必遂調整人!転生したら肉体すらなく、変な仕事を押し付けられたんですけど。

マルジン

第1話転生したら魂でした。変な仕事も貰いました。いや、押し付けられた。


黒が染み渡る空間に人の形をした光が立っている。


のっぺらぼうなので表情は読み取れないが首を傾げている。何が何だか分からんけど、とりあえず聞くべきことがある。


「やっぱ自殺ですか。」

「他人事みたいに言いますねぇ。ドアノブにビニール紐ですねぇ。」


「あ~、そうなんですか。」


思い出した。雑誌をまとめるビニール紐を何重にもして補強したな。あぁ、思い出した。


「・・・」

「・・・」


「これだけは聞きたい!という事はないですかぁ?」

「ここは、待機所ですか?天国か地獄か裁判する前に待つ場所でしょうか?」


「いや、違いますねぇ。あなたは死んで生き返りましたぁ。」

「え、自殺出来ますよね?もう生きたくないです。何なら殺して欲しいぐらいです。」


「え、うーん、何でまたこんな人を〜。はあぁ、余計な事するなぁ〜。」

「・・・」


「ここは異世界ですぅ。あなたは転生しましたぁ。どうですぅ〜?気分アゲアゲでしょ〜?」

「・・・」


なんかこの人軽いな~。こっちがどんな思いで死んだと思ってるんだろう。勝手極まるぜホント。


「いやー、せめて会話ぐらいしてもいいでしょうにぃ。減るもんじゃあるまいしさぁ〜。」

「・・・生きたくなくて死んだのに何故でしょう?」


「何故、ですかぁ。分かりません〜。転生に関して僕には権限がないのでぇ。」


出たよ。分りません、権限が無いから責任は無いです。じゃあ誰が責任を取ってくれるかまずは教えてくれよ。と言って上司を呼び出すのは早計か。でも、下手に出るのも違うよな。


「そうですか。分かりません、て。何なら分かるんですか?俺は消えたいんですが。」


「え、えーとですねだからそのー、なんていうかぁ、あなたには仕事をして頂きたい訳でぇ。」

「嫌です。」


「で、ですよねぇ。うーん、まずは疑問を解消しましょうかぁ。死ねるかですが出来ますぅ。ただ肉体が無いので”死”という概念が当てはまるかは分かりませんがぁ。」


肉体が無い?まあ、確かに目の前の神様っぽい人は光り輝いているけれども。いや、神様だとしたら、肉体もクソも無いよな。まずは、聞きに徹するべきか。


「続けてください。」


「は、はい~。えーとぉ、要するにぃ、あなたが思ってる”死”は迎えられません~。しかし新たな肉体を得て記憶も無くなる”死”は迎えられますぅ。」


ということは、死ねるって事だよね。なんか持って回った言い方するな。


「輪廻転生ってことですか?」


「はい~。この場合記憶も無くなる上に新たな肉体、つまりは新生となる訳ですぅ。」

「しんせい?」


「文字通り新たに生まれるぅ。使い道のない魂はまっさらにしてから使われますねぇ。それがここで言う”死”な訳ですぅ。あなたの考える”死”と同じでしょう?」


いや、地獄に行くと思ってたけどね。まあでも、”死”の概念は色々あるらしいから、同じ様なものでしょう。


「まぁ、そうですかね。では、そのやり方を教えて下さい。」


「無理ですねぇ。死ぬ事は出来ますが自殺は不可能ですぅ。そして誰かに殺してもらうことも不可能ですぅ。魂はとても脆いですぅ。平手で叩くだけで割れる程なんですよぉ。ですがすぐに戻りますぅ。」


はい?死ねるって言わなかった?


