遵法人ロイヤーが権能、犯罪者クリミナは解放せよ。"』

麻縄が緩み俺を象ったまま膨らんでいく。ひとしきり膨らむと足から一本の縄として、アリアが描いた円に吸い込まれていく。全て吸い込むと円もまた、ひとりでに自らを吸い込んだ。

これ、見えるんだな。麻縄だ。何でだろう。

『さて、話そうか。立ったままでも構わない、というか疲れることは無いんだが、一応礼儀として机と椅子を用意した。掛けてくれ。』

一面何も無かったが、光の粒が机と椅子を創り出す。

俺にはどこまでも暗い場所に、髪の長い普通の女性が立っているのが見える。魂だから、見えるんだろう。何で机や椅子まで見えるのだろうか。飾り気のないただの木の四角い机と背もたれが肩程まである椅子。これも魂?

とりあえず、座る。


『・・・。』

『さっきも言ったんだが、私に出来る事なら何でも言ってくれ。殆ど無関係の君に申し訳ない事をした。』

頭を下げてくるが、して欲しい事は解放だ。でも、解放されたところで行く宛も何をするかも決めていない。仕事の触りはバラさんに教わった。けど、バラさんにしか教わっていない。魂の必殺技も呪文ぐらいしか知らないし、とにかく分からない事だらけだ。解放してもらうのは質問してからでもいいか。


『色々と聞きたい事がある。まずここはどこだ、ですか?』

高圧的になる必要も無いよな。こっちの方が話しやすいし。


『ここは私の家のようなものだ。魂には必ずある。』


『アリアさんと仲間たちの目的はバラさんを捕まえて何かしたいってところだと思う。何故捕まえる必要があるんですか?』

『彼が悪人だからだ。』

『悪虐がどーのとか言ってましたが、人を殺したからって事ですか?それなら仕事の範疇だと思うんですが。』

『それも一因だが、瑣末事だ。それに、君の言うとおり彼の仕事の内だから、私が口出しする事ではない。不満ではあるがな。彼が行った悪行はもっとある。』


『その悪行とはなんですか?』

『端的に言おう。魂を殺した。』


おお?殺せないと言っていたはずだが。結局死ねるのか。


『君の記憶を覗いたが、バラモントに教わった事があったな。魂が不死であると。それは嘘だ。』

『では、アリアさんが俺を殺そうと思えば今すぐに殺せると?』

『出来なくは無いが、しない。そもそも殺すとか死ぬという表現が、魂にとって適切ではないと私は考えている。だが、便宜上使わせてもらう。』

『分かりました。』


『あらゆる魂は記憶と心で構成された存在だ。この説明はバラモントもしていた通りだ。ちなみに、成熟した魂においては脳みそさえあればそう呼ぶが、肉体が無いから脳みそも無い。だから心と呼んでいる。記憶と心である魂は不死だ。まず、死ぬ可能性が無い事が証明されている事象を列挙する。老衰、生物による殺害、自殺、穢れ、病気。君は穢れによって死ねるとバラモントに教わっていたが、それも嘘だ。』


嘘が想像以上に困る。嘘をつかれた事ではなく、嘘の内容だ。なんか俺を生かそうとしてたっぽいな、バラさん。

理由は悪の組織への勧誘だろうけど、なんだかな。悪い気はしない。けど、もし断ったら殺されてたんじゃないか?組織を守る為には漏出する情報は最小限がいいだろうから。上手くいけば仲間に、ダメでも殺す、そういう魂胆だろう。魂だけに。

でも、俺である必要があるのかしら。死にたがりの、平和ボケした無能だぜ?知識チート出来るほど頭良くないし。さて、その点にも何かありそうだ。


『穢れは源泉の否定。黒から白へ、善から悪へ、またそれらの逆。否定し作り変える過程でしかない。その過程はとてつもない苦しみを味わうと聞いたんだが、君は何というか飄々としてるな。苦しさや痛みなどは無いのか?』

