(3)大人と子供の定義を跨ぎなさい。
大人ではない選択
学校が終わってから、病院からの帰り電車で突然、今日のことが全て今のことのように感じる。
気にしない。気になる。思い出す。思い出さない。何も感じない。瞼の裏に移る景色。速水のいない景色。空白にすらならない何も変わらない景色を……。昨日の夜見た暗がりに歩いていく速水を。俺が考えても仕方のないことが頭の中で滑っていく。
そんな子供っぽい感情が心を支配される。まるで速水のような感情だとあいつの顔が浮かんでくる。それと同時に黒板に書かれた『0』の文字が頭にうかぶ。
体の芯が『こうじゃない、そうじゃない』そんな風に必死に訴えかけてくる。
……これは理性ではない。人間が進化するうえで切り捨てた本能だとか『大人』には邪魔でしかない欲なんだろうな。理解している。
だから無視をして平気な顔をして生きていける。
子供のころの俺なら学費の他にお金を払ってまで学校に行ってなかったかもしれない。何なら学費の価値も理解してなかったと思う。今でも働いている人ほど理解しているのかと聞かれれば当然理解できない。
何故なら俺は『大人』の初心者だから。
気づくともうすぐで昨日、私服姿の速水を見たところだった。何かの嫌な予感のようにポツリ、ポツリと雨が降り始める。街中の人は当たり前のように傘をさす。
その『当たり前』の流れを無視するように、暗い街の真ん中でずぶ濡れになっていたのは速水だった。
誰にも気にされず、流れにすら無視をされる。そんな速水を大人なこの目は見せてくる。
何を思ったか正確には分からない。ただ結果は残ってしまった。
俺は速水を見つけてしまった後、次の駅で降りた。
家まではかなりある。その代わり速水を見たところまではとても近い。そんな駅に。
後悔しか残らない。あいつのために何かして何になる。何ができる。
分からない。でも多分、見なかったことにするよりはマシ。駅の構内で強くなり始めた雨を見ながらそんなことを思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます