速水

「君の家もこっち側なんだ。というかそろそろ話してくれる気になった?」

 そう言って後ろをついてくる速水に適当に言葉を返しながらいつも俺が使っている電車のホームまで歩く。

「あ、今朝のお姉さん。今朝、ありがとう。お姉さんのおかげでね、理咲ちゃんに会えたんだよ~。」

 話しかけていたのはまだ小学生に上がったばかりに見える子供。

「良かった~。今度からはちゃんと気を付けてね。」

「うん!」

 元気で『大人』と違って笑顔だった。


 速水に話しかけていた少女はそのまま友達らしきところへ走って行ってしまった。速水が遅刻した原因なんて興味もない。

 それが例えば『見ず知らずの人を助ける』みたいにしたところで評価にならない、くだらないもののために遅刻したとしてもそれはそれを選択した自分の選択だから。

 でももしも、俺が大人になった時にいたのが俺じゃなくて見ず知らずの人でも助けるという選択肢が頭の中にある速水だったら俺の妹は入院する必要はなかったのかって考えてしまう。

 そんなことを考えていたからかつい、口から洩れてしまった。

「もし、…。速水がカツアゲを見つけたらどうする?」

「んー?カツアゲでしょ。止めに入るんじゃない?人がいるってわかればそういうのってやりにくいだろうし」

「周りが暗くて、カツアゲされてる人の顔が見えなくても?」

「なんで見えないといけないの?

 ?」

 強がっていうでもなく、噓をつくでもない。馬鹿にするわけでもなく、ただ純粋に『』という感じ。

 速水の当たり前と俺の当たり前が全くもって違うということが改めて認識できた。

「なんでそんな風に」

 生きていけるのか。そう聞こうとして言葉に詰まってしまった。

 多分聞いたところで理解は出来ないし、人の目を気にしないってことは俺にはできないから。


「間もなく8番線に電車が参ります。黄色い線の内側でお持ちください」

 そんな毎日の通学で聞いている聞きなれたアナウンスが流れてくる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る