起床

「おはよ」

 速水が珍しく遅刻しないで学校に来る。

「ん、おはよ」

「腕、どうだった?」

「ひびだって」

「そっか……。ノート後で写真送るね。」

 そんな会話をしている俺と速水を奇怪なものを見るような目で見られる。それはそうだろう。

特に切片もなかったはずなのに、こんなにも仲良くなってるんだから。

 クラスの人から嫌煙されてしまってもいいやって思えるほど、速水と話すのは心地がいい。



 速水と一緒に家に帰ってる、途中駅のホームで携帯が鳴る。親からだった。

「もしもし。母さん?どうしたの?」

「閑が、目を覚ましたって……。病院行ける?」

 慌てて電話をしてくれたと思う。声が震えていた。

「もちろん、行く。母さんどこにいるの?」

「今、職場に居て……どうしても抜けられないから、仕事終わってから行くわ」

「オッケー。電車来るから切るね。」

 そういって電話を切る。

「ごめん。妹が起きたみたいだから病院行ってくる。」

「ほんと!いえいー!」

 何も知らないはずなのに何も聞かずに自分のことみたいに喜んでくれる。速水と話していると本音をぶつけられるってこんなにも楽なんだ、って思える

「良ければ速水も一緒に来ない?」

 何となく誘ってしまった。速水と妹は気が合うと思うから。

「遠慮しとく。家族水入らず話したい事あるでしょ。」

 ……多分、俺は無意識のうちに速水を使って自分に逃げ道を作ろうとしていた。それを察してくれたかは分からないけど断ってくれてよかった。


「話したい事、話すだけなんだから気楽にいってらっしゃい。それとも正直に話したら怒るような人なの?妹さんは。」

 そんな風に背中を押され電車を降りる。気楽ではないから困るのに……。

 通いなれたといっても過言じゃない病院までの道を歩く。話したい事を一つ一つ考える。


 まず、謝ろう。それは確実。

 それに仇はとったから大丈夫だよって言いたい。

 考え始めると話したい事が溢れてくる。この一週間は俺にとって一生で一番成長できたと思ってる。

 それの話とかをして盛り上がれたら楽しいと思う。そんなポジティブな感情と見捨てた負い目からくるネガティブな感情が拮抗している。


 ものすごい怖いけど……この間、速水に向かって叫んだ時よりもずっと

 そんなことを自分に言い聞かせて病院の受付を済ませる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る