30 世界最強(2度目)
「じゃあ次はどうします? 共和国にでもいきますか?」
王城を出て、私は気軽に振り返って訊いてみた。
「強ぇやつがいるとこならどこでもいい」
「我はお主らに付いていくしかないからのぅ。力を取り戻す為にも」
先生もティーナも具体的な方策を返しては来ない。私は小さくため息を吐きながら、次は共和国にしようと心の中で決定する。迷宮に潜れれば、先生も少しは満足するはずだ。
強敵という響きで思い出すのは、魔王という存在。【西の魔王】が言っていたように、魔王というのが残り3人なら、いつかぶつかるかもしれない。その時、私がいたら足手まといになってしまう可能性もある。
それでも、先生がどこまで行くのかを見届けたいから。私は人間社会での見守りも兼ねて、先生と一緒に行くのだ。
ティーナに関しては……まあどうでもいいというか、警戒はしていない状態である。話が通じる相手なのは既に理解しているので、相手が超常の存在であっても恐れることはない。
本当に怖いのは、話が通じない強者だからだ。意思の疎通ができれば、始祖吸血鬼であろうとも怯える必要はない。
それに、先生と一緒にいれば始祖吸血鬼である彼女ですらおとなしいのだ。どうやら力が制限されている今の状態ではどうやっても先生に勝てないから、らしい。もちろん、先生の〈
ティーナが私たちの旅に付いてくるのは、先生と一緒にいればその身柄の安全性や身分を確保されることがひとつ。そしてもうひとつは、旅の途中で力を取り戻すなんらかの手段を模索する為だ。
その2つの条件がある限り、ティーナは私たちの旅を邪魔することはないだろう。そういう意味でも彼女は無害なのだ。
そんな彼女へチラッと視線を向けると、明後日の方向に顔を上げていた。その方向になにかあるのだろうか。
「ティーナ。なにかあった?」
「ん? ああ……まあノーライフキングを倒した我らが気にするほどの相手でもない、ということじゃ」
「……なんの話?」
「気にするでない。今はまだ、な」
含みを持った笑みに、私はどことなく嫌な予感を覚えながらも話を打ち切った。語りたくないのなら、別に突っ込むことでもないだろう。
先生はどこを見ているわけでもなく、ただぼーっとしているだけだ。目つきが悪いので最初こそなにか不機嫌なのかと思った顔も、今では感情が読み取れるところまできている。
「先生。では次は共和国にしますね」
「おお。任せる。帝国からも情報が来るんだろ?」
「冒険者ギルドを通して伝えるって話でしたね」
そんなすぐに情報が来るとは思っていないが、定期的に冒険者ギルドに問い合わせはした方がいいだろう。
"強者"と"蒼い炎を使う魔族"の情報。どちらも人間社会にいる以上は手に入りにくい情報だろう。
"強者"に関しては、もし見つかっても闘技場の王者――獣王程度の存在しか見つからないはずだ。英雄をも凌ぐ強者の存在というのは、そこらへんに落ちているものではない。それこそ英雄を使って探して見つかるかどうか、といったところだろう。
"蒼い炎を使う魔族"なんて、もっと情報が希少だ。魔族の多くが属していた【西の魔王】の軍勢は既に壊滅している。
【西の魔王】の四天王ですら、あえて同じ炎魔術だけを使って相対した私が勝てたほどの相手だ。奥の手を使ったとはいえ、水魔術を使っていればそれすら使う必要もなかっただろう。
そんな軍勢に"蒼い炎を使う魔族"が従っていたはずがない。なぜなら、その四天王こそが"蒼い炎を使う魔族"であり、蒼い炎を扱えるのは炎魔術について一定以上の技量を持つという証明でしかなかったから。しかし、そんなヤツは四天王のアイツを除いていないという話。
つまり、"蒼い炎を使う魔族"は――あの四天王のアイツ以外に――【西の魔王】の軍勢にはいなかった、ということ。
そうなると魔族探しは一気に難航する。【西の魔王】に属さなかった魔族が隠れ住んでいるのを見つけるしかないのだから。
他の3人の魔王については、【西の魔王】によってつい最近人間社会にもたらされた情報だ。どこにいるのかもわからない魔王たちから情報を得るのは容易ではない。
となると、北、東、南の魔王に接触し、わざわざ王国辺境の村を襲った魔族をあぶり出さなければならなくなる。そんなことが帝国にできるとは思えなかった。
だってノーライフキングすら、先生がいなければ討伐できなかったのだから。英雄を指揮下に収めているのにその程度の戦力すら保持していないのだから、他の魔王に探りを入れる力などもっていないだろう。
結局、"強者"と"蒼い炎を使う魔族"の情報。どちらも自分の足で手に入れるしかないのだ。
「位置的に近いのは、【北】かな……」
無意識の内に思考が口からこぼれた。
私の村は人間社会でいえば、北の方に位置する。辺境故に、徴税官が訪れるまで滅んだこと自体が発覚しなかった、と師匠であるナーリーに後から聞いた話だ。
だが共和国は南。"蒼い炎を使う魔族"だけを探すなら、まず接触すべきは【北の魔王】だと思うけど。
