第8話バラさん、人間嫌いを発揮する。舐められると怒るから気をつけて。


「とぉ、そんなこんなでここオオタ村の人間は魔人とのハーフが多いわけぇ。でぇ、あそこにいるのが王様ねぇ。」


バラさんは肖像画を指差す。やっぱ王様か。こんな村に王様の絵。義務付けられてんのかなあ。


「義務じゃないよぉ。女の世話代として国から金が配られてたからねぇ。もちろん名目は魔物退治頑張ってねぇって事だったけどぉ。この村もこんなに発展した訳でぇ、感謝もするんじゃないのぉ?」


「それで、どうなったんですか?王様のその女性のその後とか。この村の差別主義者の行末とか。」


「女性はある戦いで死んでぇ、差別主義者もその戦いで死んだねぇ。その後、国王と女性の子が村長になってこの村を復興させたねぇ。」


「復興させたってこの村で戦いが起きたんですか?」


「起きたけどぉ、また今度ねぇ。その辺は重要じゃないしぃ。では問題ですぅ。村には魔人と国王の落胤が居り魔人と人間のハーフも増えたでしょ〜。そして魔人擁護派と排除派に二分されたぁ。この村を調整してください〜。」


調整って必ずしなきゃいけないのか?放置でいい気がするけど。と考えても仕方ないか。仕事だしな。


魔人と人間と、魔人と人間のハーフ。更には思想で村が真っ二つ。3つの人種に思想が2つ。きっちり3等分しても思想でバランスが偏る可能性がある。


ん〜?何人とは言ってない。てことはだ、人数で分けるのが初歩だとして、お次は別の方法を探せという事か。


思想が二分されたとは、それぞれの思想を持つ人達の人数が2等分ではなく、思想の対立が起きたという事だとして、どうバランスを取るんだ?2つだと争いが起きそうだ。もしくは村から人口流出。どっちも良くないよな~。分からん!これは分からんけど勘で行くしかあるめぇ。


「宗教でも入れて思想の上書きをします。人間も魔人もその子らも皆平等だよって宗教なら3種族鼎立できるかと。これで人数に偏りがあれば何かしらで介入します。」


「いいでしょう〜。」


おお!マジで?なんか、才能の芽が花開いた気がするぜ!


「人間至上主義とそんな事ない!と抵抗する勢力〜。人数には偏りがあるし宗教による塗替えも昔に行われたんですぅ。その他色々と尽くされてぇ、現在に至るとぉ。」


「全く調整出来なかったと言いたいんですか?」


「はい~。この村はオオタという魂の、剥ぎ取り場と言ったよねぇ?」


「ええ。確か蘇生した人間が・・・あ、そいつを見に来たんだ!そいつも殺したんですか?」


「いやいや〜。生きてるよぉ。オオタは剥ぎ取りの効率を考えて魂の強度を上げたかったんだろうねぇ。交配して出来た半魔の実験も行っていたんだぁ。」


「強度ですか?」


「死者を蘇生するには2人の魂が必要になるらしいよぉ。やり方は僕も詳しく知らないんだけどぉ、僕が調整したそばから復活させたりぃ、定期的に起きる殺し合いの死体を使って蘇生を施したりぃ、とにかく調整したら邪魔されるわけぇ。だから、夢幻にまとめて送ってみましたぁ。」


