謝罪
「入るよ。」
ノックをして声をかけてから扉を開ける。
「あ、おにぃ。おはよ!」
「なんだ、元気じゃん。おはよ」
「もちろん。めっちゃ寝たからね。今すぐにでも部活に行きたいくらいだよ。てか手どったの?大丈夫?」
「ダメ。超痛い」
会話が始まってしまった。言い出す勇気が出ない。
「どうしたの?深刻そうな顔をして。」
10分くらい下らないことを話して一瞬会話が途切れてしまったときに聞かれる。俺の知り合いは察してくれる人が多すぎる。
「……ごめん。お前がカツアゲされてるの無視した。もしかしたら、俺が間に入れてたら……。」
「なんだ、そんなことか。別にいいよ。おにぃの貧弱な体で止めてもけが人が増えるだけだよ?」
「え?」
俺の真面目な謝罪をすり抜けて平然としている。
「それよりさ、なんかおにぃ私が寝てた間に大人の余裕?みたいなの出たね」
こいつはお人好し過ぎる。速水と全く同じ。人のことを考えすぎて自分のことをおろそかにしてる。
でも俺は速水を追い詰めた速水の親みたいにはならない。俺は速水を追い詰めた世間みたいには接したくない。俺の存在だけで妹を守れるとも思ってないけれど……速水にも手伝ってもらってもらえれば多分できる。
「俺のこの一週間の話、聞いてくれる?」
「うん。」
静かに返事を返してくれる。これじゃあどっちが年上だかわかんないな……。
「えっと、とりあえず、その速水さんに会ってみたい。明日連れてきて!」
「分かった。」
元々会ってほしかったからちょうどいい。
暗くなるまで馬鹿みたいな話をした。
そして暗くなったら母と父が病室にやってくる。誰よりも意識が戻ったことを喜んだのは母だった。父が喜ばなかったわけじゃなくて母の喜びの大きさが大きすぎただけ。
そして親も来たところで担当医の方から妹の怪我の重さについての話になった。幸いなことに怪我の影響はほとんど出ないという。痕も残らなければ後遺症もない。
治るのも初見の時の予想よりもはるかに早くて次の大会には出ることができるだろうとのことだった。
この話には家族全員自分のことのように喜んだ。大会で結果が振るうかは別として、頑張ってることを知っている人には報われて欲しい。そう考えるのは自然だと思う。
そこで担当医の方の説明は終わった。
それからようやく家族全員、水入らずの時間になった。
母も父も各々話したい事が一週間分たまっていたから何時まで経っても話し終えることができなかった。
お見舞いの人が帰らなければいけない時間になっても話し終わらないから明日も来る約束をした。
俺は速水を連れてくることを約束して。
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