『?特に何も感じませんけど。』

『そうか。その見た目だとかなり穢れが進んでいるようだが、何も感じないのか。・・・。続きだな。では、死ぬ可能性がある事が証明されているのは何か。気づいていると思うが、魂が魂を殺すことだ。ここからの話は成熟した魂、つまり我々の事を魂と呼ぶ。混乱を避ける為にな。これまで数々の魂が生まれて死んだ。それらを死に至らしめたのは、他でもなく魂だ。何故殺したか、単純に仕事だ。ある者は職権の乱用により、ある者はほとんどの魂から疎まれ過ぎて、またある者は人間をおもちゃにし過ぎた。これらは、ある程度ならば許容される。人間時代の倫理や法律は何ら意味を持たない。魂はあらゆるところから集められている。時間も住む世界も種族も性別も宗教も何もかもが違う私たちが何故か一所に集められ、仕事をしている訳だ。比較的高い知能を持つ種族から魂が選ばれていると思う。さすがにすべての魂を網羅的に把握している訳では無いが。だからこそ、混沌の中に秩序が生まれる。至極当然で、弱肉強食から始まり、派閥が形成されたり、派閥間の同盟が出来たり、無用な争いと小競り合いを防ぐものが出来た。それらは、あくまで私的な関係の中で出来たものであって、何か法律のようなものがある訳ではない。だが、十分に機能していたし、現在もしている。』


なかなか興味深い話だが、バラさんの悪行と関係あるの?


『ああ、大丈夫だ。小首を傾げたからな、なんとなく何を考えているか分かった。話を逸らしている訳では無い。バラモントに関係のある話だ。派閥は主要なものが3つ。中規模が2つ。小規模や1匹狼は人数不明だが存在する。バラモントがこの世界に来たのは5か6世紀以上前だと思う。本人も覚えていないと言っていた。君は5世紀前のこの世界の住人だったとバラモントから聞いていたな。では、5世紀前という事にしておこうか。』


『その時代は派閥同士の争いに突入しかけていた頃だ。バラモントの前任調整人はとにかく気に入らないやつを片っ端から権能で消していたらしい。どこかから転生してきたらしいが、まあ、ただのアホとしか言いようがない。そんな彼もある派閥の人間にちょっかいをかけてしまい、即刻抹殺された。方法までは詳しく知らない。それで、新しく調整人になったのがバラモントだ。本来ならば、仕事の引継ぎは代行人アクター模倣人イミテイター代理人エージェントなど魂の中でも専門的な彼らが行うのだが、彼らはその職を放棄した。』


『さっき言ったアホの前任調整人の前の調整人は、仕事をきっちりこなし派閥には属さず積極的に人間と交流する、魂では変わり種だが、優秀で尊敬される魂だった。彼女は人間と交流する中で、人間となることを強く求めたようで、仔細は分からないが、子供を設けることに成功したらしい。本来ならあり得ないことだし、魂の歴史でもこれは極めて特異なことだ。彼女以降たまに孕んだり孕ませたりする魂が出てくるが。そんな魂の歴史の転換点を作った彼女の子供は、生物とは呼べなかったらしい。姿形は驚くほど彼女に似ていたが、口をパクパクさせ泣かなかったとか。』


『しきりに口をパクパクさせるので、人間の母親からもらった乳をあげようとするも相変わらずの様だったそうだ。乳も飲まず泣かず、寝ず。まるで魂である我々みたいな子だなと楽観的だった彼女が、ある時、言葉や音をハッキリ聞いた。「止めて!誰か助けて!嫌だ!おい、これ分かるな。喋るな!大人しくすれば命までは取らねぇ。ギシギシギシギシ」男女の声に、何かが軋む音。初めは何かあったのかとその方向を見るが、考えてみると家の隣は畑だった。』


『こんな夜中に出歩くかな?と思った彼女は赤ん坊を見る。まさかとは思いながらも可愛い我が子に近づき抱き上げようと脇を持った。「ギシギシギシ。はあ、はあ。お前の家は覚えたからな。告げ口してみろ。妹も犯してやる。明日も来るからな。」赤ん坊がハッキリとそう言った。結局、彼女の前世の記憶が赤ん坊として分離されただけだと魂界隈では結論付けられた。赤ん坊もまた魂であったが、特異で不明な出生方法に、耳を塞ぎたくなる嫌な記憶の音。』


『言わずもがな魂の殺し方を探した母親はある派閥の長に、私諸共殺してくれと懇願したらしい。その長はそれを了承し、母親を殺害。赤ん坊は派閥内に残され数年実験と研究に使われ、殺された。そんな二人の調整人を知っている引継ぎの専門家達は引継ぎを行わなかった。神など信じていないはずだが、不吉さを感じ取り、調整人には触れたくなかったんだろう。仕事はしなくていいのか?と思うかもしれないが、その時代は派閥同士の争いの火種が燻っていた時代。方々で数人の犠牲はあった。だからこそ、調整人の引継ぎを好き好んでやってくれる者はいなかった。』

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