「夢幻送りだけが処分の手段ではないんですね。」


「うん〜。もちろん〜。魂には魔法以外に魂独自の武器があるんだぁ。調整人には全てをを処分する為の案内者コンシェルジュという権能があるよぉ。


案内者コンシェルジュは夢幻送りにする必殺技でぇ、どうしようかなぁって困ったら使えばいいよぉ。それ以外は魔法でちょちょいとねぇ。」


「全員夢幻送りとはいかないんですか?」


「おお?なかなか過激な事言うねぇ。魂らしくなってきたじゃないのぉ。魂は〜、仕事ともう一つやっておきたい事があったよねぇ?」


「魂を震わせる。ですか?」


「そうそう〜。お仕事の合間に魂が震えるのはどんな時かなぁ?って試行錯誤するわけぇ。そうなると、全部夢幻送りにしちゃうと材料が手元になくなっちゃうからねぇ。」


「ざ、材料ですか。なるほど。」


「さあ、蘇生された魂を見に行こうか!面白くないけど、いい勉強にはなるよぉ。」


この部屋から出て、初めに入った門扉まで一人も出会う人間は居なかった。門扉の外に出るとわらわらと人が集まっていた。30人程だろうか。


思わず眉根を寄せてしまう。


人間は夢幻送りにしたって言ってたのに、目の前に人間がいる。これが、蘇生された者達?ただの人間にしか見えない。


「バラモント様!人が人が急に消えたんです!お助けを!」


なんか普通に喋ってる。な~に言ってんのか全く分かんねぇや。ああ、こういう時は魂を見てみるか。折角習ったんだからねと。ふ〜む。こりゃあまた、スゴイ。


「魂を見たのかなぁ?いいねぇ、魂らしさが板に付いてきたねぇ。」

「この、ボールとか狗とか身体に合ってませんけど、大丈夫なんでしょうか?」


「ボールは産まれたばかりの魂だねぇ。形を変えるまでは大体球形なんだけどぉ、まさかおじいちゃんに与えるとは〜、面白い事するねぇ。」


「狗は・・・狗ですか?なんか俺が知ってる犬じゃないんですけど。あ~でもドアノッカーに似たようなのがいたなぁ。」


「これは魔物だねぇ。強くもないけど多産って感じかなぁ。彼女は長くないねぇ。肉体に収まってない魂は消えちゃうからねぇ。あ、僕達は大丈夫だよぉ?未熟な魂の話をしてるんだからねぇ。」


狗の魂を持つ彼女はどこか遠くを眺め、中の魂が窮屈そうに暴れるたびにビクッと身体が硬直している。顔も心なしか青い。


「ちょっと君こっちへ来てご覧〜。」


呼び出したのは小さな男の子。片腕が無く顔の傷も痛々しいが、死者とは思えない程生気に満ちている。


「はい。何でしょうか?」


礼儀正しそうな彼はおずおずと人垣の下をくぐり抜け俺達の前へ来た。


魂はピッタリ彼の肉体にフィットしている。この集団にしては珍しい。


「"調整人バランサー bあ3gwpttgおTj が命ずるぅ。未熟な魂よ代弁せよぉ"」


何語かな?ここの言葉っぽく無いけど、一部分からん。たぶんだけど、バラさんの名前かな?


バラさんは男の子の額に人差し指を当てる。すると肉体はゆっくりと目を瞑り崩れ落ちた。


「お!バ、バラさん?大丈夫なんですか?」


思わず駆け寄ると男の子の声が聞こえ、立ち止まった。






さてぇ、未熟な魂さん話してご覧〜。


『助けて下さい!お願いします!』

『何か困ってるのかいぃ?』


『困ってます!オレ、オレは何ていうか自分じゃないんです。知らない事ばかり知っていて、オレの事は何ひとつ知らない。』


『うんうん。もっと具体的に言えるかなぁ?例えばこういう事で困ったとかぁ。』


『う、うん。まずオレの名前が分からない。ジャンス何て変な名前じゃなかった。確か、確か、なんだっけ名前が分からないんです。』


『なるほどね〜他には〜?』


『えーっと、・・・。女とヤレない事だな。ほれ、この身体10才もいってないだろ。あと2、3年でイケる年になるからよ、それまで楽しみで仕方ねー。』


う〜ん、2つの魂をどうまとめたか気になったけどぉ、上手くいってないねぇ。2つの魂を無理やり肉体に詰め込んだのかぁ。1つではダメな理由は何かなぁ?まぁ、帰って調べればいいかぁ。実験体がこんなにもいるんだしぃ。もう少し話して切り上げるかなぁ。コータ君は言葉が分からないだろうしぃ。未熟な魂だからねぇ。成熟した魂なら言葉なんて概念すら超えられるのにねぇ。所詮は未熟な魂かぁ。


『君はだーれ?』

『・・・。ジャンスだ。お前、何者だよ。なんで俺とフツーに喋ってんだ?』


お前、かぁ。お前こそ何で僕とフツーに喋ってるのぉ?


もう少し自重しろよゴミが。謙る頭もないかぁ。救いようがないねぇ。消すか、うん。消そう。実験体は他所で調達すればいいよぉ。





倒れてる男の子の声が聞こえたと思えば、人が変わったように下卑た声がした。魂が2つ必要だってバラさんは、言ってたからそういう事なんだろう。


何か俺、毒されてる気がする。これでいいはずなんだけど、なんかこうしっくりこないな。人間で実験だぜ。普通引くんだけど。いや、引いてるけどね。でも、現実味が無いんだよなー。


それと、翻訳の魔法があればすぐに欲しい。翻訳してくれとイメージ、というか誰かに願ってるけど、変化無し。


『gあtptpdうw@wpm?』


『・・・。fjgひあおえrjgなsjjあ;lskdjf;ヵksdjgかsd?』


謎の会話の後、ニコリと笑っていたバラさんは、首を傾げ能面のような顔で、男の子の肉体に手を突っ込んだ。


今まで何回かバラさんに、何か言っている人達もいた。たぶん、この村の状況を聞いていたんだろう。それをバラさんはまるっきり無視するので、不満そうな顔をしながらも、黙って俺たちのやりとりを見ていた。


だが、バラさんが男の子の身体に手を突っ込んだのを見て、堪らずといった様子でおっさんが出てきた。


「バラモント様何が何が起きてるのか教えて下さい。コレはなんの真似ですか!」


バラさんは男の顔を一瞥すると変な呪文を唱え始めた。バラさんの顔、スゲェ恐いわ。何て言われたんだろう。

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