でも、まずは先生の求める"強者"を優先しよう。私情を切り捨てることはできないけれど、遅かれ早かれ魔王たちには接触するわけだし。
それに、『迷宮』という見えている難関を無視することも難しいだろう。今度こそ、そこに先生が求める"強者"がいるかもしれないし。いないとは思うけど。
「そういえばどうでした? 先生にとってノーライフキングの強さは。今まで倒してきた相手とくらべて」
思考を切り替えるように、先生へ話題を振る。今の優先順位は、"魔族"よりも"強者"が上だ。先生の意見を聞いておいた方がいいだろう。
しかし、先生は無感情に首を振る。
「同じだ。アイツは俺より弱かった。今までのヤツと同じだ」
そういう感想になるだろうな、と予想していた通りの答えが返ってきた。先生にとっては、スケルトンもノーライフキングも同じなのだろう。
どんな存在であっても、ほとんど一撃の下に打ち砕けるのだから。
「ああ、でも失敗もあったぞ」
「失敗」じゃと?」
思わず私は声を出し、同じようにしたティーナと声が重なる。先生が戦闘において失敗などとは珍しい。季節が陽気な時期なのに、まるで雪でも降るかのような発言だ。
しかし先生はそんな私の驚きを意に介さず、悔しそうに唇を噛みしめる。
「アイツが放ったよくわからん力に吹き飛ばされたことだな。幸い、〈ライトニング〉で空中の姿勢を整えられたから追いつけたが……もしそれができなかったら、ティーナがいなきゃ逃してたかもしれねぇ」
状況をティーナに説明してもらうと、ノーライフキングは逃げる為に自分に魔術を放ったとのこと。威力は低いが押し出す力の強い魔術だったので、先生はそれに吹き飛ばされたらしい。
先生は城門の前で、ぐっと握りこぶしを作る。そこにはまるで親を殺された人間のような悲壮感が漂っていた。
「だから俺はまだまだ弱い。あんな魔術は発動する前に潰すか、無効化できなきゃ話にならねぇだろう」
「いや、そうですかね……?」
ティーナからの状況説明だけど、ノーライフキングが捨て身で放った魔術であることがわかる。それも不意打ち気味に放ったのだと。
だから防げなくても当然で、その後の対処が重要なのだと私は思う。相変わらず〈
私が別のことを考えている間も、先生の顔は徐々に険しくなっていく。獲物を逃して涙する肉食獣のような顔であり、見慣れない人であれば怯えてしまうような鬼気迫る表情だ。
「だからこそ! 俺はまだまだ強くならなきゃならん! 次の強いヤツを、早く見つけないとな!」
先生の信念はずっとひとつ。
自分がこの世界で生きていけるかどうかを確かめたいだけ。
つまり先生の強さを測れる物差しが必要なのだが、現在は彼を測れる物差しなど見つかっていない。
故に、先生は強者を求めるのだ。戦闘狂でも快楽殺人者でもなく、ただただ自分の強さを知る為だけに。
とはいえ、彼がどれだけ強いのか知らないのは本人だけ。
つい先日から一緒になったティーナですら、先生の強さは認めているところだ。
私がティーナに視線を送ると、彼女は彼女で思うところがあるのか、呆れた顔で首を振っている。
ああ、あれはこの間までの私だ。先生の発言が意味不明すぎて理解を拒んでいた時の私。
だから、この後にティーナがなんて言うのかもわかっている。
その言葉はきっと――。
「いや、エクレア。お主はもう世界最強じゃ」
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ここまでお読みいただきありがとうございました!!
よろしければ、星やハートの評価を入れてくださると嬉しいです!!
また、もうしてくださっている方は改めましてありがとうございます!!
……とはいえ、正直なところ執筆活動が難しくなっているのも事実です。
第一章から丸一年開いてしまうとは、自分でも想像していませんでした。
ただエタることは考えてませんので、いつになるかはわかりませんが完結だけはさせます。
なので、気の長い方はお待ちいただけると幸いです。
あとは宣伝と言い訳なのですが……。
執筆活動が停滞している一因として、今は動画制作が楽しく、執筆の優先順位が相対的に下がっているというのもあります。
Youtubeやニコニコにて【VOICEROID】の【ゲーム実況動画】を投稿しているので、興味がある方はどうぞ。
Youtube → https://www.youtube.com/@datesubach
ニコニコ → https://www.nicovideo.jp/user/16501865
(直リンの誘導っていいのでしょうか? ダメだったら修正します)
災厄のライトニング ~初級雷魔術しか使えないが、生き抜くために俺より強い奴に会いに行く。いいえ先生、貴方は既に世界最強です~ 伊達スバル @Sue_nofriends
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