過去
『コンッコン』控えめにノックをしてスライド式の白色のドアを開ける。
「起きてない?」
ドアを開けてから一番最初に目に入ってくるところに置かれたベットには俺の妹、
俺が入ってきたときにかけた声には帰ってくることがない。
俺の妹がこんな状態で見つかったのは二日前、家の最寄り駅の近くの路上。
中二の妹はバスケ部に入っていて練習にいそしんでいた。二日前、俺が学校を出る時に妹から家族用のグループに連絡があった。
『部活の後輩を家まで送っていくから帰るのいつもより20分くらい遅くなるね~』いつも通り軽い文章。お
いつも通り学校を出て、連絡があってから30分くらいして最寄り駅に着いた。
電車から出るころにはあたりは暗くて、肌寒かったのが印象的な夜だった。無人駅に近い改札を抜けると目の前には人通りも車通りも少ない道路。
そんな利用者の少なさからかここには電灯が少ない。そんないつも通り不気味すぎるところを通り俺がいつも自転車を置いているところに歩く。
「おい、有り金、全部って言ってんだろ?全部。意味わかる?」
「コッホ、それで全部です」
俺が自転車置き場に着くとそんな男女の声が聞こえてきた。
脅していると思われる男の人の声は聞いたことがない。女の人の方の声に関してはのどを蹴られたのかまともに声が出てなくて聞いたことがあるかとかよりも、何を言っているのか判断するので精一杯だった。
会話の内容からカツアゲであることは明白だった。……今、勇気をもって止めに行くなんて無理だし、警察に連絡するのだってカツアゲしている人に通報したのが俺ってバレて因縁をつけられたら怖いから連絡できなかった。
そして俺は自分に何も見ていない、何も聞いていないと暗示をかけて帰ってきた。
「ただいま」
さっきまで暗く、恐ろしくて、不気味な駅にいたとは思えないほどの明るくて暖かい照明のついている家に着く。
「おかえり。
閑は報連相を徹底していて時間が遅くなる時は5分だろうと連絡を入れる生真面目な性格をしている。だから無断で遅くなるのは珍しい。ただ、中学生なんだし、連絡を忘れることもあるか、くらいの感覚だった。
そして連絡が来てから1時間がすぎた。帰ってくる気配もなければ、連絡もないから家族全員が心配でそわそわしてきたときに思い出してしまう。帰り際に見たカツアゲを。
「警察に捜索願を出してくる」
そう言って勢いよく立ち上がったのは父。母は比較的、冷静に妹の携帯に電話を何度もかけている。
どうしてもさっきの駅で見たものが気になって手早くその辺に放り投げられてた薄手なパーカーを羽織って自転車に乗る。
「
母さんの返事も聞かずに家を飛び出していく。向かう先は当然、駅。
駅に着くとさっきの、カツアゲをしていた人はいなかった。カツアゲの被害者と思われる人が路上で寝っ転がってるだけで。顔をよく見るために近づいてスマホのライトを当てる。
真っ暗の中浮かび上がった顔は間違いなく俺の妹だった。いたるところが腫れあがって、目の上が青く変色してしまってる。妹の状態は息も荒くて素人でもやばいと思わせるものだった。
そこからはよく覚えていない。誰に電話したのか。親か救急隊か。気づいたときには親がいて、救急車がいた。
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