「・・・。じゃあ、ここで生きろと?言葉遊びが過ぎますよ。死ねるって言ったじゃないですか。」


「大丈夫ですよぉ、死ねますからぁ。ただしぃ、魂の説明からしなければなりません~。構いませんかぁ?」

「お願いします。」


「まずぅ、現在のあなたは魂であり肉体はありません~。魂の基本的な説明をしますねぇ。魂には寿命がありません~。魂への直接的な攻撃には脆く崩れますが必ず回復しますぅ。どれだけ細かく分解されてもですぅ。そしてぇ、現在見えている僕の身体は~、魂が創り出した”ガワ”でしかありません~。魂の一部でぇ、”ガワ”は肉体でいうところの皮膚ですねぇ。もっぱら感覚もないし本当に脆いですよぉ。今のあなたは~」


彼は容姿を事細かに説明してくれた。両耳は削がれ眼窩はぽっかり2つの穴、鼻は肉すら残らず骨と空洞が見え、舌は切られ全身の皮膚は無く赤い肉が人の形をしていて、鼻の部分以外からは血が滴っているそうだ。


初めて身体を眺めてみるが、ぼんやりと淡い黒の中でもぞもぞと何かが蠢いている。目の前の光の人型が言った赤い肉ではない。


「う、うわーー。あ、あの、あなたの言った見た目ではないんですが?ていうか何かが、中に・・・」

「ん?あぁ。黒くてぇ、中でもぞもぞしているのが見えましたかぁ?」


腕や腹の中で蠢く何かの見た目が気持ち悪くて、一応手で払おうと体に触れると、触れた部分と手首から先が砕け散った。


「う、えええ。ちょ、あの。」

「落ち着いてください~。ほらぁ、元通りでしょう~?」


砕け散った腕や腹や手首から先は、真っ暗な世界にぼんやりとした輪郭で無重力空間かの様に体から離れていったが、2秒ほどで体は元に戻っていた。


「あなたが見ているそれはあなたの魂本来の姿ですねぇ。ん~。目がないから”ガワ”が見えないんでしょうねぇ。まぁ、見えなくても仕事に支障はありませんよぉ。」


恥っず。狼狽しすぎた。建て直せ俺。ていうか俺の魂グロすぎるだろうが。もっと良い見た目にしてくれてもいいんじゃないかな?神様。 


「ま、まだ仕事をするとは言ってませんよ。それと、”ガワ”は肉体でいうところの皮膚だそうですが肉体とは別物ですか?話を聞いている限り欠損があっても肉体の様に思うのですが。」


「別物ですねぇ。魂が創り上げたあなたの形ですぅ。精巧なガラス細工か粘土細工というふうに考えてください〜。”ガワ”はあなたの状態を表すバロメーターにもなってくれますねぇ。」


「はぁ、細工ですか。ただの人形。だから痛くないんですね。というか、何も感じない。」


「そりゃぁそうですよぉ〜。痛覚なんか肉体に必要ってだけで魂には不要ですからぁ。」


「”ガワ”がバロメーターという事なんですが、現在の俺はどういう状態なんでしょう。」


「ん~。前にいた世界での何かしらが魂の記憶に影響を与えているんでしょうねぇ。このままいけば死んじゃうかもしれませんねぇ。」


え?それなら、このまま放置すればいいのか?


「ただしぃ、何年掛かるか分かりませんよぉ?もしかしたらぁ、無為に一世紀ぐらい過ごしたりしてぇ。それにぃ、確実に死ねるかも分かりませんしぃ。」


や、やっぱり止めておこう。


「そ、その魂の記憶というのが、肉体のあった頃の記憶の何かに影響を受けていると。だから、あなたの言った見た目になっているのでしょうか?」


「だと思いますよぉ。それにしてもぉ、自分を責め過ぎですねぇ。あなたその辺の罪人より責め苦を負ってますねぇ。同じ魂として見てられませんよぉ。」


「魂の記憶と肉体のあった頃の記憶は何が違うのでしょう。」


「ほとんど同じですぅ。でもぉ、魂の記憶の方がぁ、”たくさん”、”鮮明に”、”改変せずに”覚えておけますよぉ。」


容量と画質の違いって認識でいいのかな?それだけ?


