18 フランVSリッチ(後)
リッチが発動させた〈
これは基礎となる上級魔術である〈
上級魔術にそれだけ強化を加算すれば、その威力は超級魔術に匹敵する。つまり魔術の段階を引き上げる技能であり、そんなことができる者は限られてくるのだ。
リッチの両手から雷の龍が大雨のように降り注ぐ。まさに雷雨だ。これを回避するのも、防御するのも詠唱中の私では不可能。
「ふははははは! 己の愚かさを呪って死ぬが良い!!」
勝ち誇ったリッチの笑い声が、スラム街の上空にこだまする。雷の龍たちはそのまま私を食らわんと大口を開けて迫り、
「〈
上空から降ってきた光によって消滅した。
「はっ?」
間の抜けたリッチの声がやけに痛々しく響く。
無数にいた雷の龍は、そのすべてが天から降り注ぐ光の雨に当たって霧散していく。向こうが雷雨なのであれば、こちらは光の嵐だ。その光の一本一本が雷の龍よりも強く、更にそれが吹き荒れるように空中を舞っている。
光が舞い終わった頃には、辺りを支配していたはずの雷がほどけ、かき消えていた。私の回りにあれだけいた雷の龍は、数秒の内に一匹もいなくなってしまっている。逆に私が生み出した光は粒子となって、空間を自由に泳いでいた。
「な、なぜだ!? 〈
取り乱すリッチに杖の先を向け、私は笑ってやった。
「〈
「ま、間違い?」
リッチは動揺を隠すでもなく、私の一挙手一投足に怯えている。私の言動が、自身の運命に直結していると理解しているようだった。
「まず1つ。どれだけ強くしても所詮は上級魔術。超級魔術には勝てない」
その辺りが私が〈
だが〈
だからこそ、私は驚いたのだ。〈
まあそもそも私が言っていることは、〈
そんな私の言葉に、リッチは明確な動揺を見せた。
「超級魔術だと!? 嘘を吐くなバカめ!! 魔族ならともかく、人間では一握りしか到達できぬ極み! アンデッドとなろうと辿り着くのは容易ではな、ぐあっ!!」
私は杖先に魔力で指示し、リッチの右腕へ光を降らせた。光に当たったリッチの右腕は、元から存在しなかったかのようにキレイに消え去っている。
〈
「私がまだ喋ってる途中でしょ。それに目の前にその一握りがいるだけのこと。あんまり騒がないの」
苛立ちをぶつけるように言うとリッチは大人しくなる。肩を震わせているのは、恐怖なのだろうか? アンデッドに精神作用は無効なはずだったけど、内から生じる感情は例外なのかもしれない。
「2つ目は詠唱を開始した相手を放置したこと。詠唱を開始したからと言って、自分の最大魔術と同じ階位しか使えないと思うのは愚かだよ。だからこそ私の詠唱を放置したんだろうけど」
私が最初に詠唱を始めて見せたのは、そうやって相手の対応をうかがったというだけのこと。対応してくるのなら、こちらも対応してやればいい。だが対応してこないのなら――結果は見ての通りだ。
奴がこちらを侮ったのは、おそらくだが〈
というか。それ以外に、相手の詠唱を放置した上で後出しで詠唱を始める理由が思いつかない。
「最後に3つ目。これが一番重要なんだけど――」
私は答えを告げる前に杖先へ魔力を集め、〈
春の陽だまりのような極大の範囲を持つ聖光が、リッチめがけて落ちてくる。スラム街のこの一帯だけ、まるで真昼のように明るくなっていた。
「私は人間だよ」
「ば、ばかなぁあああああああ!!!」
超級魔術の光に囚われている以上、転移は使えない。また、アンデッドであるリッチがどれだけ防御魔術を重ねようとも防ぐのは不可能。
現在、世界において確認されている最大級の聖なる光なのだから。生み出されたリッチ程度に抗えるはずもない。
リッチに降り注いだ光は徐々に細くなり、帝都の闇を取り戻す。そこにアンデッドの気配はなし。リッチは塵も残さず消滅した。
「ちょっとやりすぎたかな……」
リッチが消滅したことで、少し頭が冷静になる。いくらあのリッチの眼窩の炎が蒼かったからと言っても、苛立ちによって魔術を振るうのは魔術師失格だ。
私の中で整理できる感情ではないけれど、魔族じゃなかったんだからもっと丁寧に倒してもよかったはず。その方が私の経験にもなったし。
「あれじゃあ強者による傲慢な戦い方と一緒だ」
こんな戦い方、本当の強者には通用しない。今回はザコだったから良かったものの、本当に隠し玉なんかを持っていたら逆転されていた可能性だってあるわけで。
私はため息を吐いて、冷静さをかなり取り戻していく。同時に反省する感情も沸き上がってくるが、今するべきことは他にもあると頭を切り替えた。
「先生のところへ行かなきゃ。負けるとは思えないけど、どんな敵がいるのか……」
〈
するとその瞬間――。
「ッ!! これはっ!?」
まさにスラム街の最奥。
先生が向かった先から、おぞましいほどの魔力が吹き上がり始めた。
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