「あぁ、決定的に違うのは~、魂の記憶は魂の血液みたいなものってことですかねぇ。」


???全く分からない。


「えーと、血液という事は、記憶が身体の中を駆け巡っているという事ですか?」


「いえいえ~。それは無いですねぇ。肉体において血液は体の中のあらゆる場所にぃ、時には栄養を~、時には酸素を運ばなくてはいけないですよねぇ。合ってますかぁ?」


「ええ。合ってると思います。」


理科で習ったような、気がする。


「魂の場合は~、魂が震えるとその時の記憶を何よりも優先して記憶してくれますぅ。震えるに至るまで詳細にですぅ。その記憶が、魂が震えると同時に全身を駆け巡るんですぅ。」


やべー、震えるってなんだろう。新出単語じゃん。


でも、記憶が血液ってのはなんとなく理解した。それでだ、


「記憶が駆け巡ると、どんな効果があるのでしょうか。血液なら栄養や酸素を運ぶ訳ですし。」


「魂が大きく成長しますぅ。何もせず呆然とこの場に佇んでいればぁ、魂というのは進化も退化も無く不変ですぅ。しかし、新たな記憶を手に入れる事によってぇ、魂が震える可能性がある訳ですぅ。その可能性を掴み取ればぁ、魂の望む成長が得られるわけですぅ。」


成長?魂が望む成長か。俺は現在魂状態で、今なお死にたいと思っていると。つまり、成長は死という事なのではあるまいか。さくさく続きを聞こうじゃないか。


「魂の記憶については理解できました。その際に言っていた魂が震えるとは何でしょうか?」


「魂が震えるとは~、あなたをあなたたらしめる記憶を守る為のものですねぇ。震えれば震えるほどにあなたたらしめる記憶は堅固な守りを得ますぅ。そしてぇ、さっきも言った通り大きく成長できますぅ。」


さて、核心ですな。魂さえ震えてくれれば俺は完全に抹消されると睨んでいる訳だが、というかまず間違いないだろう。では、教えてください。


「では、魂が震えるのはどんな時でしょうか?」


「ある魂は安寧をもたらした時にぃ、またある魂は災いをもたらした時にぃ。要するにぃ、魂によりけりですねぇ。」


な、は?いや、モヤモヤし過ぎでしょうが!


「すみませんが、大掴みすぎて理解できません。具体的にお願いします。」


「ん~。そうだなぁ。僕の知り合いは愛とか言ってましたねぇ〜。その他にも努力の実りとかぁ、強靭な精神とかぁ?をもたらした時に魂は震えますねぇ。」


「なんか曖昧なんですね。」


「曖昧というかぁ、ほいほい震えるポイントを教えてくれる魂はいないんですよねぇ。」


ふう。全く要領を得ないか。いや、質問の仕方が悪いのかもしれない。


「俺の魂はどうすれば震えますか?いや、というより震えるってまさか字面通りの意味じゃないですよね?」


「ええ、震えますともぉ。全身がブルブルとねぇ。冗談ではなく本当に字面通りですよぉ。魂の記憶の奥底にあるぅ、あなたをあなたたらしめるものぉ、それが欲するものをあなた自身が創出した時に震えますねぇ。


何があなたの魂を震わせるのかぁ、つまりぃ、あなたの魂が求めるものが何かぁ、僕にはまーーーったくわかりませんねぇ。ご自分で探して下さい〜。」


むむむむむ。言いたい事は分かったけど、何をどうすればいいのか。悩んでも仕方あるまいに。聞くべし!


「・・・。結局、俺が消えるには魂が震えればいいのでしょうか?それとも逆に、震えなければいい?よくか分りません。」


「魂が震えるとねぇ、記憶は全身を駆け巡りますねぇ、そしてぇ、魂の記憶に蓄積されますねぇ。蓄積されるのは魂の源泉を保護する為ですねぇ。そうすば成長できるんですねぇ〜。逆に魂が傷つくのはあなたの魂の源泉が穢された時ですねぇ。死にたい~、消えたい~、というのならぁ、穢すのが一番いいですよぉ。」


出たよ。新出単語。聞かざるを得んな。


「魂の源泉とは何でしょう?」


「ふぅ~。本来ここまで話す気は無かったんですぅ。新人なのにここまで深く魂について聞かれるとは~、僕の未熟さがバレそうでヒヤヒヤですよぉ。まず、魂つまりあなたはあなたを形作る源泉があるんですねぇ。魂の記憶の最底辺にてあなたをあなた足らしめるものですぅ。心臓だとか脳みそみたいな役割だと考えていいですよぉ。それぐらい大事なものなのでぇ。予めいっておきますがぁ、あなたのその源泉がなにかは知りませんよぉ。」


「えーっと、源泉とは形がありますか?心臓とか脳?何か分かり易いものですか?」


「あぁ、なるほどぉ。源泉の役割でなくそのものについてですかぁ。魂の記憶の奥底にあるんですぅ。つまりは?あなたの記憶ですねぇ。それも前にいた世界の記憶ですぅ。形はありませんよぉ。」


「どうすれば源泉がわかりますか?」


「自問自答を繰り返すことですねぇ。生きる目的は?あ、死にたいのでしたねぇ。えーと、そうだなぁ。あ、あなたがその見た目になった理由は何かですねぇ。うんうん。割といい問いだと思いますねぇ。」


「禅問答をしろと言うことですか。答えが無いのでは?」


「禅とは違いますよぉ。答えはありますぅ。あなたが魂の記憶の奥底に組み敷いた強固な土台が答えですぅ。ただし、誰からも正誤は得られませんがぁ。」


「どうすれば見極められますか。それさえ分かれば、あとは魂の源泉を穢して、魂を傷つけられる、消えて無くなれるんですよね。」


「えぇえぇ。頼もしい理解力ですねぇ。見極めは簡単ですよぉ。本来ならぁ、成功と失敗を繰り返して魂の源泉が何なのか理解するものですぅ。」


「成功と失敗とは何でしょう。何をすればいいのですか?」


「お仕事ですねぇ。業務を通じて魂が震える瞬間を見極めたりぃ、はたまたぁ、魂が穢れる感覚を味わったりぃ、それが成功と失敗ですねぇ。」


「分かりました。結局働かないと死ねないと。働かないとどうなりますか?クビになって殺してくれたりは・・・」


「さっき言った通り誰も殺せませんよぉ。転生させた本人ですら無理ですねぇ。働かなければ仕事が滞りますけどぉ〜別の魂が代わりをしてくれますよぉ。ちなみにですがぁ、自ら手を下さなければあなたには影響はありませんからねぇ。劇を見て魂が震えたり汚されたりなんて起きませんからぁ、仕事はしたほうがいいですよぉ。」


―自身が創出した時―ってのはそういう事か。主体的に動いて関わって行けという事か。劇見て死ねるならいくらでも見るもんな。


「一つだけぇ、ハッキリさせておきたいんですがぁ。魂歴はそれなりに長いのでぇ、ほとんど的を射ていると思いますぅ。でもぉ、間違いが所々あるかもしれませんからその辺はご理解くださいねぇ。」


「なるほど。分りました。」


信用せざるを得ないよ。あんた一人しかここにいないし、異世界転生って初めて会う人の事は基本信用してたけどな。アニメ特有の”お決まり”って事なのかな。ん?いやでもあの作品は、、考えても無駄か。


「さっきから気になっていたんですが、心はあるんですね。なんというか怒りだったり諦めだったり感情があるみたいですし。」


「えぇえぇ。ありますよぉ〜。嬉しい事楽しい事も感じられますよぉ。肉体が無いだけですからぁ、それ以外はありますよぉ。」


「脳みそも無いんですよね?なら心はやはりこの辺に?」


胸に手をあてる。


「ありきたりではありますけどぉ、そうなんでしょうねぇ。僕もどこにあるかは分かりませんねぇ。」


「・・・死にたいのは変わりません。鬱だったから死んだんですけど、鬱じゃなくてもやはり死にたいです。というか、今の俺は鬱ですか?」


「はい?鬱ですかぁ?あぁ、病気の事ですかぁ。魂に病気はありませんよぉ。」


「そうですか。なんかおかしいなと思ってたんです。興味が湧くし話すことも億劫じゃない。そうですか。治りましたか。」


まあ、どんな病気も死ねば治るよね。皮肉か。


「他に聞きたいことはありますかぁ?それと、仕事を引き受けて頂けるか回答が聞きたいですぅ。」


「分かりました。やります。」


もう、誰とも関わりたくないし、傷つきたくないしな。さっさと仕事を完遂して消え失せようか。


・・・父さんには申し訳ないことしちゃったな。どうしてるんだろうか。こんだけ不幸が続いたんだし、幸せにしているだろうか。本当にすみませんでした。


「まず、あなたは神様ですか?さっき”魂歴”って言ってましたが。一応、転生って神様がチート能力をくれるとか駄女神がイチャイチャしてくれるとかテンプレですよね。」


「まずぅ、僕はただの魂ですぅ。そして男ですよぉ。目が見えないんだから仕方ないかぁ。それと、チート能力はありますよぉ。僕が与えた訳ではありませんがぁ。」


男か。子供かな?僕っ娘なるアニメには定番のやつか何かかと思ったが、まあどうでもいいか。


「チート能力は仕事に活かせますか?」


「えぇもちろん〜。仕事の為の能力ですよぉ。あとは自分の身を守る為ですねぇ。死なないとは言いましたが、魂は脆いですからぁ。粉々にされると僅かな時間ですが行動不能になりますからねぇ。」


行動不能って言っても、さっきは2秒ぐらいで元通りだったしな。何がそんなに危険なのだろうか。


「でも死なないんですよね。しかも元に戻る。身を守るも何もないと思うんですが。」


「そうもいかないんですよねぇ。同じ魂同士が喧嘩したりとかぁ、人間が変な魔法で魂を引き裂いたりだとかぁ、余計な」


ふぇ?


「ちょ、ちょっと待ってください。魔法はまあ、なんとなく想像が付きました。それもテンプレですよね。魂を引き裂くとはなんですか?それと魂同士の喧嘩って俺は大丈夫なんですか?新人でなんにも分からないんですけど。」


「魂を引き裂くとは文字通りですぅ。痛覚は無いから痛みもありませんよぉ。でも〜、痛覚が無いのが厄介でぇ、引き裂かれた事にすら気付かないなんてよくあるんですよねぇ。そうすると、”ガワ”が更にヒドイ事になりますねぇ。」


アニメではお気楽展開に奴隷買ってハーレム、更には俺TUEEEだったはずだが、アニメはアニメか。俺もお気楽展開で消え去りたかったな。


「引き裂かれた魂を使って何をしているのかは〜、追々教えますぅ。魂同士の喧嘩は単純ですぅ。能力バトルですねぇ。何回も言いますけど死にませんからぁ。狙いは魂の取り込みか支配かぁ、魂によって目的は様々ですねぇ。」


ん~。アニメだとこれは巻き込まれるフラグ?というやつだよね。ことごとくアニメ情報は外れたし、フラグも無効だろうな。


「他の魂もあなたと同じような仕事をしてる訳ですか?」


「同じじゃないですよぉ。色々役割がありますからねぇ。まぁ、他の魂の仕事は今考える必要はないですねぇ。」


「なるほど。結局俺は何をすればいいのでしょう。」

 

調整人バランサーですぅ。」    

「あなたも調整人バランサーですか?」


「えぇ、そうですよぉ。それとぉ、名前を教えていなかったですねぇ。バラさんとお呼びください〜。」


「どうも。瀧川」

「ストーーーップ!名前は教えてはいけませんよぉ。真名と言って名前も魂の源泉のひとつの可能性が高いんですよぉ。仮名をつけてください〜。」


源泉のの可能性か。源泉は複数の記憶の集合体で、かつ名前も含まれているかもしれないと考えられるな。んん。異世界転生アニメっぽいな。推理の重要性は各主人公を見て学んだからな。積極的に考えて推論を出していこう。間違えても死ぬだけだし。むしろ積極的に間違えるべきかしら?いやいや、材料を揃えてからだ。


他の魂は、ほいほい震えるポイントを教えないとか言ってたよな。震えるポイント、つまり、源泉が欲する何か。それを教えないのか。なんでだろう。普通に考えれば危険だからだよな。


そう考えると、逆に教える事によって早い事この世界から抹消して貰える可能性があるのではなかろうか。ん~。やはり判断するには材料不足な感が否めぬ。指示に従うべし。


「仮名ですか。」

「僕の場合は調整人バランサーですからぁバラさんですねぇ。あなたは新しい調整人となる訳でぇ、バラさんは僕と被るから別のをどうぞぉ。」


「あ、えーとそうだな。」


瀧川慶多(たきがわけいた)。タッキー、タキさん、たきがわー、けいたはあんまり呼ばれなかったな。元嫁もタキ君だったし、けいたか。よろこびが多く、慶事に多く囲まれますように。うーん、何がいいんだろうか。


「難しく考えなくてもいいですよぉ。バラ2でもいいしぃ、新バラさんでもいいしぃ。」


いや、雑すぎるだろ。新人教育の何たるかを分かっちゃいない。そこはバラさんを譲る事によって仕事に対する責任をサラリと持たせる事が出来るのに。


名前、女だったら美幸(みゆき)だったらしいからな。どうしたものか。慶多と美幸か。けいみ、けいこう?、ミタ、こうた、、幸多(こうた)悪くないよね。


「こうたでどうでしょうか。」

「こうたぁ?ほーん。いいと思いますよぉ。珍しい名前ですねぇ。」


「変ですか?」


「いや〜変わってるだけだねぇ。変ではないよぉ。では新人君!調整人バランサーについてだけどぉ、お手本と実地訓練から始めようかぁ。魂については概ね理解してもらったしぃー。本来~、魂講座は最後にやる予定だったんだよぉ。つまらないからねぇ。それをまさかぁ、深堀されるとは~。予定が大幅変更だよぉ。」


「すみません。」

「いやいやいいよぉ~。期待の新人だねぇ。僕なんかすぐに追い抜かれちゃうねぇ。」


追い抜かれるかぁー。元嫁の不倫相手が同じ事言ってたな。俺の支店時代の新人教育担当だったな。今どうしてんだろうか。子供のことも気になるな。はぁ、子供か。今は五歳ぐらいか。あいつが父親面してんのかな。いや、ほんとの父親はあいつかもしれないしな。てことは、父親面してるのは、


「・・・おーい。聞こえてるかぁーーい。どうしたんだい?黄昏れちゃってぇ。」


「あ、すみません。えーと、前の世界ってどうなってますか?」


「あ~、分かりませーーーん。残念だけどねぇ。君のいた世界に僕は関わってないからねぇ。君自身が調べるしかないよぉ。それか同郷の魂に頼むかだねぇ。」


「え?いるんですか同郷が。」


「いると思うよぉ。魂はたくさんいるしぃ、別の世界からの転生もざらにあるしぃ。まぁ、魂は数が多い上に同郷の魂を探すのはホントに骨が折れるよぉ。かなり特殊だからねぇ、同郷探しってのは〜。」


「どうすればい」


「また今度ねぇ。今の君では無理だよぉ。君のナリはバケモノだしねぇ。第一印象は大事だよぉ。いくら魂同士といってもまず見るのは”ガワ”だからねぇ。」


ストレートが過ぎるぜ。バケモノって。ガンガン俺の傷えぐるなあ。元嫁の両親に言われたな。嫌な記憶だよ、全く。


「バケモノ、ですか。」


「まずは目が見えるようになれるといいねぇ。少なくとも僕の言葉の信ぴょう性も増すだろーからさぁ。ここが異世界でぇ、君の見た目はとても恐ろしいってのがさぁ。それから死ぬ方策やら同郷探しやらを考えてみればいいんじゃないかなぁ。」


確かに!死ぬ方策か。考えてなかったな。漫然と仕事をこなそうとしていたな。とにかく、仕事を覚えて、魂の源泉を穢すのが最短のような気がするな。


「分かりました。とりあえずよろしくお願いします。」


「とりあえずねぇ。とりあえず従っときますぅ、てことかなぁ?うんうん。それでいいよぉ。よろしくぅ。では、早速ーー、村を見にいってみよーー。」


人型の光ーバラさんーが手招きするので後を追う。


どこまでも暗い場所だがどこに向かっているのか?


ていうか、敬語は止めたな。新人研修だから先輩風吹かせたいんだな。気持ちは分かるが悪手だぞ。パワハラがないことを祈ろう。そういえばここって人事部あるのかな?まあ、追々分かるだろう。


・・・・・・・・ん、あれ?


もしかして暗いわけじゃなくて、目が見えないから暗いのか?だとしたら何でバラさんは光ってるんだろう?


「それはねぇ、魂だからだねぇ。そもそも仕事において肉体は見る必要がないからねぇ。」


ん?俺何も言ってないけど。


「何も言う必要はないよぉ。心を読める能力があるからねぇ。」


『それにぃ、さっきから僕は何一つ話しちゃいなかったしぃ、魂同士の意思疎通に声は不要だもんねぇ。君耳も聞こえないでしょー?』


『さっきからですか?会話していると思ってました。声も出していたんですが。』


『何言ってるのかさっぱりだったよぉ。舌がないからねぇ。現にほら、「・・・」

ね?聞こえないでしょうー?』


バラさんは何か声に出していったらしいが何も聞こえない。俺には五感がないのか。つまり魂が傷ついている状態なのか。


『そういう事だねぇ。元からってわけでは・・・ないみたいだねぇ。ふーん?やっぱり怖いねぇ。何をしたらそんなナリになるのかねぇ。』


『何もしてないんですけどね。俺自身も分かりません。』


・・・・・。もしかして、今まで俺が考えていた事も全部読まれてるのか?オーマイガッ!


『フン。っと。着きましたぁ。ここが君の初仕事の村。オオタ村ですー。』


鼻で笑った事が回答と見たり。だが、全て読んだが知らないふりをするというのか。大人だ。ここはひとりの大人として歩を共にすべきであろう。


バラさんは俺が見えるようにと、一歩横にズレてくれた。すると視界にはやはり真っ暗闇が一面に広がっていた。しかし、そこにはたくさんの魂が動いていた。バラさんみたいな人型の輝いている魂や、まんまるな野球ボールみたいな魂、四足歩行の魂や、真っ暗闇の中におぼろげに見える揺らいでいる人型の魂、たくさんの魂がそこにはあった。初めての世界で初めて見たたくさんの魂は壮観だった。


『うーん?どうかな?何も考えてないところを見ると気持ち悪くて絶句ってとこかなぁ?』


何いってんだコイツ。感動してんだよ。


『ヒ、ヒドイなぁ。心は読めると言ってもぽつぽつ出てくる単語だからねぇ?”あれも魂あれも、あれも”って思われても分かるはずがないよぉ。』


『あれ?感情は読めないんですか?』


『無理だよぉ。何を考えているかは読めても何を感じているかは読めないよぉ。』


『そうなんですか。すみません。思った事とはいえ、以後気をつけます。』


『ハハハ。いいよぉ~。素直が一番だしねぇ。思考や言葉を隠すのは訓練がいるよぉ。』


『意思疎通は無意識でも出来るものですか?さっきから普通にやり取り出来てますが。』


『無理だねぇ。単語から僕が読み取ってるんだよぉ。できれば声に出して欲しいなぁ。声を出してる時は魂での意思疎通が出来てたしぃ。』


『あ、すみません。これでいいでしょうか?』

『うんうん。完璧だねぇ。』


『魂同士の意思疎通も訓練ですか?』

『そうなるねぇ。すぐ出来るよ。赤ちゃんが言葉を覚える訳ではなく、子供が知らない人と話すぐらいのレベルだからねぇ。』


ん?要するに簡単だって事だよな?少し勇気がいるぐらいかな。

『・・・。簡単だって事だよぉ。とりあえず仕事を始めようかぁ。』

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